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Christopher Owens 『I Wanna Run Barefoot Through Your Hair』(2024)

10/10
★★★★★★★★★★


私はGirlsの1stと2ndはリアルタイムではなく、数年遅れた2013年に初めて聴いた。その日のことは今でも覚えている。

まず何でこんなに情けなくてヘロヘロなのか。そして何でそれが良しとされているのか。Arctic MonkeysやBloc Partyのような筋肉質で誰が見てもかっこいいバンドを聴いていた当時の大学生(私)にとって、ちょっと理解に苦しむ衝撃的な出会いだった。そしてすぐそっちにハマっていった。(同じような話をSwim Deepのレビューでも書いた気がする。他にSmith WesternsThe Pains Of Being Pure At Heartなども同系統として聴いていた)。

ずっと追っていかなければならないアーティストというのが私には何人かいるが、もちろんこのChristopher Owensも、初めて聴いたあの日から、そのリストにずっと存在し続けている。飽きることなく2024年の今でも聴き続けているので、この新作が出るという発表には本当に興奮した。

本作は、これまでのソロ3作や別バンドCurlsと比較すると、Girlsの1st、つまりこの人の原点に近い音が久しぶりに鳴っている。この人のここ数年の悲惨な境遇を考えると、それでもなおここまで純粋無垢な音を維持しているのには驚かされる。何があっても自分の芯は変えないという矜持のようなものすら感じられる。そしてそこに、色々な出来事を経て得た確信的な力強さが加わっている。純粋で繊細ではあるが、もう弱々しくはない。最終曲"Do You Need A Friend"のもはや達観しかけている歌詞を聴けば、この人は本当に強くて前向きな人間なんだとよく分かる。

やはりソングライティングが群を抜いて素晴らしい。これまで散々天賦の才を見せつけてきたが(特にGirlsの2ndソロ2ndは凄まじかった)、本作は過去最高に素晴らしいのでは。”I Think About Heaven”や”Distant Drummer”をはじめ全曲すごいが、特に"This Is My Guitar"なんかは『ジョンの魂』の領域に近付いているとすら思う。この才能を持つ人間が住む家さえ失ったというのは何かが絶対におかしい。

現代のクリーンなメインストリームロックであれば、“I Know”後半のエモーショナルで下手くそなジャムなどは「一般受けしない不要なノイズ」として真っ先にカットされているだろう。そういう絶滅しかけている「過剰でダサい感情の迸り」が本作にはいくつも生のままで存在し、シンプルでかけがえのない光を放っている。そこに私は感動する。そこに音楽の醍醐味が詰まっていると信じている。

「2010年代前半の華のないインディロックがロックをダメにした」という史観を語る人間もいる。彼らにとってはGirlsなんて唾棄すべき存在なのかもしれないし、実際、100人中95人のまともなメインストリームの人たちの感性には響かない音楽だとは思う。

だけどいつの時代にも、華のないちっぽけなロックを聴いて安心感と共感を覚える残り5人のインディリスナーは存在しているのだ。00年代にほぼ途絶えていたそういうロックを一時的に蘇らせたからこそ、あの時Girlsは多くのインディリスナーを一瞬とは言え虜にしたのではなかったか。その事実を無視してはならないと思う。

そして今再びそんな素晴らしいアルバムを彼はリリースしてくれた。感謝してもしきれない。これからも絶対に音楽を作り続けていってほしい。ずっとついて行く。


余談だが、この人はSuedeに多大な影響を受けたと語っている。確かに"I Know"後半や"So"のギターはSuede初期のBernard Butlerを彷彿とさせる節がある。特に"The Living Dead"や"My Dark Star"あたりの。


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