イタリア庶民料理の研究〜歴史上’声なき’人々の料理を紡ぐ〜
私の研究紹介
研究を通して成し遂げたいこと
歴史上’声なき’庶民料理を紐解きたい。
イタリア料理は、多様な地形と小国が分立する歴史により、地域ごとに異なる郷土料理が発展しました。
ルネサンス期には、実力都市の宮廷で、各地の文化を吸収し、洗練された貴族料理が発展した一方で、その間にも庶民の間では脈々と家庭料理が受け継がれていました。
貴族料理と庶民料理、この2つの料理が組み合わさりイタリア料理が形作られています。
しかし、歴史学において、庶民料理の研究は、庶民の識字率や記録需要の問題で文献が限定的であることから、長らく研究が進んできませんでした。
一方で、そうした歴史上’声なき’庶民も、日々、限られた食材を生かし、家族に美味しい料理を作り、一度しかない人生を楽しむべく、様々な知恵と伝統を発展させ、今日まで受け継いできています。
本研究では、従来の文献中心の歴史学の限界を超えるべく、文化人類学の領域を含めた新しいアプローチで歴史に迫ります。その中で、自らイタリア中の家庭に足を運び、物質文化や口述歴史のアプローチを応用しながら、歴史上’声を持たなかった’庶民の料理の文化的貢献を考察していきます。
実現のプロセス
<修士課程>
まず、現在所属するボローニャ大学歴史文化学部の修士課程「Global Cultures」にて、イタリア料理史のトップ教授のもとで本分野の基礎知識と研究手法を学びます。
修士論文では、イタリア料理史の世界的権威であるMassimo Montanari教授、後継者の文化人類学者Davide Domenici准教授、Food Studiesの権威である歴史学者Ilaria Porciani教授の指導を受け、「Wives of peasants : Oral history of three women in the kitchen」というタイトルで執筆予定です。
また、修士課程の2年間で、自らイタリア全20州を訪ね、現地の家庭で料理を習うプロジェクト「イタリア全20州、マンマを訪ねて3000里」を遂行しています。受け継がれる庶民の料理を実践で学び、イタリア家庭料理を捉える枠組みを作ります。
修士課程を通して、文献中心の従来の歴史学が成し得なかったボトムアップのアプローチを構築し、従来の歴史学が明らかに出来なかった庶民の文化史を紐解きます。
<修士終了後>
博士課程を経て研究を続け、イタリアのルネサンス期にとどまらず、他の国・地域、時代ごとの家庭料理の文化史の研究を深めていきます。
この度、文化で社会を豊かにしたいとの想いから、研究者の道を選びました。
道のりは長く、イタリアでの学生生活は困難も伴いますが、粘り強く独自の視点で研究を深めるべく全力で頑張ります!
現在取り組んでいる研究課題
現在は、庶民料理の歴史を辿るために、3人の農民女性のオーラル・ヒストリーを紡ぐ研究をしています。
プーリア州の83歳の女性、エミリア・ロマーニャ州の90歳の女性、ロンバルディア州の86歳の女性の3人の家庭を何度も訪ね、共に料理しながら対話を重ねます。
何を食べていたのか?どのように料理の知恵を受け継いだのか?一皿の奥の背景は何か?これらの質問と対話を通して、文献にならず、歴史に登場してこなかった彼女たちの歴史を聞き出します。
そうした’名もなき’庶民の料理がについて、オーラル・ヒストリーの手法を用いて、ボトムアップで庶民料理が郷土料理および後のイタリア料理の形成に果たした役割を紐解いています。
研究に挑戦する理由
「文化で社会を豊かにしたい」
私が研究の道に来たのは、学術的な好奇心だけにとどまりません。
本質的な社会の豊かさに貢献したいとの想いがあります。
物質的豊かさに溢れる今、これからの社会に求められることは、文化的豊かさの拡充であり、大切にすべき価値の提案だと思います。
初めてイタリアの家庭で手打ちパスタを食べた時に感じた「豊かさ」は今でも忘れません。
この「文化」こそが豊かさなのですね。
庶民の料理の研究を通して、文化の幅を広げ、新たな豊かさを提案したいと思います。
文化を扱う人文系学問はしばしば、実利とは離れ、就職や奨学金取得で不利と言われます。
しかし、文化の研究の衰退は社会の衰退を意味します。
まずは私自身がしっかりと研究の成果を提示し、豊かな社会に学問から貢献したいとの想いから、この度挑戦します。
道のりは長いですが、ワクワクに溢れた庶民の家庭料理の研究を伴走頂けたら嬉しいです。
そして「文化で社会を豊かにする研究」に共感いただける方、どうか応援宜しくお願い致します!
推薦者コメント
Antonio Schiavulli
ボローニャ大学歴史文化学部「Global Cultures」コースディレクター
彼女はとにかく優秀で特筆すべき人間性を持ち、コースの教授陣一同、活躍を大いに期待しています。彼女は非常に勉強熱心で賢いだけでなく、性格も魅力的で皆から愛され、これは長い研究生活にとても重要な意味を持ちます。彼女はイタリア全州の家庭料理を習うプロジェクトを行なっていますが、必ずや遂行し、多くの示唆を得ることでしょう。私は彼女の目標達成を確信し、また心から応援しています。
Davide domenici
ボローニャ大学歴史文化学部准教授 修士論文指導教官
彼女は他の人にないユニークなバックグラウンドと独自の視点を持ち、物事を多角的に考えることを得意とします。これは歴史文化を従来と異なる視座で捉えるコンセプトにまさに適しています。私の歴史文化人類学の授業でも、彼女はその才能でクラスに貢献し、仲間から尊敬を集めていました。並外れた推進力を持つ彼女の研究の成果を期待し、また確信しています。心から推薦します。
Laura Volse
ホストファミリーの母マンマ・ラウラ
彼女はプーリアの私たちの家に、多くのエネルギーと強さを携えてやって来ました。彼女は心に太陽を持っています。どんな時も前向きで、良く教育され、教養に溢れ、好奇心が旺盛です。彼女の周りには持てる情報の全てを与え、彼女の鞄をお土産でいっぱいにする人々がいます。彼女は私たちから多くの料理を学びましたが、レシピだけでなく歴史や伝統を吸収し、人に伝えています。私の家族は彼女を娘のように愛しています。今までもこれからもずっと支えたいと思います。
自己紹介
はじめまして!
イタリア・ボローニャ大学、歴史文化学部修士2年の中小路葵です。
モットーは「迷ったら前へ」、50カ国旅をして、それでもイタリアが好き。
料理に魅せられ、イタリア人に魅せられ、イタリア料理を追求しています。ここボローニャで、一生かけて挑戦したいと思うイタリア料理の研究に出会いました。イタリア料理はシンプルで温かくて美味しい。その理由を庶民の家庭料理の歴史から掘り下げることで、「豊かさ」の新たな形に貢献したいと思います。
*略歴*
2018年東京大学卒業。
新卒でクックパッド海外事業部に入社。
転職後グローバルコンサルティング会社を経て、
2021年1月よりボローニャ大学に留学中。
複業でイタリア家庭料理研究家として活動。
ここから先は
ボローニャ大学修士、料理史学徒の研究ノート
ボローニャ大学修士、歴史文化学「Global Cultures: Food History」専攻の学生が、研究内容を共有するマガジン ・…
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