Wild Pink 『Dulling The Horns』(2024)
7/10
★★★★★★★☆☆☆
ライブ録音によるザックリとした豪快なディストーションギターを軸に据えながら、余白にしっかりと繊細な余韻を漂わせている。最高傑作だと思う。
これまでにリリースした四枚はいずれも批評家に高く評価されてきたが、必ずしもその出来に満足していたわけではないと言う。特に前二作については「かなり作為的で作り込みすぎた」「生の感覚が失われていた」と語っている。
そこで本作では、これまでの作品を手掛けてきたJustin Pizzoferratoとともに、よりライブで再現が容易な音にすることを意識。バリトンギターも織り交ぜ、ラフでノイジーなギターアルバムが完成した。
またそこに、ハートランドロック特有のシンプルなコード進行(F#m→D→Aは鉄板)×高BPM×ピアノ×サックスによる闇雲な疾走感、エモ/スラッカーロック特有の静寂と間、フィドルやペダルスチールが生むオルタナカントリー特有の夕焼け感まで取り入れ、インディオルタナロックの理想系とも言える音に仕上がっている。
さらに"The Fenceges Of Stonhenge", "Cloud Or Mountain"などのリフを聴いても分かる通り、音作りも非常に優れている。高級炊飯器で炊いた米粒のように音の粒が全くつぶれていない。これまでの作品ではここまでディストーションを前面に出していなかったと記憶しているが(聴き返してもそうだった)、初めての領域の音を演奏・録音両面でここまで技巧的に操れるのは、相当高い実力の証拠だろう。
歌詞のテーマはストーンヘンジからマイケル・ジョーダン、カルト指導者、ドラキュラまで、非常に多岐に渡る。それらはボーカルJohn Rossのその時々に頭に浮かんだことをしたためただけなので、一つ一つのテーマについて語ることは意味を持たない。むしろ「意味のある歌詞」「明確な強い主張」が求められる堅苦しい現代において、ここまで自由なスタイルを維持しているという気軽さが私は好きだ。
全てにおいて自然体で、リスナーにもそれが伝わってくる。心地よい秋風が吹く作品。