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#263【劇評・絶賛】『パン種とタマゴ姫』(2/3)昔話から読み解く

今日もお読みくださってありがとうございます!
タイトル画像は、タマゴ姫とパン種のキーホルダー。
ジブリ美術館内のミュージアムショップ「マンマユート」で買えます。
昨日に引き続き、『パン種とタマゴ姫』感想です。

先に結論。
面白い!大好き!機会があったらぜひ観てください!
(ジブリ美術館では12月まで観られますが、この記事を書いている時点で12月分までチケット完売していました……また来年!)

昨日の記事から



きのう(感想1)のつづきちょこっと

まばたきは命のあかし

昨日、生き生きしたアニメーション表現が素晴らしいと書きましたが、タマゴ姫が命を吹き込まれるときの表現がまた秀逸です。
まさに魔法みたいでワクワクします。
ぼーっと見ていると見逃してしまう一瞬の出来事で、2回目以降目を皿のようにして凝視しました。

まず手足が生えて、つぶった状態で出来上がった目が開いてまばたきをすることで、この瞬間に命が吹き込まれたことが表現されています。

パン種が生命を受けるときも同じようにまばたきがキーとして描かれています。
月の光を受けてムクムクと動き出した不定形の白いカタマリに、タマゴ姫がブドウを2粒埋めてやります。
そのブドウが周囲の白いムクムクに吸い込まれて一瞬埋まり、また開く……こうして「まばたき」をすることでブドウが目になった瞬間、パン種にコミュニケート可能な命が吹き込まれたことが観客に示されます。

不定形でムクムクと這いまわる白いパン種は、生きることに慣れてくるにつれて人に似た形になってきます。
強い魔物ほど見た目も人の形に近くなり、美しくなっていく話型ってよくありますよね。それに近いものを感じました。

感想2:伏流するたくさんの文化的下地……昔話から

食べ物が逃げる、という話型

『パン種とタマゴ姫』のパンフレットでは、宮﨑駿監督の文章が掲載されています。
それによれば、パンを主食としてきた地域では、パンが逃げる物語が多く語り継がれてきたのだそうです。
はあああ、なるほど、初めて観た時から昔話的だなと感じたのは、バーバヤーガの食卓でかつてヨーロッパの昔話でよく見たお酒の瓶が描きこまれていたからだけではなく、そういう話型を取り入れているからなのか。

「パンが逃げる」「昔話」というワードで調べて見たら、ロシアの昔話をもとにした『おだんごぱん』という絵本がヒット。
ああ、あれかあ!(元図書館児童担当)。

↓これ

この味わい深い絵柄の絵本、なんと1966年からのロングセラーなんですね。
おだんごぱんが逃げていく展開や、軽快な言葉のリズム感が楽しいけど、ラストはちょっと哀感のある、昔話ならではの何とも言えない味わい。

この話、図書館で児童担当として初めて読んだときから、「パンが逃げる」という部分がなんとも、なじみがないというか、荒唐無稽に思えていたのだけれど、宮﨑監督によれば、日本で言えばおむすびころりんだとのこと。
そうか、そう言われれば親しみが涌く。
なるほど、大事な主食が逃げる、というのは人類共通の物語体系なのですね。

『おだんごぱん』はもとはロシアの昔話。
パン種が生命を得る月の夜の場面の美術がロシア映画をイメージしている(パンフレットで武重洋二美術監督が書いていらっしゃいました)ことも、何か通底するものを感じますね。

『パン種とタマゴ姫』は、もしパンではなくパン種が逃げたらどうなるか、という宮﨑監督の発想から作ったお話なのだそうです。

バーバヤーガ

この作品には台詞がありませんが、公式パンフレットでは魔女を「バーバヤーガ」と書かれています。

Wikipediaによれば、バーバヤーガとは、スラブ系民話に登場する魔女のことだそうです。
臼に乗って移動し、働き者の娘には労働の対価に見返りを与え、そうでない者は食べてしまうのだとか。
おお、まんまだな。

もとはスラブ神話の冬の神話的表現だそうです。
なるほど、厳しい冬の寒さの前には、人間は働かなければ(=寒さの対策をしなければ)死んでしまう。

ていうか、この『パン種とタマゴ姫』で初めて「臼に乗って移動する」という概念を知ったのですが、もともとそういう昔話を持った文化があるということですね。
おもしろ!
考えて見れば、ほうきに乗って空を飛ぶのだって、現在広く知られているから違和感がないだけで、古くからある日用品に魔法を見るという点では構造としては同じですよね。

そういえば、ナウシカ終盤で傷ついた王蟲の子のところへ行くためにナウシカが乗り込んで移動する飛ぶポッドも、臼に似ている……。
宮﨑監督の発想の原点、創作の下地にある含蓄の深さには、ただただ頭が下がるばかりです。

いばらの森

水車小屋から逃げ出したパン種とタマゴ姫は、いばらの森を抜けて麦畑を村へ逃げ込みます。

いばらの森かあ。
なんか意味深ですね。
物語の装置としての意味があるのかな?

いばらと言って調べると先ず出てくるのは、キリストのいばらの冠。

また、いばらの森で言えば、『眠れる森の美女』でしょうか。

ほかに思い出すのはアメリカの昔話の『タールぼうや』。
ディズニーランドのスプラッシュマウンテンのストーリーはこの『タールぼうや』がもとになっています(『南部の唄』という映画の中でこの昔話が出てくるらしい)。
すばなし(ストーリーテリング)の教科書、東京子ども図書館が発行している『おはなしのろうそく31』には「ウサギどん キツネどんとタールぼうず」というタイトルで収録されています。

余談:バーバヤーガの食卓に描きこまれた、「かつてヨーロッパの昔話でよく見たお酒の瓶」

ごく一瞬描かれただけだったのですが、確かにこういう形の酒瓶がありました。

これ、小さいころよく読んでいた絵本か物語かに描かれていて、小さいころのお酒の表象と言えばこれだったのを鮮やかに思い出したのだけれど……なんだったかなあ……
ドリトル先生?
大草原の小さな家?
はたまた11ぴきのねこかしら?!
→図書館で見てみたらどれも違った…
むむむ、気になるう!

この瓶を包んでいるのは藁で、藁苞(わらづと)というそうです。納豆の藁のと同じですね。フィアスコ、とも。

明日に続きます!

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