
【読書】MMT講義ノート:貨幣の起源、主権国家の原点とは何か その4
出版情報
タイトル:MMT講義ノート:貨幣の起源、主権国家の原点とは何か
著者:島倉 原
出版社 : 白水社
発売日 : 2022/6/1
単行本(ソフトカバー) : 268ページ
大学の講義がコンパクトに
著者 島倉 原はクレディセゾンのアナリストだ。そして官僚であり評論家でもある中野剛志と組んでMMTに関する本をいくつか上梓している。その島倉による早稲田大学での講義を書籍にまとめたのが本書だ。MMTを理解するのに適切な本だと思う。これからの日本を担う若者が学ぶのにふさわしく、六章あるうちの最後の二章は日本の現状と日本のこれからについて書かれている。
本記事は、本書 MMT講義ノートを紹介する一連の記事のうちその4である。第五章 何が長期停滞の原因かーーMMTで読み解く日本経済 を紹介していく。
【読書】MMT講義ノート その4 第五章を中心に
本書の内容は潤沢で読みやすい。ご興味のある方はぜひ本書 MMT講義ノートに直接当たってください。
この記事は、まずは自分のためのまとめである。ご了承ください。
目次を貼るのでご希望の場所に飛んでください。
言葉の定義
最初に本記事でよく使う用語の定義をしておこう。経済に強い人は、「いまさら」と思う用語ばかりだろうが、私はゼロからの学びなのでご容赦ください。
【定義】GDP、実質GDP、名目GDP
GDPには、実質GDPと名目GDPという2つの定義がある。日銀の定義を引用しよう。
GDPは、英語名称(Gross Domestic Product)の略で、日本語では国内総生産といい、一定期間内に国内で生産された財(モノ)・サービスの付加価値の合計額です。一国の経済活動を包括的に示す指標・景気を測る指標として重要なもので、内閣府が作成・公表しています。
GDPには名目値と実質値があります。名目GDPは、実際に取引されている価格に基づいて推計されるため、物価変動の影響を受けます。一方、実質GDPは、ある年(基準年)の価格水準を基準として、物価変動要因が取り除かれています。このため、景気判断や経済成長率をみる場合には、名目GDPだけでなく実質GDPも重視されます。
著者 島倉は名目GDPについて「生活実感に近い」と述べているp161。実質GDPは上の引用にあるように「景気判断や経済成長率をみる」場合に重視される。
【定義】GDPデフレーター、GDPデフレーター前年比
GDPデフレーターは下記のような式によって定義される。

経済が縮小傾向(デフレ下)あれば1より小さく、経済が拡大傾向(インフレ下)にあれば1より大きい。
著者 島倉はGDPデフレーターの前年比((%表示)実際にはそこからから100を引いたもの)も用いている。これがプラスであればインフレ圧力があり、マイナスであればデフレ圧力があることになる。
【定義】製造(工)業生産能力指数、賃金指数
GoogleのAIの回答を掲載する。
製造業生産能力指数とは、製造工業の生産能力を指数化して示したもので、鉱工業指数に公表されています。
生産能力指数は、操業日数や設備、労働力などの条件が標準的な状態で生産可能な最大生産量を能力として定義し、これを指数化しています。基準年を100としており、業種別や品目別の最大生産能力の推移を示します。
2025.01.13
賃金指数とは、労働者に支払われている賃金の一定時点を基準として指数化し、時間的や地域的、業種間などで水準や変動状況を比較できるようにしたものです。
賃金指数を作成する方法は、一般的に、現時点の賃金支払総額を基準時点のそれで割る方法や、現時点の労働者1人当りの平均賃金を基準時点のそれで割る方法などがあります。
また、名目賃金指数や実質賃金指数など、現金給与総額の指数もあります。実質賃金指数は、名目賃金指数を消費者物価指数で除して算出されます。実質賃金は、労働者が実際に受け取った給与である名目賃金から、物価変動の影響を差し引いた指数で、労働者が給与で購入できる物品やサービスの量を示しています。
2025.01.13
何が長期停滞の原因かーーMMTで読み解く日本経済
ノーベル賞学者も間違ってる!
