【short-short】幸せな未来(493字)
夫に癌が見つかって、ホスピスに入院することになった。
年の差夫婦なので、夫を看取る覚悟は出来ていた。
そして、入院してすぐに夫に認知症の症状が出た。
毎日見舞いに行っているが、もう私のことを妻だと認識していないようだった。
私たち夫婦には双子の娘がいる。
娘たちは私によく似ていた。
2人とも結婚をしていたが、よく見舞いに来てくれていた。
あるとき、次女が1人で見舞いに行ったら、夫が次女を私と勘違いして抱きしめようとしたそうだ。
夫のなかの時計の針は何十年か戻ったようで、娘のことも分からなくなった。
しばらくして、おそらく今日が最期だろう、という知らせをホスピスからもらった。
娘たちと一緒に夫の病室に向かう。
夫は、今はもう老いた私と、昔の私にそっくりな顔の娘が2人いることに驚いていた。
夫を落ち着かせようと、そっと話しかける。
「これは未来の夢。私たちは将来結婚をして、双子の娘を授かるの。そして皆で老いたあなたを見送るのよ。幸せな未来でしょう…?」
夫は、そうだね…と笑顔で返してくれた。
そして私たち3人に見守られながら旅立った。
私と娘たちは、悲しみ、泣きに泣いた。
しかし、夫の最期の顔は微笑んでいた。
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