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【読書】古事記転生

出版情報

  • タイトル:古事記転生

  • 著者:サム(アライコウヨウ)

  • 出版社 ‏ : ‎ サンマーク出版 (2023/6/29)

  • 単行本 ‏ : ‎ 287ページ

人気YouTuberの初小説

 著者のサムは名古屋でカフェやバーを経営しながらYouTuberをしている。登録者数49万人のTOLAND VLOG は立派な人気番組と言えるだろう。聞き役のマサキのおとぼけ具合がいい味出している。神話・伝説の「本当のところはどうなのか」をさまざまな考察や推測、推理を加えながら発信している深掘り系。「本当のところ」といっても史実そのものを歴史学者のように探すわけではない。歴史学会などの学際に認められている文献だけを頼りにするのではなく、いわゆる偽書と言われるもの、現地調査、なかなか出会えない人々との出会いや各種情報なども積極的に考察に取り入れている。返す刀でスピリチュアル系・都市伝説系もほんのちょっと、といった感じか。
 予備校講師&著述業YouTuber茂木誠氏も『観ている』とのことだったので、なんらかの共鳴する部分はあるのでは、と思われる。

 この小説の主人公のひとりは古事記に登場する大国主(オオクニヌシ)であり、『若い人にもっと古事記や日本神話を身近に感じてほしい』『人とのつながりや祭、伝統を大切にして欲しい』『日本は昔から人にとって大切なことをごく自然に大切にしてきた』…そういったことが伝わるように願いを込めながら書かれたのではと感じさせる。そしてもうひとりの主人公は現代を生きる若者サムだ。主人公の名からも分かる通り、小説という形をとりながら著者サムが主人公サムを通して、なぜTOLAND VLOG を始めたのか、どんな思いが背景にあるのかを書いた本でもあると容易に読み解け、その期待を裏切らないすばらしい出来栄えとなっている。

本書のテーマは個人の成長、国の成長、日本神話は成長に役立つ物語

 アマゾンで古事記と検索すると、意外にたくさんの口語訳や原作に忠実な漫画が、いろいろな人によって訳され描かれ出版されていることに気づく。古事記は隠れた人気作品なのだ。その中で、本作品は「神話・伝承」の人気ランキングで2位につけている。上記の著者の願いが多くの人々に通じた結果だろう。
 本書では現代人が古事記の時代に転生し、何を見るのか、何を感じ、どう成長していくのか、個人の成長とは国として成長していくとはどういうことかわだかまりを解いていくこと本当のwin-winの関係とはどういうことなのか、読みやすく、わかりやすい物語の中で各種大きなテーマが展開されていく。特に物語の後半が濃い内容になっている。若い人だけでなく、大人も気軽に楽しめると思う。ぜひ秋の夜長に手に取ってほしい一冊だ。

 大国主の話は兄神たちにいじめられているみそっかすの弟神が国を統治するようになる成長の物語なのだが、本書は1990年代以降に始まったいわゆるスピリチュアル系の成長の物語の味つけもされていて、「あ、古事記ってそういう素材にもなり得るんだなぁ」と気づかされた。さらに一歩踏み込んで「日本らしさとは何か」その上で「日本を超えた普遍性とは何か」にも(著者サムが意識しているか否かはわからないが)応えよう、あるいは今後みなで考え応えていけるようにしよう、としているように感じられる。あるいは「今日本に住んでいる私たち僕たちが成長していくってどういうことか」「今その過程の中でつながりを築いていくってどういうことか」さらに「その過程の中で良きものを発信していくってどういうことか」に開かれようとしている、という感じ…。一言で言えば意欲作なのだ。

 次章以降はネタバレを含むので、おまけ飛びたい方は目次を利用して欲しい。
 もう十分スピリチュアル系や自己啓発系の本は読んできた、という人は『国って何?:大国主の国づくり その1』や『二元論に陥らずに敵と対峙するとは:本当のwin win』など、興味関心によって、良さそうなところまで飛んでください。
 そしてあらかじめここでいっておく。この物語を書き発表してくれたサムに感謝します、と。