2019年にノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンがMMTにケンカを売ったを批判した。「機能的財政は何が間違っているのか?」と題するコラム記事をニューヨーク・タイムズに寄稿した。
クルーグマンは、その記事の中で、政府債務は「無限にはなり得ない」と述べています。GDPに対する政府債務の比率が上昇するにつれて、「人々は、それを保有する条件として、ますます高い利回りを要求するようになるだろう」というのがその理由です。そして、政府はある時点で、債務の増加を抑制するために、プライマリー・バランスの黒字を十分確保せざるを得なくなるだろうとしています。
これは「「国債残高を気にするのは無意味であり、財政は赤字がむしろ正常である」というMMTの主張を真っ向から対立するもの」だp150。クルーグマンは「GDPに対する政府債務の比率が上昇するにつれて、インフレ圧力が高まることも暗に示唆」しているp150。
このケンカを買った記事に反論したのは、ステファニー・ケルトンだ。ブルームバーグに「現代貨幣理論は破滅への処方箋ではない」と題する記事を掲載した。なんとノーベル経済学のクルーグマンに対する反証として日本の状況を挙げたのである。「日本のGDPに対する政府債務の比率は300%に達しそうなほど上昇しているが、金利は低水準にとどまり、プライマリー赤字も特に問題なく継続している」からだ。
実際の日本の状況を著者 島倉はデータにて確認している。それをまとめたのが下記のグラフである。
政府純債務が高水準であるにもかかわらず、国債の長期金利は低水準、またプライマリーバランスも赤字を続けており、デフレ指標もデフレであることを示している。ケルトンの言う通りだ(註:ケルトンは「粗債務」をベースにしているが著者 島倉は純債務を採用している。「純債務の方が議論に適切」とのこと。純債務=債務ー金融資産。また下図の政府とは地方自治体も含むGDP統計上の「一般政府」を指している)。

MMT講義ノート p152
政府債務が高水準であるにもかかわらず、
長期国債金利は低水準だし、
プライマリー・バランスもマイナス、
デフレ指標であるGDPデフレーターも
デフレであることを示している。
つまり、ノーベル経済学賞受賞者クルーグマンの
言っていることは現実とかけ離れている。
この日本の状況を主流派経済学では説明できない。たとえノーベル賞受賞者であろうとも。
だがMMTによる説明は容易だ。「通貨主権国である日本では政府が債務不履行になることはあり得ないので、政府債務対GDP比の上昇が債務不履行リスクの上昇と認識されることはなく、国債金利が高騰することはない。日本の場合、経済が停滞して低金利である上に、日銀が大量の国債を買い進めた結果通貨は十分に市場に出回っているので、高金利でお金を借りる動機がない」p153。そしてたとえ市中に通貨が出回っていても「需要不足」であれば、その通貨を使って設備投資などをしようという企業は現れず、インフレどころかデフレ傾向が続く、と言うわけだp154。
続く各項目では、島倉はグラフを多用して、実際のところ、どうなのか?を丁寧に説明している。
第五章 何が長期停滞の原因かーーMMTで読み解く日本経済.
(p154以降の各項目)
財政赤字は「インフレの原因」ではなく「デフレ圧力の結果」
1997年がターニングポイント
需要不足のスパイラルは今も続いている
企業の投資意欲低下がもたらした就業環境の悪化
需要不足以外の要因では長期停滞を説明できない
金融緩和か財政拡張か---主流派経済学とMMTの対立
金融政策はほとんど無効
緊縮財政こそ長期停滞の真因
日本経済を抑圧する消費税増税
財政拡張トレンドに水を差したアベノミクス
長期停滞脱却の展望は開けつつある?
