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母、5歳児に自己責任。おつかい事件で心に刺青

今日は私の小さな頃の話をお話しします。これは、私が5歳の頃の出来事です。

◆おつかいに張り切る

その日は母がスーパーのチラシを見ながら言いました。
「この牛乳が安いわ。2本買ってきてちょうだい。」母が指差したチラシには、特売の牛乳が載っていて、1本あたり通常価格より5円か10円くらい安いだけ。
でも母にとってはそれが重要だったんです。

頼まれた私は嬉しくて、「行ってくるわ!」と元気よく家を出ました。

小銭とチラシ。ポケットじゃ心配だから、小さな手でぎゅっと握りしめていました。子供の足取りで片道30分の道のり。
公園の階段を降り、住宅街を抜けてスーパーに向かいます。
途中、風が顔をなでて、「自分が大きな仕事を任されている」とワクワクしていました。

スーパーに着くと、牛乳売り場に直行しました。
でもそこには、いろんな種類の牛乳がずらりと並んでいて、どれが特売品かなんて5歳の私にはわかりません。
そこで、「チラシに載ってるやつと似てるし、これだ!」と思い牛乳を2本手に取り、レジに向かいました。

レジのおばさんがニコニコしながら袋に入れてくれて、「え、重いなぁ」と思いながらも、また片道30分の道を歩いて帰りました。
家に着くと、「買ってきたよ!」と牛乳を母に渡しました。すると、母はチラシを取り出しながら、じっと牛乳を見比べていました。

◆買ったのは、特売品じゃなかった

要は、わたしが買った牛乳は特売じゃなかったんですね。
みなさんに、想像してみてもらいたいんですが、目の前に5歳児がいて、
牛乳合計2リットル、往復1時間かけて歩いて買ってきた。
でも特売品じゃなかった。
健気に頑張った。目の前に疲れた顔して立っている。

なんて声かけますか?

ありがとう。
よくがんばったね。
特売じゃないけどまあ良いよ。
そんなかんじじゃないですか?
母は私に言いました。

「これ、特売のと、違う。返してきなさい。」

その瞬間、私は一瞬固まりました。「え、違う?」
母は続けました。
「チラシを見てみ。特売の牛乳はこれ。あなたが買ってきたのはこれ。似てるけど、違う。」
「間違えたのは誰?あなたの間違い。だからもう一回スーパーに行って交換してきて。」

母の言葉に私はただ「わかった」と答えました。
これもしわたしが大人だったらきっと反論してたと思うんです。
「いやいや、たった5円10円の差でしょ!」とか「そんなに厳しく言わなくてもいいでしょ!」とか。反論していたと思います。

でも、5歳の私はどうおもったか。
腹が立ったり悲しくなったりしませんでした。がっかりもしませんでした。

「そうだよね、自分が悪かったんだ。だから返しに行かないと!お母さんの言うとおりだ。」
と思いました。

自分の過失、責任を理解して、そのミスをつぐなうために、もう一度スーパーに行く必要があるんだ、と納得しました。

もしかしたら、期待した母のことばと違ったことで、失望することを避けるために、
自分の心を守るために自然にそう考えたのかもしれません。
とにかく、母の言葉をそのまま納得して素直に受け入れたのです。

◆ふたたびスーパーへ

こうして、もう一度牛乳を持って片道30分の道を歩きました。
途中、何度もポケットを触ってレシートがちゃんとあるか確認しました。
「もしなくしたら交換してもらえなくなるから大変なことになる!ちゃんとやらないと。」と思って、途中で何度も立ち止まり、レシートを確認しながら歩きました。公園の階段も慎重に、牛乳を地面に引きずらないように注意しながら。

重たいなあ、よっこらしょよっこらしょ、もっちょっと、もうちょっと。 と自分を励ましながら。
間違えたもんね僕が。だからもう一回行くんだ!と考えていました。

スーパーに着いて、レジのおばさんに「これ、間違えたから交換してください。」と言ってレシートと牛乳を渡しました。
おばさんは優しく「大丈夫よ」と笑顔で交換してくれました。
あとは特売の牛乳をちゃんと買って帰ることができました。
もう夕方になってきていたと思います。

また想像してもらいたいんですが、子供がこういう経験をして帰ってきたら、
みなさんなら玄関でなんと言いますか?

わたしの場合、残念ながらそのときの記憶はありません。

おそらく母はただ、冷蔵庫に牛乳をしまったのでしょう。

わたしにとっては、この出来事は、テレビの「初めてのお使い」のような感動的な出来事ではなかったんです。

◆こころの刺青

ただ、子どもであったわたしの心に教訓、「間違えたら責任を取る」ということが
刺青のように刻み込まれた出来事でした。
そのような出来事は、子供時代に何度もありました。

◆温かい思い出

そんな私が大人になり、結婚前、初めて妻の親戚たちに会ったときのことです。
つたない自己紹介をすると、皆さんが温かい拍手で受け入れてくれました。
「よく来てくれたね。自己紹介上手だね、ありがとうありがとう」と言ってくれるその言葉に、それだけで胸がいっぱいになりました。
私にとって「過失があれば責任を問われる気を抜けない場所」だった家の中とは違い、この場所は失敗も含めて受け入れてくれる温かい空間でした。

家に帰ってから頭の中で1日を振り返り、温かい笑顔や言葉を思い出すと涙が流れました。

子どもたちは、間違いをしながら少しずつ成長します。でも、その過程で「よく頑張ったね」「大丈夫だよ」という一言があるだけで、子どもの心には温かい灯がともるんです。

どうか、皆さんが子どもにかける言葉が、その子の未来を優しく照らすものになりますように。

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青空太郎
いただいたチップはカフェで、温かいソイラテをいただきながら、創作活動をしようかと考えています😊

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