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【short‐short】着物に願いを込めて(344字)

気分転換によく家の近所を散歩している。

ある日、散歩コースにある神社で、着物を着た女性を見かけた。
無地で茶色と灰色の、落ち着いた印象の着物だった。

女性は神社に植えられている、まだ咲かない桜の樹を眺めていた。

その女性の横を通り過ぎるとき、横目に着物を見た。

無地に見えた着物には、細かな桜の花が無数に描かれていた。
赤みを抑えた桜で、花がびっしり描かれている部分が遠目に灰色に見えていたのだ。
ひらひらと舞っている花びらは、あまりにも小さかったので遠くからは見えず、生地の茶色ばかりが見えていた。

女性はきっと着物に桜の開花を待ちわびる気持ちを込めたのだろう。

テレビで見るこの地域の開花予想はまだ先だったが、何年も毎日のようにここを通っている自分には、その女性の願いがもうすぐ叶うことが分かっていた。



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