*ここからネタバレあり*

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個人の成長:サムの成長、大国主の成長

 物語の導入部分のあらすじは…現代を生きる若者サムが兄をかばって死にかける。そしてどうしたはずみかお兄さん神=八十神(ヤソガミ)にいじめられているナムチの人生に転生する。ナムチは大国主と呼ばれるようになる前の弱虫神様の名前だ。みんなが知っている因幡の白兎の物語。その白兎を助け、姉神アマテラスと一悶着起こして今は根の国に住まう乱暴者の神様スサノオに無理難題を出されながら、いろいろな人や動物たちから助けを借りて…と物語が進んでいく。
 訳のわからない状況に放り込まれ混乱する主人公を導く狂言まわしは、奇魂幸魂(クシミタマサキミタマ)のタマちゃんだ。スピ系の言葉でいえばハイアーセルフといったところだろうか。

 成長の物語で得る財宝は金銀宝石ではない。気づき、だ。それによってわだかまりが解消し、自らの心の器(うつわ)が広がること。以下、主人公たちが得た気づきやタマちゃんたちの重要なセリフを挙げていく。

この世界の大原則を一つ教えとくわ。それは、”自分で気づく”ってことやねん。…そこをクリアしないと人生の中で何回も似たようなピンチが起こるんやで」…「これらは全て”メッセージ”なんや

古事記転生 p43-p44
陰陽太極図

タマちゃんは陰陽太極図を示しながらこの世の理(ことわり)を説いていく。

万物は全て陰と陽に分けられる…あらゆるものは陰と陽ののバランスによって成り立っていてどちらもなくてはならないものやねん」

古事記転生 p46

自分の心の中にある”見たくない陰の部分”に気づいて受け入れていくことが大切やねん

古事記転生 p48

なかなかに耳が痛い。

「もう一個だけこの世界の大原則を教えといたるわ。それはな、何があっても”人のせいにするな”ってことや」

古事記転生 p49

自分の気持ちに気づくことが第一歩。そしてその先に課題への気づきがある。

サムはただ自分の気持ちに気づいただけや。自分の課題に気づかなあかんねん」

古事記転生 p79

サム=ナムチは兄神
である八十神に殺される直前、「自分は兄貴に嫉妬してただけだ、本当はただ笑って一緒に過ごしたかった」p66と気づく。これも素晴らしい気づきだ。サムは後にさらにもう一段深い気づきに至る。
 タマちゃんは話を続ける。 

サムの口癖は”俺は悪くない”やったな」
「うっ…!」
図星だった。…
「…もうわかってるんやろ?サムの課題は——」
「わかってるよ!肝心なときにいつも逃げることだって言いたいんだろ?」…
自分の弱さを認められただけでもすごいやんか」

古事記転生 p105-p107

立場の上下や生き物の種の違いさえも関係なく、フラットに関われるところはサムのええとこやな」

古事記転生 p111

まず、サムの良いところを褒めてから、人が陥りがちで、なかなか抜け出せない心の状態について語り始める。

魔王モードってのはな、人のせにし続けたら突入してしまうこわーい現象やねん」…
逃げてもいい、忘れてもいい、人のせいにしてもいい。それが”気づくきっかけ”になるならな。でも人のせいに”し続けたら”あかん」…
「人のせいにし続けるってことは、何かを捻じ曲げてるってことや…実際に怒ったことや過去に感じたことさえも頭の中で作り変えてしまってるねん…そうなったらなかなか後戻りはできへん」…
魔王モードの人間が現れたら…逃げるか、大きな器で魔王の心を飲み込むか、二つに一つやな。もちろん逃げた場合は魂が成長する可能性は低いよ」
何より大事なのは、サム自身がどんな未来を作りたいか。何を大切にしているか。そこに集中することやな」

古事記転生 p112-p114

物語は後に、この伏線を回収する。

国って何?:大国主の国づくり その1

 見事スサノオの出す難題を解消・解決したナムチ。スサノオの娘と結婚する資格を得た。それはつまりスサノオの後継者となり、スサノオが行おうとした国づくりをナムチ自身が引き継いで行っていく、ということだ。
 では国づくりとはどういうことだろう?

