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2024新譜

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Mat Kerekes 『To Dream Of Something Wicked』 (2024)

Mat Kerekes 『To Dream Of Something Wicked』 (2024)

7/10
★★★★★★★☆☆☆
ロックバンドCitizenのフロントマンによるソロ作。この人は典型的な多作人間で、まだ30歳だけど、Citizen6枚とソロ4枚の計10枚をリリースしてきている。これが11枚目。

CitizenはThird Eye Blindを思い出させるような明るいロックで好きだが、本ソロ作はエモキッズのためのフォークロックとでも言うべき、アコースティックメインのエモーショナル

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Newmoon 『Temporary Light』 (2024)

Newmoon 『Temporary Light』 (2024)

6/10
★★★★★★☆☆☆☆
90年代後半には一旦廃れたシューゲイザーだったが、21世紀に入るとエレクトロニカやハードコア、ポストブラック、そしてメインストリームポップなどの他ジャンルのアーティストが自らの音楽にアクセントを加える要素として積極的に使い始め、今では欠かせない音楽ジャンル/表現技法の一つとなった。

しかしNewmoonの3rdアルバムは90年代初期を思い出させる王道中の王道。中で

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Humdrum 『Every Heaven』 (2024)

Humdrum 『Every Heaven』 (2024)

6/10
★★★★★★☆☆☆☆
まず思い出したのはThe Pains Of Being At Heartのデビュー作(2009年)と2nd(2011)。全体的な淡い雰囲気——夏休みの市民プール帰りに17アイスを食べてるような——がよく似ている。そしてやたらとアルペジオを弾くところはスピッツのデビュー作(1991年)も思い出した。

他にはRideの『Fall EP』(1990)、Sulkのデビュー

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The Cure 『Songs Of A Lost World』 (2024)

The Cure 『Songs Of A Lost World』 (2024)

9/10
★★★★★★★★★☆
どんなに素晴らしい音世界を繰り広げたバンドも、ほぼ全てが劣化し消滅する。そしてファンは「ああ、あの世界もあそこ(最後に素晴らしかったアルバム)で終わったんだな」という切ない現実を見せつけられる。それは仕方ないことではある。イマジネーションにも限界はあるし、桃源郷も経年劣化するのだ。

だから私は楽しみを遥かに上回る恐れを抱きながら、The Cureの新作を待っていた

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Jamie Isaac 『Please, Remember Me』(2024)

Jamie Isaac 『Please, Remember Me』(2024)

7/10
★★★★★★★☆☆☆
2020年にNosaj Thingと組んだシングルを出してはいたが、フルとしては実に6年ぶりとなるサードアルバム(8曲入りなのでミニアルバムかも)。

私は2018年の傑作2nd『(4:30) Idler』で虜になって以降ずっと追い続けていたが、ここ数年かなりスランプに悩んでいることをSNSでずっと吐露していたので心配していた。頼むから音楽続けてくれと願っていたので

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Christopher Owens 『I Wanna Run Barefoot Through Your Hair』(2024)

Christopher Owens 『I Wanna Run Barefoot Through Your Hair』(2024)

10/10
★★★★★★★★★★
私はGirlsの1stと2ndはリアルタイムではなく、数年遅れた2013年に初めて聴いた。その日のことは今でも覚えている。

まず何でこんなに情けなくてヘロヘロなのか。そして何でそれが良しとされているのか。Arctic MonkeysやBloc Partyのような筋肉質で誰が見てもかっこいいバンドを聴いていた当時の大学生(私)にとって、ちょっと理解に苦しむ衝撃的な

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High Vis 『Guided Tour』(2024)

High Vis 『Guided Tour』(2024)

7/10
★★★★★★★☆☆☆
前作の時点でこのバンドの折衷志向は明白だったが、更にそれを強めている。ハードコア要素は更に減り、ポストパンク/ニューウェイヴ/ブリットポップに近いがそのどれでもない、サブジャンルの隙間を掻い潜る、もはやただ「ロック」としか形容の出来ない領域に進んでいる。