コラム:終戦直後のハイパーインフレはなぜ起きたのか?
太字は本記事で説明する項目
そこで、本記事では需要不足こそが失われた30年の原因、日本の財政政策の失敗という大項目を立てて、p154以降の本書第五章の内容を紹介していく。上記で引用したようにMMT講義ノートの各項目はどれもが興味深い。ご関心のある方はぜひ直接本書にあたって欲しい。
需要不足こそが失われた30年の原因
財政赤字は「インフレの原因」ではなく「デフレ圧力の結果」
主流派経済学者(や財務省)の財政赤字を問題にする姿勢。その懸念の一つは「ハイパーインフレが起きる」というものだった。だが、日本は財政赤字を続けていても、数年前までハイパーインフレが起きる気配もなかった(ここ数年のインフレは海外からの各種輸入品高騰とそれに伴うコストプッシュインフレ(供給側要因によるもの)であり、健全なインフレ=需要不足解消によるものとは意味合いが異なる)。
島倉は、というかMMTの見解としては、
…財政赤字は、景気後退によってほとんど自動的に増加するものである…。つまり主流派の想定とは逆に、財政赤字の拡大は、非政府部門による過小支出の結果であるというわけです。
景気後退時に財政赤字が増える傾向は2008年のリーマンショック時も、1930年代の大恐慌下の米国でも見られた(日本では1929年から1933年まで緊縮財政が行われたにもかかわらず)。GoogleのAIも内閣府WEBの内容を参照しながら、下記のように言っている。
不況時には、収入の低迷と支出の増加により財政赤字が増加します。
不況時の財政赤字の要因
・景気の長期的な弱さ
・経済対策の繰り返し
・社会保障費用の増加
・不況への対応による公的部門の歳出規模の拡大
2025.01.11
不況時は非政府部門が特に支出を控えるときである(それが続くのがデフレ=経済縮小である)。だから政府部門が支出を増やさざるを得ない。
だから本来であれば、政府部門の赤字を減らすことを目的にして緊縮財政をするのではなく、非政府部門が健全に経済発展できるように、出すところは出していくことが望まれるところである。
1997年がターニングポイント
著者 島倉は下図を示して、1997年がターニングポイントとなっていることを結果から示している。

MMT講義ノート p159
1997年はアジア金融危機が起きた年である。そのこととの関係までは踏み込んで言及していない。ちなみに、「アジア金融危機 ソロス」で検索するとGoogleのAIは下記のように回答してくれる。
ジョージ・ソロスは、1997年に発生したアジア通貨危機の際に、タイのバーツや他のアジア通貨を大規模に売り仕掛けた(ショートポジションを取った)ことで知られています。
2025.01.11
需要不足以外の要因では長期停滞を説明できない
著者 島倉は、GDP、企業活動(日米製造業生産能力指数)、就業環境を観察した上で、「いずれを見ても有効需要の不足が長期停滞を招いていることがわかる」p167と結論づけている。GDPについては上記のグラフを分析している。企業活動については、下記のグラフを掲載している。

MMT講義ノート p163
米国は1997年以降も生産能力が向上している一方、
日本は逆に停滞していることがわかる。
ひと目で米国は生産能力指数が上がっているのに、日本は停滞していることがわかる。これは「製造業が投資をして生産能力を増強しようという意欲が持てない」ことを意味しており、つまり需要が日本国内にはないのだp163。
労働環境についても悪化していることが下図よりわかる。

MMT講義ノート p165
賃金は明かに下がり続けている。

MMT講義ノート p166
非正規雇用率は上がり、就業者は減っている。
緊縮財政こそ長期停滞の真因
著者 島倉は下図を使って、財政支出と経済成長の関係を説明している(一連の記事では同様の図を【読書】MMT講義ノート その0 プレ記事でも示している)。
下図からわかることは名目政府支出伸び率と名目成長率には明かな相関関係があり、日本ほど、財政支出を増やしていない国はない。財政支出を増やし続けることが国の経済を成長させる。

MMT講義ノート p176
金は天下の回りもの。政府の財政赤字の黒字化目標がいかに愚かか下図を見るだけれわかるというもの。

MMT講義ノート p177