国っていうのはな……人が集まってできるもんやねん…一人ひとりの心が集まって国が作られていくってことなんや。だから昔の天皇は国に住む全ての人のことを”大御宝”って呼んだんやで。一人ひとりの心、大御宝の集合体が国なんや

古事記転生 p125

これは左翼が泣いて悔しがる国の概念だろう。そして大東亜戦争以降、壊れてしまった『国』の概念だ。壊したのはGHQだ、という物言いもあるが、私は『王政復古』(明治維新)の時点で、いったん『大御宝の集合体としての国』が少なくともいったんは壊れる可能性が高まったのではないか、と思っている。先人は一千年以上も政治的権威と宗教的権威(祭祀上の権威)を分けてきた。もしかしたら、弥生時代、縄文時代に遡ることができるほどに、これは大切な知恵だったかもしれない。それを放棄したのだ。何が起きてもおかしくない。そして、それを取り戻す可能性も、また、ゼロではない。GHQのせいなんかにしていては、可能性はどんどん低くなってしまうのではないだろうか。

”大国主”はイザナギとイザナミの代で途絶えてしまった国づくりを託されたんや」…
「でも、いきなり『国を背負え』なんて言われたら、重たすぎるでしょ!」
「何言うてんねん!…自覚がないだけで国に住む全ての人間が国を、地球を背負ってるねん!」…
「国づくりを任されたからってトップに立って威張り散らかせって話じゃないんよ。国の心でもあり、宝でもある一人ひとりが生きるのに必要な全てを伝えていくことが王様の役割なんや。例えば、農業とか医療、お祭り、心の在り方とかかな」

古事記転生 p126-p127

『自分自分!』って考える人間が増えると、このバランスは簡単に崩れるねん。そして、気がつけば一部の権力者が支配するピラミッド構造ができあがってしまう。サムが生きる現代は、まさにその極みみたいな時代やな」…
歴史から何から大切なことは何一つ教えられず、体も精神も蝕まれ続けているのにそれにさえ気づいていない。国づくりという観点から見ると、真逆の世界やな」

古事記転生 p127

現代を席巻している『今だけ金だけ自分だけ』の新自由主義。まさに「『自分自分!』って考える人間」のことだ。それは真の『国づくり』からは真逆なのだ、とタマちゃんはいう。

自分で気づいて受け入れて努力して、少しずつみんなと一緒に進んでいける存在が国づくりのトップにぴったり…」

古事記転生 p128

今だけ金だけ自分だけを中和するには「自分で気づいて受け入れて努力して、少しずつみんなと一緒に進んでいける存在」が必要だという。
誰かひとりにその役割を押し付けるのではなく、みなが「自分で気づいて今まで受け入れがたかったものを少しずつでも受け入れられるよう努力する」「そういう歩みをみんなと一緒に進んでいく」ことができるようになる必要があるのではないだろうか。むずいケド。

そういう現代っ子サムがいろいろな困難を乗り越えたの末に到達した理想の生き方は…

楽しく笑って生きていきたい。みんなと仲良く幸せに暮らしていきたい!

古事記転生 p129

そしてサムは大国主ができなかった、かつて自分をいじめた兄神たちを「許す」ことをする。古事記では怒りに任せて殺してしまった兄神たちを。そして改めて国づくりを行なっていく。

穢れと禊ぎ:イザナギの課題

  改めて国づくりを行う前に、タマちゃんはイザナギとイザナミの国づくりをサムに見せる

イザナギはどれだけ時間が経っても、イザナミの死を受け止めることができなかった…」

古事記転生 p154-p155

よく知られているようにイザナギは死んでしまったイザナミを助け出そうと黄泉の国に向かうが、そこで「見るな」と言われていたイザナミの姿を見てしまう。すでに腐敗が始まっていたイザナミの姿に驚き、イザナギは逃げ出した
 そしてあの世とこの世の境、黄泉比良坂(よもつひらさか)に来るとイザナギは大きな岩で道を塞いだ。2人は今度こそ別れを告げる。というか、もう2人は別の世界に住んでるんだ、ということをお互いに受け入れる

愛しい私の夫イザナギよ。あなたがそのようなことをするならば、私は今日からあなたの国の人々を1日1000人殺しましょう」…
愛しい我妻イザナミよ。それならば、私は1日に1500の産屋を建てさせてみせるぞ!

