『君がいない夜のごはん』穂村弘 「この人は魅力的だ」と、作者を褒める
○はじめに
このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語る設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。
『君がいない夜のごはん』穂村弘
【穂村弘の作品を語る上でのポイント】
①言葉のうまさに言及する
②人間的魅力を褒める
の2点です。
① に関して、穂村弘は歌人として活動しているため、この人の書く文章の言葉選びは光るものがあります。単なるエッセイでもピタッと当てはまる言葉をスラスラと書いていて、読んでいて気持ちが良いです。
② に関して、穂村弘という男は、カッコ良い人になりたいんだけど、いつもこっち側の平凡な世界から抜け出せなくて、背伸びしてて、でもそこに優しい心が一筋ある魅力的な人間です。俳句とか詩とかエッセイは小説よりも書き手の人となりが反映されやすいので、書いてる人に魅力があれば、その人の文章もまた魅力的になります。
○以下会話
■食欲がわかない、食べ物がテーマのエッセイ
「食べ物を題材にした小説か。そうだな、小説じゃなくてエッセイでもいい?そうしたらオススメは穂村弘の『君がいない夜のごはん』だな。この人の文章は視点が風変わりで、ユーモアがあって、優しい感じで、芸人で言ったらバカリズムとか劇団ひとりとかで、そういう系統が好きな人はきっとこの人の文章も好きだと思う。
穂村さんは主にエッセイを書いてる人で他にも沢山オススメはあるんだけど、今回の『君がいない夜のごはん』は食べ物をテーマにして書いたエッセイなんだけど、びっくりするのは、これを読んでも全く食欲がわかないんだよね。食べ物をテーマにして食欲がわかないってこの本だけだと思う。というのも、穂村さんは味音痴で食に対して興味がないらしいんだ。だから、このエッセイは、美味しいご飯を食べるお話じゃなくて、「君が隣にいなかったら、僕は食の世界をさ迷ってしまって、こんなヘンテコな所にたどり着いちゃったよ。でもここはここで居心地が良いや。」みたいな感じのエッセイなんだよ。
短いエッセイが沢山編纂されてるから、お気に入りを見つけて欲しいんだけど、僕が好きなのは賞味期限についての文章で、詩から始まる文章なんだけど、とりあえずその詩だけ引用するね。
カップに唇をつけたとたんに、牛乳が真っ黒になって驚く。反射的に時計を見ると零時。賞味期限が切れたのだ。
どう?すごいよね。もちろんこれは穂村弘の空想の世界なんだけど、この発想は一般人には無いよね。確かに僕らはスーパーに行くと、すぐ使い切るくせに牛乳とか卵とか一日でも賞味期限が長い商品を買おうとしちゃうよね。そのくらい、日常で賞味期限を意識するけど、あれってパッケージに印字された日付をそのまま信じるしか判断しようがなくて、よく考えるとそんなものに全幅の信頼を置いてるなんて少し心もとないよね。2、3日過ぎてたくらい、きっと何の影響もないんだけど、食べた後にそれに気づくとちょっと嫌な気がするよね。
もし零時を回った途端に、牛乳が真っ黒になって、スマホの充電が切れたみたいに、プツンともうそこからは一切飲めないってなったら面白いよね。
■脳内で味を再現して食べている
この「牛乳」の詩に続いて、友達の家で、腐った牛乳をそうとも気づかず飲み干してしまった経験を書いていて、
今日に至るまで、私は何度も牛乳を飲んできた。だが、もしかすると「本当に」飲んだことはなかったのかもしれない。牛乳を口につけることを「きっかけ」として、脳内に予め用意されている「牛乳の味」を再現しているだけなんじゃないか。
って言ってるんだ。僕はこれ読んだ時、瞬時に「僕もそうです」って挙手しちゃったよね。この文章を読んで自身を振り返ってみると、ご飯をしっかり味わってないんじゃないかって気付かされたんだよ。もちろん美味しいものは好きなんだけど、基本お腹が満たされれば満足だから、質より量を重視してるんだよね。だから穂村さんが言うように僕も、一つ一つの食べ物に対応する昔覚えたその味を、頭の中で再生してるだけの気がするんだよね。レタスはレタス、味噌ラーメンは味噌ラーメン、プリンはプリンのデータを再度流してる感じ。普段こんなこと意識しないけど、穂村さんの指摘で浮かび上がってくる感じが、すごい心地よくて面白いんだよね。
こんな感じでエッセイは続いていって気楽に読めるからおすすめだよ。是非読んでみて。」