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Collective Intelligence Special Session ~睡眠学者が語る、睡眠を悪化させる要因 ~ #2

通常回で知見の共有をいただいた方から、特定のテーマについて知見を深掘る会です。過去の参加者は誰でも参加できる50分の特別なナレッジシェアセッションです。
今回は”睡眠”についての記事第二弾!
第一弾の記事はこちら

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寝る前に晩酌をする方は要注意

どうやったらよい睡眠を手に入れられるか。
私は、睡眠の悪化させるものにはどんなことが影響しているのかについて研究しています。早速ですが、寝る前に「晩酌」される方どのくらいおられますか?

参加者「あ〜、結構飲んでます。」

結構いますよね。実は晩酌は睡眠によくないかもしれません。お酒は、睡眠を悪化させる一番の要素の一つと考えられています。以下の表は睡眠に悪い影響を及ぼすと考えられている項目(縦軸)とその影響の大きさを(横軸)を示した図です。

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Shimura, Akiyoshi, et al. "Which sleep hygiene factors are important? comprehensive assessment of lifestyle habits and job environment on sleep among office workers." Sleep Health (2020).

このデータは、PSQI*という睡眠に関する医学的な問診票の結果を元に、様々な項目と睡眠にネガティブに影響する大きさをまとめたものになります。これを見ると晩酌(nightcap)の影響は他の項目と比べても無視できないくらい大きいことがわかると思います。このほかに不規則な食事、体重増加、そしてよく言われている寝る前のスマホ(電子デバイス)なども影響が出ることがわかります

*PSQI:http://www.kanen.ncgm.go.jp/study_download/20111202_02_02.pdf

コロナによるリモートが睡眠に影響!?

先ほどのデータから、通勤・通学時間が片道一時間伸びると、大体1.5倍ぐらい睡眠に影響が出ることがわかります。つまり通勤・通学の時間は短いに越したことはないといえます。コロナにより出勤停止や在宅勤務推奨が強力に推進されたことで睡眠の質が改善したといえます。

次に、食事の不規則さ。食事が完全に規則的だという人に対して、概ね規則的となるだけで1.5倍ほどの影響が出て、やや不規則だとその影響は2倍ちょっとに、とても...と答えた人では3倍弱という結果になっています。ここからわかることは、食事の不規則さは睡眠の質を悪化させる要因になるということです。

一昨年、ノーベル賞を受賞した時計遺伝子の研究**がありますが、毎日同じ時間にご飯食べることで体内時計が整うと考えられています。食事の時間が乱れることで体内時計が乱れ、その影響として睡眠の質が悪化すると考えられています。

**2017年ノーベル医学生理学賞(時計遺伝子):
http://www.nikkei-science.com/?p=54610

さて、このコロナ期を活用して睡眠について考えることの一つとして、食事の時間を規則的にすることを意識してみると良いかなと思います。

[参加者]: S先生、一つ質問いいでしょうか?食事の時間について話が出ましたが、食事の「回数」についてはいかがでしょうか?

食事の回数と睡眠の関係はよく分かってないです。
ただ、「食事と食事の間をどう開けるか」っていうのが大事ということはわかっています。
その背景として、人間は一日の中で一番長い絶食時間を休息時間と捉えていることが知られています。理想としては休息時間が、12時間、できれば16時間空いてるといいとされています。つまり、夕御飯を20時に食べたとしたら理想的な朝飯時間は8時以降ということになりますね。

[参加者]: なるほど、ありがとうございます。では追加で質問ですが、2型のDM(糖尿病)などの話で、血糖値を一過的に上昇させることはリスクが高いと言われていますよね。そうすると覚醒時は、隙間を開けずに少しずつちょこちょこ食べながら過ごして、寝る時は空腹時間をしっかりとるっていうのがベターなんでしょうか?

実はちょうどそれを言おうと思ってました。実は分割食がいいということはよく言われていて、トータル摂取カロリーが同じという前提であれば、食事を二食三食四食...と回数自体を分けることは良いと考えられています。「間食が悪い」というのも都市伝説の一つで、間食している人の方が、実は健康スコアがいいことが多いと思います。したがって、朝起きたらまず何かお腹にいれる(御飯を食べることも含む)。その後はちょこちょこ食べつつも夕方以降あんまり食べない。っていうのがおすすめです。

いつご飯を食べるのが学術的にベストなのか?

食事と肥満の角度から、いつご飯食べると太り易いかという話を紹介します。みなさま、脂肪細胞ってご存知でしょうか。脂肪細胞は余分な糖質を脂肪に変換して体に溜め込む役割を持っています。また、脂肪細胞の活動性には日内変動があることが知られれています。つまり溜め込みやすい時間とそうでない時間があるということです。ちなみに睡眠と肥満に関しても多くの研究がありますが、いつご飯食べるといいのかという研究は、この10年ぐらいトレンドになっています。

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Christou, Skevoulla, et al. "Circadian regulation in human white adipose tissue revealed by transcriptome and metabolic network analysis." Scientific reports 9.1 (2019): 1-12.