古事記転生 p160-p161

驚いたことに、この黄泉比良坂が島根県に実在するのである!ホント不思議の国、ニッポン。
 黄泉の国から戻ったイザナギは川に入って禊ぎを行う死の穢れを払うためだ。

イザナギはな、こうやって心の中にあったモヤモヤを一つずつ脱ぎ捨ててんねん煩わしい自分弱い自分情けない自分一つひとつ感じて、そんな自分と向き合おうとしてるねん」…
すると、川が暗く濁り始め、川底から激しい揺れと大きな音が響いた。…
「今この川で蠢いて(うごめいて)いるのがな、イザナギの心の底にへばりついていた弱さとか恐怖そのものや…イザナギの弱さがとんでもない化け物を生み出しよったで!」…
川から2体のドス黒い巨大な竜のような姿をした化け物が現れた2体の化け物は苦しそうに蠢きながら、空の彼方へと消えていった
「あれはな、この世界に災いを引き起こすヤソマガツヒオオマガツヒや。…この川には元々、人の罪や穢れを洗い流す古い古い女神様がおってな。その女神様が洗い流せなかった黒い塊がさっきの化け物ってことやけど、その半身には全てを洗い清める女神様の力も宿ってるねん」

古事記転生 p162-p164

西洋の話にあるパンドラの箱。あらゆる禍々しいものが箱から飛び出して世界に飛び散っていく。そして最後に『希望』が箱に残り、それさえもが世界に飛び去る…。どこか、ヤソマガツヒ、オオマガツヒと似ているお話だ。すべてを払い清める女神も世に放たれていく。

イザナギは川で体を洗い清めながら泣いていた。子どものように鼻水を垂らして、大声で泣き叫んでいた。…
イザナギの魂の課題はな”受け入れる”ってことやったんや。イザナギは愛するイザナミの死を受け入れられなかったし、醜いイザナミの姿も受け入れられなかった。川の中で自分の心にあった煩わしい自分や弱い自分、情けない時運とひたすらに向き合ってたんや!そして、イザナミの大きな愛を噛み締めていたんや」

古事記転生 p164-p165

イザナギとイザナミの黄泉比良坂での別れ。

「あれはな、国づくり最後の仕事やってん」…
「当時、人間にはまだ”寿命”の概念がなかった。あの瞬間に人が死に、生まれていく仕組みができたんや。人間は神様のように賢くない。だから、あえて命に限りを与えることで生きることの意味限りある命の使い方を考えさせることにしたわけや」

古事記転生 p166

 イザナギは『死も醜さも受け止めきれなかった自分へのどうしようもない怒り』さえも受け止めて、立場や姿は変わっても、変わらずにあるイザナミの大きな愛も噛み締めて涙を流し続けるp167。そして禊ぎを続けると左目からはアマテラスが、右目からはツクヨミが、鼻からはスサノオを産が生まれる

「イザナギはこのとき、本当の意味でイザナミの気持ちを受け止め、愛することができたからこそ心の陰陽が統合して最高の神様を産むことができたわけやな!」…
「イザナギがずっと見ないようにしてきた『心の陰の部分』を受け入れ、成長できたからこそやな」…
「人間であろうが神様みたいな高次元の存在であろうが、必ず自分の魂に成長の余地はある陰陽太極図の小さい点に自分で気づいて、乗り越えることができたらどんな存在でも人生は大きく変わるちゅうことや」

古事記転生 p168-p169

国の成長を促す教え:大国主の国づくり その2

 十数年ほどの時間が経過し、大国主は息子の少彦名命(スクナヒコ)と国づくりを行なっている。スクナヒコによると大国主は『天から授かった国づくりの教えを世に広めるために国中を回って』いるp178。

