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for others|連載小説

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「他人のために生きて、何がいけないって言うの?」 思いやりをもって、いつも自分を犠牲にして生きてきた「他者チュー」の美香は、そのせいで彼に振られてしまう。 「自分を変えたい」と願…
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#小説

短編小説「for others 私の私は誰のため」第11話〈完結〉

短編小説「for others 私の私は誰のため」第11話〈完結〉

「ただいまー」

帰宅すると、母と妹が並んでテレビを見ていた。背中だけでなく、振り返った横顔も似てきている。

「おかえりー。お姉ちゃん、どうだった、怪しいセミナー?」

すぐに声をかけてきたところを見ると、妹なりに興味があるのかもしれない。

「うん、面白かったよ」

スプリングコートをイスに掛け、買ってきたたこ焼きをテーブルに置く。

「またたこ焼き?」

「うん、たこ焼き」

「美香、ありが

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第10話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第10話

雨が降りだしたのか、しゃーっという音が窓の外から聞こえる。加穂子は「そこのタブレット、見てみて」と言った。目線はあくまで台の上だ。

私は震える手で台の縁に置いてあったタブレットをつかむ。

そこには志保に向けたLINEの画面が映し出されていて、「あなたは来月から来なくていいです。代わりに田所さんに入ってもらいます。今までおつかれさまでした」と書かれている。

「そのLINEさ、志保ちゃんに送って

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第9話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第9話

「私はね、美香ちゃん、今の夫とどうしても結婚したかった」

ゴンッ。加穂子は台の一番長い対角線の先にある6番に向けて手玉を発射した。すーーっ。図ったようにポケットに落ちる。

「出会ったのは20代後半のころ。顔も中身もすごくタイプで、なにがなんでもこの人と結婚したいと思った。でも相手は7歳年下でまだまだ遊びたいみたいで、私がどれだけ言っても、決してうんとは言ってくれなかった」

「先生、その時って

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第8話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第8話

「私の番ね」

加穂子はキューにチョークをキュッキュッとこすりつけると、しなやかな身さばきで台に向かった。台上には3番から9番までのボールが残っている。

「ビリヤードで絶対に負けないコツってなにかわかる?」

「いいえ」

「それはね、一度握った手番は絶対に相手に渡さないこと」

加穂子は背中を向けたまま私にそう言うと、手玉を強くついた。

ガンッ。驚くほど激しい音を立てて飛び出したボールは、真

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第7話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第7話

「じゃあ、そういうことで。今日はおつかれさま!」

「お先に失礼します」

すべての参加者を見送り、志保とも入り口で別れた加穂子は、肩や首を回しながらこちらへやってきた。慌ててイスから立ち上がる。

「お待たせしちゃってごめんね」

「いえ、おつかれさまでした。で、先生、あのー、お話というのは?」

「美香ちゃんって、ビリヤードできる?」

「は?」

「私、昔から好きでね。社員にわがまま言って置

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第6話

「みなさん、今日は、『わがまま力で思い通りの人生を手に入れる』出版記念セミナーにようこそお越しくださいました」

モニターの前に立って挨拶する川崎加穂子の印象をひと言で言うなら、「かわいらしい人」だった。

本に載っている写真はいかにも切れ者のシャープな美人というイメージだったけど、実物は思ったよりも小柄で表情も柔和だ。童顔もあいまって年齢よりずっと若く見える。

自信を持ってゆっくりとはっきりと

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第5話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第5話

セミナー会場は、川崎加穂子が経営するウーマンパワー社のオフィスだった。

本郷とお茶の水の間に位置する8階建てビルの5階に、定刻よりもずいぶん早く着いてしまった。一番乗りで気恥ずかしい。

コンクリートの天井がむき出しで、ところどころに大きな植物が配された流行りのカフェのようなオフィスで、中央には無垢材の大きなテーブルが置かれ、そろいではない品のいいスツールの数々がセンスを感じさせる。

窓からは

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第4話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第4話

【あなたのなりたい自分を明確にイメージすることが大事です。ゴールが見えない人生はスタートしようがありません。あなたは10年後、5年後、1年後、明日、どうなっていたいですか】

相撲中継に夢中の母の横で、私は本を読みふける。

リビングの扉が開き、由佳が入ってくる。

「ただいまー。あれ、お姉ちゃん。早かったね。デートは?」

「あ、うん、早く終わって」

と、由佳は手元から本をぱっと取り上げる。

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第3話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第3話

お店を出て、行く当てもなくエスカレーターに乗る。吹き抜けの大時計が示す時刻は、まだ2時を回ったばかりだ。エスカレーターでも貴志くんの言葉が頭を回る。

「美香の気持ちが見えない」

「美香はどうしたいの?」

「他の人のことはいいから、美香は?」

レストランフロアのひとつ下の階には書店になっていて、私は夢遊病患者のようにそこへ吸い込まれる。

確かに私は昔から自分の意見を言うのが苦手だ。いつでも

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第2話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第2話

改札から直結した駅ビルに入っているパスタ屋は、お昼時なのに空いていた。人気のお店がひしめくおしゃれ街だから、駅ビルは意外と盲点なのかもしれない。

安定した味のパスタランチを食べ終え、貴志君はコーヒーを、私はミルクティーを、それぞれ一口すすった。それを合図のように貴志くんが体をもぞもぞさせ始めたので、私も心の中でだけ身構える。

「美香」

「なに?」

「突然だけど」

「うん」

「俺、ほかに

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第1話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第1話

「いただきまーす」

3方向から同時に爪楊枝が伸びる。一番乗りでさらっていくのは妹で、次いで母、私の順だ。

たこ焼きはなんともいってもこの丸さが魅力だ。大きさも手頃でかわいいし、行儀よく並んで舟上に鎮座しているさまもいじらしい。

肝心のタコがグイグイと前に出てこないところも好感が持てるし、ひとつずつ確実に減っていく喪失感も胸に迫る。

似たような味でも、お好み焼きやもんじゃ焼きとは、情緒のレベ

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