オーソドックスでクセの無い演奏をする。リズム隊は至ってスクエアで6/8拍子や3/4拍子すら叩かないし、シンセや

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Touché Amoré 『Spiral In A Straight Line』(2024)

Touché Amoré 『Spiral In A Straight Line』(2024)

7/10
★★★★★★★☆☆☆
4th『Stage Four』(2016)以降、このバンドは音圧やパワーよりも切れ味とエモさで勝負する路線に移ってきたように思う。ディストーションの代わりにひしゃげたコーラスをかけてパワーコードを掻き鳴らしたり、刻みリフの代わりにリヴァーブを効かせた単音のフレーズを入れたり、はたまたエフェクターをオフにした弱々しいアルペジオを入れたり、感傷的なメロディに浸ったり。ミ

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Drug Church 『Prude』 (2024)

Drug Church 『Prude』 (2024)

8/10
★★★★★★★★☆☆
ポストハードコアって極めたら最終的にはこの形になるんだろうなという、まさに洗練の極みとでも言うべき音を出している。鬼のような完成度。

ハードコア/ガレージ/オルタナの活力と勢いで突き進むのは前作までと変わらないが、全ての要素で更にレベルが上がっている。どの曲にも強力なフックとメロディがある。演奏も一つ一つの音に意図と効果があって無駄が一切ない。細かな表現力も格段に

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Wild Pink 『Dulling The Horns』(2024)

Wild Pink 『Dulling The Horns』(2024)

7/10
★★★★★★★☆☆☆
ライブ録音によるザックリとした豪快なディストーションギターを軸に据えながら、余白にしっかりと繊細な余韻を漂わせている。最高傑作だと思う。

これまでにリリースした四枚はいずれも批評家に高く評価されてきたが、必ずしもその出来に満足していたわけではないと言う。特に前二作については「かなり作為的で作り込みすぎた」「生の感覚が失われていた」と語っている。

そこで本作では、

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Pale Waves 『Smitten』 (2024)

Pale Waves 『Smitten』 (2024)

6/10
★★★★★★☆☆☆☆
ドリームポップの要素を強め、洗練された完成度の高いポップロックを演奏している。シンセが派手に使われていた1st『My Mind Makes Noises』(2018)や方向性に迷いがあった2nd『Who Am I ?』(2021)とは少し違うし、3rd『Unwanted』(2022)のポップパンク的な作風からも離れている。

これまでのような強がりの無い、落ち着くべ

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The Voidz 『Like All Before You』 (2024)

The Voidz 『Like All Before You』 (2024)

5/10
★★★★★☆☆☆☆☆
私はこのバンドに対してはThe Strokes以上に入れ込んできたし、『Tyranny』『Virtue』に関しては21世紀の最も刺激的なロックレコード最有力候補だと普通に思っている。

このバンドの最大の長所は「刑務所ジャズ」と自称する奇天烈で激烈な実験精神と、その音の中から次第に立ち昇ってくる悲劇的な美しさであるとずっと思ってきた。彼らの音楽には、人間を人間でなく

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The Jesus Lizard 『Rack』 (2024)

The Jesus Lizard 『Rack』 (2024)

8/10
★★★★★★★★☆☆
何が信じ難いかと言えば、彼らの強い個性が前作から26年経っても「健在」どころか、ますます猟奇的に研ぎ澄まされていっている点だ。ロックを長いこと聴いていると人間の仕業ではないようなアルバムに出会うことが稀にあるが、これはまさにそれ。

シンバルを全拍で連打しながらスネアの音で人をいてこましたると考えていそうなMac McNeillyもなかなかにヤバいが(“What I

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Snow Patrol 『The Forest Is The Path』 (2024)

Snow Patrol 『The Forest Is The Path』 (2024)

6/10
★★★★★★☆☆☆☆
前作『Wilderness』から6年ぶりなので一体どのようなアルバムになるのかと思っていたが、何のことはない、これまで通りのSnow Patrolそのまんまの世界が広がっていた。

基本となるのは、分かりやすいサビをしっかりと歌い上げるミドルテンポの曲。頭4曲の”All”, “The Beggining”, “Everything’s Here And Nothin

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