国の在り方国と国との結びつき方をお伝えし、そこに住む一人ひとりに生きる術を教えているんです」…
穀物の育て方や魚の捕り方お薬とかお酒の作り方を教えて自然への感謝と関わり方を伝えます。何より人と人を繋ぎ、伝統と技術を受け継ぐお祭りはとっても大切ですね!」

古事記転生 p178-p179

「父上はいつも国中にさまざまなタネを配りつつ、一つひとつ丁寧に育て方を教えて回ってるじゃないですか。そして、五穀豊穣を祈るお祭りをして龍神様を呼んで雨を降らせてもらうんです」

古事記転生 p185

なんだか、アメリカの伝説、ジョニー・アップルシードみたいだ。彼も神の教えをリンゴの種を植えながら伝えている。ジョニーは実在の人物らしいのだが。

大国主とスクナヒコは日本各地を巡っていく。そして、現代のサムは驚く。

国と国の結びつきだけじゃなく人と人、精神、食、自然とのバランスがこれだけ考えられていたなんて…
人々は当たり前のように自然に感謝し、自然を畏れ、自然の一部として生きている必要以上のものは取らず、食べず、所有しない。…
こういった考えは人々の間で、きちんと受け継がれていくものらしい。大切なことはおとぎ話や日常の作法、お祭りの行事として自然と組み込まれているのもすごい…

古事記転生 p187-p188

これだけ世界が豊かなことを知っていれば、日常の些細な比較で一喜一憂しなくても幸せに生きられる日本人はいつ”この感覚”を失ってしまったんだろう

古事記転生 p188

大国主の主な教えは下記の通り。

国づくりの教えでは、人は目先の欲に惑わされてはいけないそういう時はタネを見なさい…人生は種蒔きと同じだから、それを伝え続けなさい今を感じて未来を信じて、毎日丁寧に生き続けることが大切…」

古事記転生 p190-p191

人とたくさん話して、たくさんの話を聞いて、自分の”目をふやせ”…」
目は視点とも言い換えられます。目が一つしかない人は、人のいいところを一つしか見つけられない目が増えれば増えるほど、人のいいところがいっぱい見つかるから人生が豊かになる…」

古事記転生 p191-p192

なんでも自分でしようとするな。堂々と人を頼りなさい
強みを増やすのではなく、感謝される人を増やしなさい

古事記転生 p192

サムの気づきは深まり、1番の課題に気づいていく。

そもそも誰かの上に立とうとしなくても、周りの人たちや自然に感謝して、一緒に生きられたらそれで幸せなんじゃないのか

古事記転生 p193

そして、俺の人生の課題は「逃げないこと」じゃなかった…「向き合うこと」だったんだ!…
俺はずっと、自分とも他人とも向き合うことが怖かったんだ。受け入れることを恐れていたんだ。

古事記転生 p206

そしてタマちゃんは感情のもつれ、わだかまりの解消の仕組みを解説する。

ほとんどの人間が感情を一色やと思い込んで固定化してしまうんやな」…「タケルはナムチを憎んでいた。だけど、心の奥底には、”ナムチへの愛情”も存在してたんや。…サムがタケルの心に向き合ったからこそ、タケルも自分の心を素直に見られたんやろな」

古事記転生 p208-p209

タケルは兄神たち=八十神のひとりだ。
 この部分と、これ以降はぜひ、本書を読んで欲しい。本書を読むことでサムと大国主の人生を読者自身が生きることができる。それが著者サムの願いであるに違いない。

二元論に陥らずに敵と対峙するとは:本当のwin win

 古代に生きるサム=大国主。自分をいじめ抜いた兄神たち=八十神によって、一緒に国づくりをした息子のスクナヒコが殺されてしまう。だけれど、古事記の記述とは違ってサム=大国主は八十神を許す。「おまえを殺さない代わりに、オレの目の前から消えてくれ」といって。
 現代に戻ったサム。自分を刺した男と対峙する。それは相手を敵として認識して対峙するのではなく、心の重荷を抱えている相手から逃げてしまった自分の弱さを謝りたい、と伝えるために。もうそれは許すとか許さないとかを超えている。法律や常識を超えた『自分はどうしたいのか』に向き合った上での行動。自分の弱さを認めそれをオープンにした上で、相手との間で展開されるものに委ねていく。こちらにわだかまりがなくなると、相手は相手の咲かせたい花を咲かせ始める。男は自首を選択した。
 タマちゃんはいう。