日本の財政政策の失敗
MMTの日本経済への処方箋
繰り返しになるが、著者 島倉は日本経済の停滞について、GDP、企業活動(日米製造業生産能力指数)、就業環境を観察した上で、「いずれを見ても有効需要の不足が長期停滞を招いていることがわかる」p167と結論づけている。
そしてその上で、MMTが提案する日本経済への処方箋は下記のとおりである。
…解決の処方箋としては、有効需要の不足を解消するマクロ経済対策、具体的には財政支出拡大や減税といった財政拡張か、利下げや通貨供給量拡大といった金融緩和を考えるのが自然でしょう。
的外れな主流派経済学の処方箋
ところが主流派経済学では、
長期的な経済水準は総供給能力によって決定される
としている。そのため、多くの主流派経済学者たちが
政府の様々な規制が生産性向上の妨げになっていると称して、規制緩和を主眼とする、いわゆる構造改革を長期停滞脱却の処方箋として提唱してきました。
著者 島倉はこう続ける。「日本経済が長期デフレに苦しんできたことからすれば、問題が供給側ではなく需要側にあることは明らか」であり、主流派経済学の分析や提言は供給側からのアプローチであり「的外れなもの」にならざるを得ない、とp168。
にもかかわらず、2000年代の小泉純一郎政権を典型として、日本政府は長年にわたり、構造改革路線を成長戦略の柱としてきました。アベノミクスのいわゆる「第三の矢」も、そうした路線を継承したものです。
そして「的外れな処方箋が効果を発揮するはずもなく、日本の需要不足は解消されずに長期停滞が続いて」いることになったp168。構造改革罪深し!!
アベノミクスとは
今さら感が強いが、アベノミクスを説明しておこう。なぜなら、アベノミクス抜きには、功罪含め、ここ30年の日本経済を語ることはできないからだ。概要は下記のとおり。
アベノミクスとは、2012年12月26日に始まった第2次安倍政権において、安倍晋三首相(当時)が表明した「3本の矢」を柱とする経済政策のこと。低迷する日本経済を活性化し、デフレ経済から脱却することでわが国の持続的な成長の実現を目指したものである。 アベノミクスは、当初、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略から成る「三本の矢」(旧三本の矢) によって、さまざまな経済指標を大きく改善させた。
①大胆な金融政策:デフレ脱却を目指し、2%のインフレ目標が達成できるまで無期限の量的緩和を行う。
②機動的な財政出動:東日本大震災からの復興、安全性向上や地域活性化、再生医療の実用化支援等に充てるため、大規模な予算編成を行う。
③民間投資を喚起する成長戦略:成長産業や雇用の創出を目指し、各種規制緩和を行い、投資を誘引する。
UTokyo BiblioPlaza - 検証 アベノミクス「新三本の矢」と
日興証券 初めてでもわかりやすい用語集 アベノミクス より 編集した
主流派経済学の間違いを踏襲し日本経済を台無しにしたアベノミクス
さまざまな評価のあるアベノミクスであるが、本書の著者 島倉は下記のように「アベノミクスは失敗である」と一刀両断している。
アベノミクスは全体として、失敗に終わった経済政策と言わざるを得ないでしょう。失敗の原因の一つは間違いなく、「大胆な金融緩和でデフレを脱却する」という誤った処方箋を選択したことです。しかしながら、より根本的な原因は、「財政支出を増加させた分は増税する」という主流派経済学の均衡財政主義を採用したことによって、アベノミクス以前に定着しつつあった財政拡張のトレンドに水を差したことです。
著者 島倉は下記の図によってアベノミクスが大胆な財政出動どころか財政拡張トレンドに水を差した証左としている。
補正後公的支出とは、GDPに計上されている公的部門の消費と投資の合計から、一般政府の固定資本減耗を減算し、補助金を加算したものである。純公的支出とは補正後公的支出から生産・輸入品に課される税を減算したものである。下図から分かるように2012年末から始まったアベノミクス前後で補正後公的支出のトレンドは変わっていないが、純公的支出のトレンドはアベノミクス後にかなりヘタレている。つまりアベノミクスによって公的支出の増加が抑え込まれていることがわかる。

MMT講義ノート P185
長期停滞脱却の展望は開けつつある?
