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僕は君になりたい。

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自作の小説をまとめています。連載中です。 美少女アイドルとして奮闘する男子中学生の葛藤の日々を描いています。不定期ですが、月2話ほどのペースで投稿しています。
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記事一覧

僕は君になりたい。 あらすじ

僕は君になりたい。 あらすじ

中学2年の4月1日、榊原流伊はたまたま誘われて見に行った、地元アイドルグループ「あじさいガールズ」で1番冴えないメンバー黛薫ことカオルンのステージ上の姿に心を奪われるが、数日後、カオルンが救急車で運ばれたことを知り、居ても立ってもいられず、情報を得る為、また彼女に会うため、彼女の所属する芸能事務所のオーディションに"女装"で受けに行く。当然男子の自分が本当に受かるはずがないと思っていたのに、社長に

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僕は君になりたい。 第39話「Moon  Water   恋に溺れる人魚姫と僕」

僕は君になりたい。 第39話「Moon Water 恋に溺れる人魚姫と僕」

#38

運転席から降りた誠さんは後部座席のドアを開けて、僕の隣に座った。

「…思い詰めてたか。ごめんな、フォローしてやれてなくて」

「べつに、誠さんの、せい…じゃない」

僕は、搾り出すように言葉を吐いた。
軽く肩を抱かれて、僕は自分が肩をいからせて固くなっていたことを知った。

「どうしたい? スカートやめたいなら、衣装は相談して考えるから」

今までになく、誠さんの声は優しい。

「…

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僕は君になりたい。 第38話「Moon  Water   心が波のようにうねる僕…」

僕は君になりたい。 第38話「Moon Water 心が波のようにうねる僕…」

#38

「はぁーあァ…!」

家に帰った僕は、大きく息を吐き出して窓から見える夜空を見上げた。
あいにく空は曇っていて、人魚姫の悲しい運命を見守る優しい天使たちの羽ばたきは見えない。
それどころか暗い黒雲の間から今にも灰色の竜がトグロを巻いて、グァーッと大きな洞窟のような口を開き、青白い炎を吐き出してきそうな気がする。

僕の心、なんか調子悪い。

風邪薬を飲んでベッドに横になった。

そのと

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僕は君になりたい。 第37話「Moon  Water  海の泡について理解した、僕」

僕は君になりたい。 第37話「Moon Water 海の泡について理解した、僕」

#37

当然だけれど、僕の飲んでいるムーンウォーターは、いつも“満月水”なわけではない。

月の形は日々変わっていく。

満月なのは月に1度だけだ。

だから、厳密には“満月水”ではなく、普通に“月光浴させた水”である。

一応月光を浴びた水なので「浄化」の効能はあるし、フルムーンでないだけでムーンウォーターと呼ぶのは問題ない。

が、僕はもう“満月水”で通そうと思う。

べつに、何でもいい。

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僕は君になりたい。 第36話「Moon  Water  恋する人魚姫になれる?僕」

僕は君になりたい。 第36話「Moon Water 恋する人魚姫になれる?僕」

#36

満月水を飲み始めて12日目の早朝、

僕は真冬の寒空の下、凍える海岸の強い北風を浴びていた。
まだうっすらと水平線に赤っぽい大きな月が残っているが、それを狙っての撮影らしい。
あえて日の出の『逆光撮り』をして、シルエット風に撮りたいのだとシセイさんに言われた。

それ、僕本人じゃなくても良くない? 

とも思ったが、ここは黙ってプロに撮られることにした。

「いいわね〜、美しいわ〜。ボ

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僕は君になりたい。 第35話「Moon Water     満月水で乙女になる僕?」

僕は君になりたい。 第35話「Moon Water 満月水で乙女になる僕?」

#35

2月。

写真集のタイトルが告げられた。

『Moon Water』

日本語では「満月水」という意味だという。正確には「フルムーンウォーター」らしいが、それは「新月水」で「ニュームーンウォーター」というのもあり、それと合わせて「ムーンウォーター」というためだという。ただ、どちらも「ムーンウォーター」なので、「満月水」と訳しても良いのだそうだ。
何でも、青いガラス瓶に水を入れ、それを月

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僕は君になりたい。 第34話「告白のリミット そして僕は2月を迎える」

僕は君になりたい。 第34話「告白のリミット そして僕は2月を迎える」

#34

一つの使命を果たしたことには間違いない。

僕は、メンバーたちに「8月31日で卒業する」ことを伝えたと、誠さんに報告した。

「そっか…、ご苦労さん。何か言われたか?」

「いや。むしろ、淡々としてた。まあ、仕方ないことだもんね…オレのことバレたら、皆んなだってヤバいんだし」

「…まあ、そうだな」

誠さんは、少し心ここに在らずな様子で、書類を眺めながら僕の話を聞いていた。

「誠さ

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僕は君になりたい。 第33話「告白のリミット 終わりの日を告げる僕」