あらゆる出来事は…どっちかだけがいいとか悪いっていう”二元論”では決められへんねん…ホンマはな、物事は”球体”のように捉えなあかんねん。いいも悪いも全部ある」…「”何にフォーカスするか”で物事の捉え方って全然変わる常に球体のように物事を捉えることが大切…」…
結局、成功と失敗の線引きは自分か他人の価値観に従っているだけってこと…」

古事記転生 p226-p227

出来事は誰の視点で見るかによって、如何ようにも評価が変わる。そういう観点に立てば、『敵』という言葉がすでに視点を固着させていることに気づく。敵・味方という二元論の世界に陥っている、と。もちろん、人生の時期・状況・場によっては、そういう見方が必要なこともあるかもしれない。だが、いつもいつもそういう視点に固着する必要もない。出来事は球体であって如何ようにも視点をとることができる。評価軸は「自由に」決めてよいのだ。

全ての魂は成長を望んでる

古事記転生 p233

自分の心の中にある陰も陽もどっちも受け入れて大切に拝んであげて

古事記転生 p234

あらゆる視点の向こうには自分を含めて人がいる。人の心が評価軸を定めている。その心がどんな心であろうとも、『陰も陽もどっちも受け入れて大切に拝む』。なかなかできないことだが、カギとなるのは「自分がどうしたいか」だと物語は伝える。

 …そして次なる試練がサム=大国主を待ち受ける。次章はネタバレ中のネタバレになる。飛ばしたい人は*ネタバレ中のネタバレはここまで*まで、飛ばして欲しい。

*ここからネタバレ中のネタバレ*

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この世界線の国譲り:タケミカヅチとの対決

 大国主の国づくりがうまくいっていることを天上界から見ていたアマテラスは「ん?スサノオを追放した葦原の中つ国(あしはらのなかつくに)がいい感じになってきたのう。そろそろ返してもらおうぞ」と、配下のタケミカヅチを葦原の中つ国に送る。
 タケミカヅチは浜辺に降り立つと、大剣を一振り浜辺に逆さに立てて、その切先の上であぐらをかいた。剣は支えもなく自立している。古事記の中でもなかなかに映えるシーンだ。
 タケミカヅチとサム=大国主の対決を見ていこう。タケミカヅチはいう。

貴様らは他人のために命を投げ出すことができる。だから厄介なのだ

古事記転生 p252

大国主の息子のコトシロヌシがいう。(大国主には、八十神に殺されたスクナヒコ、タケミカヅチに殺されたタケミナカタ、そしてこのシーンではコトシロヌシが大国主のそばに仕えている)。

古代から受け継がれてきた伝統も、知恵も、信仰も…全て隠さなくてはならない時代が…」…
「これまで大切にしてきた自然への信仰は失われ、人間がこの世界を支配しようとする時代。だからこそ、数千年先に再び訪れる新たな国づくりのときまで、真の歴史は隠さなければならない…」…
ここから先は父上が決めてください!戦うか、逃げるか、国を譲るか

古事記転生 p252-p253

大切な教えが隠される時代が訪れようとしている。決断はサム=大国主にかかっている。サム=大国主はタケミカヅチと対話をはじめる

なんでそうまでしてこの国が欲しいんだ?自分たちが元々住んでいた場所で十分じゃないのかよ?どうしてわざわざ人の土地を奪いたいと思うんだよ!」

古事記転生 p254

「ワシは剣より生まれ出た軍神。戦いこそが全て!力と力がぶつかり合うこの世界こそがワシにとって生きる意味なのだ…人間同士、神同士が戦うからこそ剣は磨かれ、研ぎ澄まされていくのだ。競い続けるからこそ、この世界は発展していくのだ。争いがない世界に繁栄はない!争いの中で生まれる文化や技術こそが美しいのだ!」