本書が書かれたのは2022年であり未だ新型コロナの危機の最中と言っていい時期だった。そうした状況を著者 島倉は下記のように分析している。
新型コロナ危機がいまだ終息していない現在は、各国が危機克服のために大規模な財政出動を行なっているという意味で、1939年に勃発した第二次世界大戦下の状況に重なるのではないでしょうか。米国自身は1941年末に参戦し、その際の政策対応が、その後のケインズ主義的政策が定着するきっかけにもなっています。
ケインズ主義的政策が何であるかは、別で述べるとして、上のような現状分析から、島倉は次のように続けている。
そうした歴史の類似性も踏まえれば、緊縮主義や長期停滞から脱却する展望は意外と開けているのではないでしょうか。…過度な楽観や成り行き任せは禁物ですが、多くの国民が問題意識を共有して脱・緊縮の働きかけを行えば、政治を変えられる可能性は十分あると思います。
まさにこうした流れが確実にきていると言えるのではないだろうか?先の衆議院選挙(2024年秋)では「手取りを増やそう」というスローガンを掲げた国民民主党が議席を伸ばし、多くの国民に「財務省の緊縮路線は行き過ぎなのではないか?」という問題意識が行き渡ったように思う。にもかかわらず、財務省は相変わらずの緊縮ぶりであり、その手先のような国会議員(自民党 宮沢税調会長)が財務省の権力の上であぐらをかいている構図が炙り出されている(基礎控除178万円で合意していたはずがフタを開ければ123万円で「誠意を見せた」という民意からかけ離れたコメントを残している)。さらに、まだまだ小さな動きではあるものの「国民の敵 財務省」「財務省解体」まで叫ばれるようになっている。今度、どのように政治運営がなされていくか2025年が正念場なのかもしれない。
解雇の規制緩和の間違い
本書では、雇用の規制緩和についても「間違いだ」と断じている。少し引用しよう。
…需要不足だからといって生産応力向上につながる改革がすべて否定されるわけではありません。とはいえ、近年唱えられている改革の中には…行わない方が良いものさえしばしば存在するため、慎重な検討が必要です。その典型が、正社員を解雇しやすくするなどの雇用規制の緩和です。
まさに雇用規制の緩和が現在話題になっている!自民党総裁戦で争点の一つになっていたようだ(自民党総裁選で話題になった「解雇規制の緩和」)。
著者 島倉の意見を見てみよう。
雇用規制の緩和には、個々の企業における経営の柔軟性を保つというメリットが存在する一方で、…雇用保証制度を基盤とした企業全体の国際競争力を失わせるという重大なデメリットも存在します。
現在は国内需要が旺盛ではないので、雇用負担が増しており、雇用規制緩和に意見が傾きがちだ。特に、企業側や経営者は。その上で島倉は、
この場合の最適解は、雇用規制の間われはなく、マクロ経済政策によって企業経営上も解雇がさほど必要ないような適度な成長状態を創出する一方で、安易な解雇を認めずに、雇用保証制度を基盤とした国際競争力を保持することです。
と述べている。こういうのがマクロな視点、本当の意味での長期的な視点ではないだろうか?安易に人材を切って捨てるような国にはなってほしくないと思うのは、私だけではないはず。みなさんはどう思われますか?
経済ミニコラム
終戦直後のハイパーインフレはなぜ起きたのか?