僕は君になりたい。 第33話「告白のリミット 終わりの日を告げる僕」

#33

今朝、歯を磨きすぎてしまったようで、まだ歯茎が痛い。先程からずっと歯茎を舐めている。

それというのも、この緊張のためだ。

先日、言いそびれた話をしたい、と久々に自分からメールを送った。
改まった場を設けることを、何となく避けていた。勢いで済ませたかった。
が、それは皆を動揺させるだけだと前回のことで悟ったので、あらかじめ大事なことを言うというスタイルで望むことにしたのだ。

学校の

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僕は君になりたい。 第32話「告白のリミット 心が折れた僕と初デート」

僕は君になりたい。 第32話「告白のリミット 心が折れた僕と初デート」

#32

1月も半ばを過ぎた。

あかりが、療養から戻ってきた。

1週間ぶりだったが、あかりが倒れたのは、冬休みを終えて、今年まだメンバーでのレッスンもわずかしかしていない頃だ。
ゆえに、なんだか久しぶりに会う気がした。

僕が綾香から聞いた彼女の僕への気持ちについて、僕のほうから問いかけることはないと思う。あかりもまた、それを今更声に出して僕に告白することはないだろう。

そう。

彼女は僕に

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僕は君になりたい。 第31話「告白のリミット 手紙を読んで自分と向き合う僕」

僕は君になりたい。 第31話「告白のリミット 手紙を読んで自分と向き合う僕」

#31

土曜日の朝、僕は事務所脇の花壇の周りにできた霜柱をザクザクと音を立て、踏み潰しまくっていた。
誰も見ていないのを確認してから、むき出した白い歯みたいな霜柱の島々をゴジラみたいに粉砕して回った。
ガキな遊びをしていると思われたっていい。この行為は今の僕にとって、単なる遊びではない。

あかりは大事をとって、約1週間の休みを取るという。

「なにしてんだ? お前」

ビクッとして、顔を上げ

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僕は君になりたい。 第30話「告白のリミット 乙女心に動揺する僕」

僕は君になりたい。 第30話「告白のリミット 乙女心に動揺する僕」

#30

あかりが、倒れた⁈

どうして?

「…発作が、出ちゃったんだね」

ポツンと、美咲がつぶやいた。
その瞳には、暗く濃い影が落ちる。

「発作?」

僕が訊ねると、美咲はため息をつき、僕と西山先生を交互に見ながらうなずいた。

「あの子、てんかん持ちなんだって」

「てんかん…って?」

「まあ、脳神経的な病気らしい。あかりの場合、興奮しすぎちゃうと、もう突然身体が硬直して気を失っちゃ

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僕は君になりたい。 第29話「14歳のハート 仕事始め、僕の歌声に酔えって?」

僕は君になりたい。 第29話「14歳のハート 仕事始め、僕の歌声に酔えって?」

#29

僕らは、有名なカメラマン柳生至成氏に写真を撮ってもらった後、本日メインの仕事である、レコーディングのスタジオに向かった。

軽い発声練習を合同でやった後、僕らは別々のブースに入り、それぞれのソロをリハーサルした。
これには花岡先生も同行し、美咲、僕、綾香、あかり、の順で稽古をつけてくれた。

なぜこの順番なのかといえば、バラード、ソウル、ロック、ポップス…とだんだん曲調が速くなるからだ

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僕は君になりたい。 第28話「14歳のハート 新年早々、僕の三角関係って」

僕は君になりたい。 第28話「14歳のハート 新年早々、僕の三角関係って」

#28

年が明けた。

近所の「邑木八幡神社」に初詣した。
大きくはないが、この辺りの神社といえばこの神社で、昔から「むらきさん」と呼ばれ、親しまれていた。
僕と高柳は、それぞれ親に頼まれて持参した去年の御札や御守をお焚き上げ所に預けてから、参拝の列に並んだ。
まだ午前中だったが、もう100人は下らないであろう参拝者が列を成していた。

「…普段はだれもいなくてしーんとしてんのに、やっぱ、正月

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僕は君になりたい。 第27話「14歳のハート 恋を知った僕の落ち込む年末って…」

僕は君になりたい。 第27話「14歳のハート 恋を知った僕の落ち込む年末って…」

#27

恋? 恋?

僕は、綾香に恋してるのか?

心の中で、僕は1人キョロキョロと「恋」というものを探していた。

綾香の顔が浮かんでくる。

それ以外の人は、浮かんでこない。

カオルンは僕の中で既に「憧れの人」というカテゴリーに分類され、「好き♡」なんて言うのは畏れ多いため、恋愛の対象ではないようだった。

マジか…。

僕の中に「あり得ないことベスト10」があったとしたら、その上位をか

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