古事記転生 p256

これこそ、現代人が陥っている考え方だ。だがサム=大国主は反論する。

たくさんのことを犠牲にして争い続けても、ほとんどの人が幸せを感じてないんだよ」

古事記転生 p257

タケミカヅチとサム=大国主勢の力は拮抗している。サム=大国主はスクナヒコと行った国づくりを思い出す。

「…あのさ…自然に感謝するところから1日が始まって、みんなが作ったものをわかち合って支え合って…本来”生きる”ってそういうことなんじゃないのか?そんで、土地も自然も神様のものなんかじゃない。ましてや人間のものになんかできるはずがないんだ!…本来地上は誰のものでもないがずだろ!」…「俺はスクナヒコと一緒に国づくりを学んだ。その根底には常に所有じゃなくて共有の精神があった!この土地は誰のものでもない奪うんじゃなくて、一緒に暮らすっていうんなら俺は大賛成だ!

古事記転生 p264-p265

これは『共産主義』ではない。『共産主義』はむしろ共産党による独占・独裁のための装置だ。むしろ経済人類学者ポラニーの『大転換』にある考え方に近いのではないか。

戦いを望んでいたタケミカヅチは、俺が出した「一緒に暮らす」という共有の選択肢に戸惑っていたが、やがて自分自身に言い聞かせるかのように口を開いた。
「…ワシはワシの生き様を貫くが、お主の作る未来も…見てみたくなったぞ

古事記転生 p266

勝負はついていない。先送りになったのだ。その舞台が現代である











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*ネタバレ中のネタバレはここまで*

サムが大国主に託されたこと

 物語の最後の方で主人公サムは、もう一人の主人公大国主と対話する。そこで大国主はサムに言う。

大切なことはすべて体に刻まれておる!そして、日本中の土地や自然、お祭りの行事や古くから残る昔話や歌、普段何気なくしている作法の中に散りばめられておるのだ!」…
日本の隠された歴史を拾い集め、国づくりの続きをして欲しいのだ!」

古事記転生 p271

それはどうやって?サムは問う。大国主は答える。

「簡単なことよ!たくさんの人に”疑問”を与えればいいのだ!」

古事記転生 p272

そしてサムに現世でなすべきことを具体的に示す。

あらためて歴史や神話を学ぶのだ。そしてサムが疑問を感じたところは徹底的に調べる必要がある」…「そして、歴史の真偽より”疑問を持って探究し続ける姿勢”さえあれば、必ず国づくりの本質に辿り着くはずだ!」

古事記転生 p273

また、大国主は真実の一端を伝える。

土地や自然だけでなく、自分の肉体さえも”天からの借り物”だったと言うことに」

古事記転生 p273

最後に大国主は、大国主が伝えることのできる最大の教えを述べる。

迷ったら”タネを見よ”!」

古事記転生 p273

現代の若者、サムの国づくりが始まる

 私はまだ、『迷ったら”タネを見よ”!』について腹落ちしていない。だが、これをナゾのタネとして育ち見守ろうと思う









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*ネタバレはここまで*

成長の物語で得る財宝は金銀宝石ではない。気づき、だ。それによってわだかまりが解消し、自らの心の器(うつわ)が広がること。


引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。

おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために

ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。

著者サムのYouTue番組 TOLAND VLOG。聞き役のマサキもいい味出してる!

たくさん動画をアップしているうち、日本神話をテーマにした動画の再生リスト。

絵がかわいかったので。

この人の口語は、味わいがあります。

なんか評判よかった。意外に原作に忠実とあったので。

アマゾンで古事記で検索した結果。

パウロ・コエーリョ。第10の予言。アミ〜。もっとあると思うけど、思い出せた懐かしの物語たち。

これをきちんと読みたいと思って、このブログを始めたようなものです。残念ながら、まだ満足いくようには読めていない。

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