これはミニコラムのような形で、著者 島倉が話題にしていた項目だ。日本人であれば、MMTが戦争直後のハイパーインフレにどのような見解を持っているか、知っておいても損はないだろう。
一般的な俗説としては、戦時国債(赤字国債)を乱発し、マネー供給が増大したから戦後のハイパーインフレが起きた、というものだ。だから現在主流派経済学では財政赤字を恐れているし、日本ではそれが財政法第四条に刻まれている。しかしもっと詳細に見てみると下記のようになる。
【戦時中の財政赤字】
政府は戦時国債を発行するも国民生活はデフレ経済であった。
日中戦争が勃発した1937年から終戦直前の1944年にかけて、財政収支に相当する政府部門の貯蓄バランスが急激にマイナス幅を拡大するのと裏返しで、家計部門の貯蓄投資バランスが急激にプラス幅を拡大している。
これは現在デフレ化で企業の黒字が増えているとよく似ている。
この異常なまでの家計の黒字は軍事物資の生産を優先するため、政府が経済統制によって家計支出を強制的に抑制した結果です。「ぜいたくは敵だ」「欲しがりません勝つまでは」という標語が当時定められたのも、そうした経済統制の一環です。
現在は企業が投資意欲が湧かないので黒字が増えているが、当時は家計では買う物資がないし、しかも購買意欲をプロパガンダで抑えていた。
現代の財政赤字拡大が緊縮財政というデフレ化政策の結果であるのと同様んい、戦前の財政赤字拡大もまた、経済統制というデフレ化政策の結果に過ぎないのです。
そして島倉は下記のように結論づけている。
デフレ化経済の結果であるものが、その後のハイパーインフレの原因になることなど論理的にあり得ません。
【戦後のハイパーインフレ】
戦後のハイパーインフレの要因を島倉は次のように説明するp192-p193。
(1)1946年度のインフレをもたらした最大の要因は、それまでの経済統制の反動
1945年11月に生鮮食料品の統制が撤廃される。
一気に需要が喚起され、生活の困窮もあって家計の貯蓄バランスはマイナスに。インフレが急激に進行する。
(2)敗戦による供給能力の崩壊
実質GDPは1944年から1946年にかけて4割強減少。
理由:空襲などによる生産設備の破壊や貿易途絶による原料不足、植民地からの超容赦や捕虜の離脱による労働力不足。
(3)敗戦による政府支出の急増(終戦処理費)
政府支出は1944年から1946年にかけて2.7倍に。その後も2年連続2倍のペースで急増。
理由:占領軍経費の肩代わり。「終戦処理費」という名目で。1946年度の戦後処理費は政府支出の4割強、1944年度の政府支出の1.1倍。
占領軍基地の建設費用、占領軍兵士の給与、兵士たちの住宅、娯楽施設の建設費用。これらが戦前の軍事費以上に費やされた。
うひゃー。現在「思いやり予算」とか言われているものが、戦前の飢えて疲弊している国民だらけの日本で強奪されるかのように実行されていたなんて!!鬼畜!!!って思うのは、私だけだろうか?でも、そんなことに抵抗すらできなくなるのが、戦争に負ける…ということなんだ…。
敗戦、あるいは戦争を背景にした上記3つの要因によって、第一次世界大戦後のドイツ、2000年代のジンバブエをはじめとした海外のハイパーインフレも説明できる。決して財政赤字によるものではない。そして島倉は下記のようにまとめている。
(さまざまな)ハイパーインフレーションの事例もまた、財政赤字という会計上の事後的な結果によるものではなく、戦争その他の政治的混乱を背景とした政府支出の極端な拡大や国内供給能力の崩壊がもたらした、実体経済における需給関係の不均衡によって生じています。
そして、主流派経済学者の「このまま財政赤字を続ければ日本は戦後のようなハイパーインフレになるぅ」という警告もまた、ナンセンスであると結論づけている。
当然ながら、こうした要因はいずれも、今の日本の状況に当てはまるものではありません。したがって、デフレ化政策の結果として上昇しているに過ぎない政府債務対GDP比が終戦直前の水準に匹敵するからといって、当時のようなハイパーインフレーションが起きるリスクがあると主張するのは全くのナンセンスです。
ケインズ主義的政策