これは平均的な人の脂肪細胞*の日内変動(活動のリズム)を表しています。横軸のTime relative to DLMOの(0)は基準時刻で、0はヒトが「夜が来た」と思う(意識ではなく体として)時刻です。

*脂肪細胞:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%82%E8%82%AA%E7%B4%B0%E8%83%9E

このグラフからわかることとして、朝の時間帯であるDLMO+12時間前後(0から12)では脂肪細胞が増えにくく、逆に夕・夜の時間帯では、食べたものが脂肪に化けやすいことがわかります。
ダイエット関連企業が持つアプリなどでは、「いつ(時間)」、「何を(メニュー)」などの情報をデータベースにしています。それらのデータとリアルな対象者が実際に「いつ何を食べたか」を組み合わせたものがあります。これらを研究室にあるデータと合わせて綺麗にすると、朝や昼に食べることからは太りにくく、夕や夜に食べると太りやすいことがわかりました。

さらに面白いのは、その時刻は人によって前後するということです。これは人によって就寝時間と起床時間は異なるため体内時計のセットポイントが異なるためです。例えば、毎日AM2時就寝してAM9時に起きる人の場合では、2+9/2=5.5→AM5時半が体内時計のスタート(セットポイント)と考えます。また、PM11時就寝-AM6時起床の場合は、-1+6/2=2.5→AM2時半がセットポイントとなります。

セットポイントAM5時半の方の場合、AM5時半からPM5時半までの食事では基本的に太りにくいと考えられます。一方、午後7時半以降に食べると太りやすいと考えられます。最も太りやすい時間帯は10時半~11時半とかになります。食事が帰宅後で遅い方など該当してしまいそうな時間帯です。したがって、自分の体内時計セットポイント(0時)の時刻から12を足した時間以前の食事では結構食べても太りにくいため、この間でぱらぱら食べつつそれ以降は食べないあるいは摂食を減らすというのがダイエットに有効な方法だったりします。

夜は食べるものに気をつけるべし

[参加者]: 質問しても良いでしょうか?

栄養素というかメニュー的なことを考える必要もあるのかなと思いました。夜に食べたら太ることがわかっていても、仕事終わりや打ち上げなどで夜においしいもの食べたいことも少なくないかなと...。これは欲求の話になってしまいますが、その欲求を上手に維持したまま健康に害を及ぼさないような都合のいい話ができないかなぁなんて思いまして。
よく巷で言われている夜ご飯を抜きましょうっていう話や、特保のデキストリンなどで急激な血糖値上昇を抑えましょうなどは効果的と考えていいのでしょうか?

はい、一定の効果あると思います。糖だけではなく脂質も重要です。夜は取った糖分や脂肪分のほとんどが脂肪に変換されやすいため、タンパク質を多めにしておくことが大切と思います。野菜をいっぱい食べて肉や魚で済ますようにして、お米や脂ものを控えるとかでしょうか。

食事は食べる順番で肥満を防げる

[参加者]: なるほど、追加で質問です。脂質や糖でイメージが強いものとして、黒烏龍茶や難消化性デキストリンがありますが、それらは医学的に意味があると考えていいのでしょうか?

食べる順番で野菜から食べた方がいいという話があります。実はこれ野菜とかに関しては重要なものがございまして...
酵素が入るとかよく言いますよね。それもあるんですけど、もっともっと凄い単純なものがこれです。

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上) 日本生活習慣病予防協会
下) かなえるリハビリ訪問看護ステーションの管理栄養士


これらはGoogleで「野菜 血糖 順番」で検索するだけでてくるんですけれども、同じものを食べるにしてもその順番で血糖値の上昇具合が大きく変わりますという内容になります。

下図を解説すれば、青が野菜からのラインで、赤は炭水化物(ご飯)からのラインです。その差は一目瞭然です。ちなみに生体は一定以上上回った血糖値(余分と判断された糖)を脂肪に変換し溜める性質があります。余分な糖は生体にとっては毒にもなるため早く処理するのです。

そして、一定の割合を超えちゃうと、その分はとにかく早く何かに変換したいということで脂肪に化けます。消化吸収のステップで、野菜などの食物繊維成分を先にとっておくことで、ご飯粒などの炭水化物が物理的に野菜などの繊維に絡まって消化吸収がゆっくりになります。

ある意味自然な消化不良が起こっているんわけですが、結果的にはゆっくりゆっくり消化吸収されることになるため、急激な血糖値上昇を抑えられるというカラクリです。

デキストリンとかが含まれてる飲料も基本的には同じようなことが起きています。ただ栄養素という側面から考えるとデキストリンや黒烏龍茶を飲むよりも、その分のお金をサラダに回す方が合理的ではないかと思います。健康ドリンクを飲むのもいいですが、その分野菜を添えた方がいいのではないのかなと思います。

[参加者]: ここで質問です。もう一つ栄養学的なところでいうと、生野菜は消化が悪いため、実は腸などの消化器官に負担がかかっているじゃないですか。そのため、野菜は温野菜にするとか、野菜は茹でたり蒸したりすることも大事だったりしますか?

そうですね。蒸し野菜が一番良いと思いますよ。熱するって結構大事なんですけれども、問題があって、これ実は魚や肉に関してなんですけれども、焼くと高熱すぎて、あんまりよくない成分が出てくるんですよ。だから煮るとか蒸すが体にとっては一番いいと思います。

[参加者]: 料亭の蒸し野菜サラダは凄く色んな意味で親切ですよね。

そうですね。簡単に対応するならば、最近コンビニとかでカット野菜が売っていると思うんですけれども、あれを買ってきて、器に入れてレンジでチンするだけで蒸せます。そういう風にして、塩胡椒ふりかけるだけでも良いですよね。なので、生野菜じゃなくて蒸し野菜とかにすることができるのであれば、そっちの方が良いと思います。

[参加者]: ありがとうございます。睡眠と全然外れてしまいましたね。

いえいえ。これはすぐやれることとしてすごく大切なことだと思うので。食べる時間と何を食べたらいいのか。何から食べたらより良いのか。っていう健康のお話ということで。
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だんだん睡眠から話がそれて食生活についてのお話は続きますので、次回も乞うご期待。


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