朝井リョウ『生殖記』
この小説の主人公はちんこです。
ひたすらちんこが、ちんこの持ち主について喋っています。ちんこの持ち主は尚成という30すぎのゲイの会社員です。ちんこは、いままで色んな生き物のちんこやまんこを担当してきました。なので、色んな生物の生殖に詳しいです。
でも、同性愛であったり、にんげんの共同体感覚であったり、無宗教であったり、令和という時代であったり、尚成を取り巻く様々なイレギュラーに、主人公のちんこはひたすら戸惑っています。
意外と同性愛の生物っているんだなぁとか、マイノリティからみた世界ってこんな感じなのかなあとか、ハラスメントを気にして何も踏み込まないコミュニケーションってこんな感じかなあとか、現代におけるモヤモヤ的なアレコレに新しい視点を注いでくれます。
作者の朝井リョウは「擬態」という言葉をよく使うなあと思います。
世間が求める「普通」になりきれない人たちが、それでも生きていくために、何を手放し何を身につけ何を隠し通していくのかを凄まじい解像度で読者に伝えてくれます。
なんか自分は普通に女が好きだしゲイとかの気持ちは全然分からないけど、それでもこの本が面白いと思えたのは、ゲイがどうのこうのとか主人公がちんことかあんま関係ないんだよね。この本はきっと話題になるだろうし本屋でも平積み売りされる気がするし、そういうことばかり取り沙汰される気がするけども。
この本が面白いのは、マイノリティとマジョリティが共存する世界で、世界は、共同体は、何を目指しているのか、そしてその流れからあぶれてしまう人はどう思うのかを描いていたところです。
要するに、誰でも読める内容です。
生産性とか成長とか拡大とか幸福とかそういうものを追求"しなきゃいけない"感じってあるじゃん
そういうところの歪さみたいなのを書いてる感じがすごい好きだったな
「次」とか「やらなきゃいけないこと」とか、そういうのがないと生きていけない辛さ、みたいな
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朝井リョウは『正欲』も面白いです。ガッキーとか使って映画化もしてるけど、小説の方が描写が細かいのでオススメです。
正欲も、世間に擬態しているマイノリティについて描いています。
朝井リョウの『死にがい求めて、いきてるの』っていう本も、生産性とか成長とか拡大とか幸福とかそういうものを追求"しなきゃいけない"感じがおもしろい