ケインズは言わずと知れた経済学の大家である。大恐慌の時代から1950〜1960年代までは各国でケインズ主義的政策が採用されていたという。だから米国も日本も大幅な経済成長を成し遂げたのだ。
では、ケインズ主義的政策とはどういうものだろう?GoogleのAIの回答は以下のようなものだ。
ケインズ主義的政策とは、経済学者であるケインズが提唱した政策で、不安定な市場経済を安定させ、雇用や所得を改善するために政府が積極的な経済政策を行うものです。
ケインズ主義的政策の特徴は、次のとおりです。
・政府が経済市場に介入して総需要を増やす財政・金融政策を行う
・景気が悪くなったら、政府が公共事業を増やしたり、減税や金利を引き下げたりといった景気刺激策を打ち出す
・国民の経済活動に、政府が事細かく、直接的に介入する
ケインズは、大恐慌(世界恐慌)に対する解決策として、利子率の切り下げ(金融政策)と社会資本等への政府による投資(財政政策)を組み合わせることを提唱しました。
ケインズ主義的政策は、日本の昭和初期の高橋是清蔵相に源流があるとの指摘もあります。
2025.01.13
ケインズ主義的政策の特徴の一番目に「総需要を増やす財政・金融政策を行う」とあるのは、まさに島倉やMMTが述べていることそのものだ!!
なぜに主流派経済学はここに立ち返れないのだろう?
大恐慌への対応策に金融政策と財政政策を組み合わせる。これもまさにMMTの提唱していることだ。大昔にできたことが今現在できないとは!!!
そして高橋是清が影響を与えた可能性がある、と。うわーん。先人ができたことが今できないなんて〜〜〜〜〜。大蔵大臣ができて財務大臣ができないなんて〜〜〜。んで、高橋是清は日銀総裁でもあった!若い頃は奴隷として売られたこともあった、と。ご苦労された総裁であり蔵相であり首相も務めた高橋が大恐慌でも国民目線で政策を決定していた。うわーん。泣ける💧そして、昭和11年の「2・26事件」で、陸軍青年将校の凶弾に倒れた、と。一番日本を助ける働きをした高橋をテロで失うとは。なんたる皮肉!!高橋是清の生涯をぜひNHK大河ドラマで見たいものだ…。そしてぜひお札の顔に再び…。

財政法第四条
ここではGHQが憲法と共に日本弱体化のために埋め込んだと言われている財政法第四条を紹介する。この法律が「税を財源とし、赤字国債は公共事業(インフラ整備)に限る」という言説の根拠とされている。詳しい解説などはここでは行わない。興味を持った方は検索などして欲しい。
第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。
但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
② 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。
③ 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。
太字は記事筆者による
引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。
また、文言の間違い、表現のわかりやすさなど、随時訂正しています。ご了承ください
おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために
ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。
島倉原の著作
国定信用貨幣論
クナップ
表券主義=国定信用貨幣論の生みの親です。
ランダル・レイ
MMT研究の第一人者だそうです。本書の著者 島倉原が監訳している。
ビル・ミッチェル
有料記事ですが…。
藤井聡氏との共著。
ステファニー・ケルトン
有料記事ですが…。
負債論
貨幣理解の文化人類学的アプローチ。文化人類学から見てもMMTが主流派経済学よりまともである、と言っているように見えるのだが…。
ムギタロー
いちばんコンパクトにまとまっているMMT。お手軽に理解したい人に。
インフレギャップとデフレギャップ
中野剛志:富国と強兵
入門シュンペーター
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