隆家の汚名返上の一矢と周明の役割
まるで次の鎌倉時代を思わせる戦闘シーンと、都での優雅な生活とはかけ離れた展開に私は思わす胸が高鳴り、息を飲んで目が離せませんでした。
確実に武士の世到来の足音が聞こえるようでもありました。
確認のため言っておきますが、この「刀伊の入寇」と呼ばれる事件は、後世の鎌倉時代に2度も侵攻された「元寇」より255年も前の出来事であり、その教訓とされた事件となりました。
あり得ない展開ではありますが、その歴史的事件に主人公の藤式部(吉高由里子)を紛れ込ませ、その臨場感を伝える脚本家・大石さんの手腕はさすがです。
それと同時に、大河に必要なのは色恋ネタより、胸熱の戦闘シーンだなと再認識してしまいました。
隆家が任官されたのはラッキーだった!?
ここでふと思うのですが…
大宰府の権官が行成(渡辺大知)だったら?
こんな風に水際で侵攻を食い止める事ができたか?
大宰府への任官を希望しても叶わず、涙ぐんだほどの行成でしたが、彼であったなら、もっと悲惨な結果になったのではないか?
当時は反発していましたが、ここは道長(柄本佑)の采配に感謝すべきですね。
決して道長に予言があったわけではないですが、長年にわたり自分に忠実だった行成を手放せなかったのが正直なところで、隆家(竜星涼)に対してとは信頼度に格段の差があったのは確かでしょう。
いずれにしても骨の髄まで文官タイプの貴族である行成には、防げるどころか自身も命を落としていたと思います。
それが結果的にこうなり、しかも隆家の任期最終年に起こった出来事だったのを思うと、これは運命といえる神のいたずらか?
いや、これは神による名采配だったとしか思えません。
侵攻の主体・女真族とは?
「刀伊の入寇」の「刀伊」の意味を調べると、AIが以下のように答えてくれました。
朝鮮語の発音に当て字した言葉だったようですが、襲ってきた民族は、中国大陸北東部を拠点とする女真族だと考えられています。
あくまでも歴史書ではなく、浅田次郎の小説・「蒼穹の昴」からの知識ではありますが、女真族といえば、中国読みで「ジュルチン族」。
これよりずっと後世に、その首長であるヌルハチによって後金が建国され、それがやがて2代目のホンタイジが中国への侵略を激化させて1636年に「清」と改名し、そこから276年にも及ぶ王朝を築き上げた民族です。
それ以前に「金国」も建国している
要するに侵略によって領土の拡大と安定を作り上げた民族であり、小さな島国を死守するだけの日本民族とは、スケールも行動の苛烈さも全てに差があり過ぎ、少なくとも侵攻に関してはプロと言える民族なのかもしれません。
つくづく思うのは、日本の歴史教育は、日本史と同時進行で世界史を学ばせるべきではないかという事。
特にアジア東部、お隣りの中国や朝鮮に関しての予備知識は重要であり、後世の世界大戦も含めたこれら侵攻の背景や理由を直感的に理解できるような教育カリキュラムにすべきではないかと強く思います。
私も当時から中国史や朝鮮史を知っていたら、もっと日本史を楽しめたのにと後悔しています。
一族の起死回生となる入魂の一矢
鏑矢を構えた隆家の姿にハッとなりました!
それは、995年の「長徳の変」から実に24年ぶりの一矢でした。
過去のものは一族の没落を招いた一矢、
今回のは確実に一族の汚名返上へと繋がる入魂の一矢。
同じ一矢でもこれらの思い入れはまったく違う「一矢」だったのが非常に興味深いところです。
若気の至りで、後先考えずに射た矢とは格段に違い、とても大きな意味を持つ一矢だと感じ、ジーンと胸が熱くなりました。
定子(高畑充希)や伊周(三浦翔平)、両親の道隆(井浦新)と高階貴子(板谷由夏)らが失意のうちに次々とこの世を去った一連の流れが、見ている私の脳裏にも蘇りました。
自分で招いた事とはいえ隆家も大きな失意を感じながらも、時世に逆らわずに生き抜いてきた先に、神はスポットを当てたのだと思うと、胸のすく思いすらします。
次回描かれることでしょうが、この事後、中央の朝廷では、行成と公任(町田 啓太)は、こともあろうに”恩賞不要”と提案したと言います。
行成もどの口がいうのでしょう?
心の内では自分が任官されなくて良かったと胸を撫でおろしたはずなのに💦
これに反対したのが我らが藤原実資(秋山竜次)でした。
今後のこと、つまりこれからの国の防衛を考えて、たとえ”決まり”がなくても恩賞を与えるべきと反論し、恩賞が与えられることになりました。
おさらいすると、この出来事は死者300人以上、拉致者は1000人以上という空前の被害を受けた大事件です。
私たちからみれば、これは当然の事なのですが、当時の朝廷は型通りの決議しか出なかったことを思うと、実資の臨機応変で公平な意見には勇気と正義を感じずにはいられません。
実資、カッコいい~!
周明登場の意図とは
正直なところ、ここで死ぬのは双寿丸(伊藤健太郎)だと思っていました。
彼もあり得ない偶然の出会いであり、武者でもあるので「死」には最も近い人間だと思ったからです。
少なくとも誰かの死を感じで、少し構えていたことは確かでしたが、まさか周明(松下洸平)だったとは意外で唐突な展開となりました。
どちらも架空の人物だけに、それなりの意味を持たせる必要はあり、ここにきて周明との再会と別れは、ラストへ向けて重要なメッセージ性を秘めているはずです。
生きる気力を与えた
藤式部:私はもう終わってしまったの。
周明:まだ命はある。これから違う生き方ができる。
道長との関係に疲れ、唯一生きる活力だった「源氏物語」を書き終えた藤式部にとって、今回の旅はこれからの人生目標もなく、ただ過去を清算するようなものでした。
そこに現れた周明は、間違いなく今後の藤式部の身の振り方を決定付けるものとなったと思われます。
そして後日、彼が話したかった内容とは何なのか?
その種明かしも気になるところで、それ次第で、結末は大きく変わるものになる可能性も出てきました。
史実ではこの時期の紫式部の足取りは不明なだけに、創作し放題であり、もしかしたらアッと驚く展開がここにも潜んでいるかもしれませんね。
さて、泣いても笑っても「光る君へ」は、とうとうゴールまであと2回です。
倫子さまの心中も気になりますし、道長との事も見届けたい。
今回の展開にはラストへ向けての伏線がたくさん潜んでいると睨んで、最後までしっかり見届けましょう。
【参考】
・蒼穹の昴 浅田次郎 著