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生き残った者の使命を果たした人生

2021年の大河ドラマ「青天を衝け」最終回、
ラストシーンに思わずジーンとしてしいました。

跡を継ぐことになった孫の敬三が、栄一の故郷・血洗島ちあらいじまを訪れて、祖父・栄一の人生に思いを馳せるというもので締めくくられていました。

話は逸れますが、この敬三役は笠松かさまつ しょうさんというのですね。今回初めて知った俳優さんです。

どんな形であれ、一途に世のために尽くす人生は美しいものです。

「みんなが嬉しいのが一番なんだで。」と、幼い頃に母から言われた言葉が、栄一の人生を通しての基本の教訓となっていたのでしょう。

みんなが嬉しく思う事。
これは実に難しい。

渋沢栄一の一生は、それをなんとかやり遂げようと一心不乱に生きた人生でした。


天命と宿命

運命には二種類ある。どうにもしようのない運命を天命といい、人間の力でうち開くことのできるものを宿命という

中村天風

明治から昭和を生き、92年の人生を全うした実業家であり思想家である中村天風の言葉です。

これによると、渋沢栄一はまさしく天命宿命を併せ持った人生だったと言えます。
91年の寿命を天から授かり、自ら奔走して日本経済の礎を創り上げて、
長い寿命をフルに活用した人生でした。

死して不朽の見込みあらばいつでも死すべし、生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし。

吉田松陰

倒幕の中心となった長州藩の教育者・吉田松陰の言葉を借りれば、
栄一はまさしく後者で、大業を成すための寿命を神から与えらえたようです。

幕末は、実にたくさんの優秀な人材が没しました。

例えばドラマ中の平岡円四郎はどうでしょう。
彼の役割は、栄一の人生においてもっとも重要なものでした。

平岡が栄一を見出して、慶喜に引き合わさなかったら、栄一もおそらくここまでの大仕事を成し得ていなかったと思います。

いくらこころざしと教養、行動力が備わっていても、世の中から隠れた隅っこでジタバタしてても、どうにもならない。

きっと平岡の人生においての天命は、栄一の人生に大チャンスを与える事であり、その役目を終えるやいなやこの世を去る事が宿命だったのでしょう。

また平岡を暗殺したのが、慶喜の出身である水戸藩士であったことも皮肉な事でした。
このあたりも、攘夷であるとか公武合体であるとか様々な思想が錯綜していた時代だけに、勝手な思い込みによる逆恨みの考え方による犠牲者だったといえます。

水戸藩は大老・井伊直弼の暗殺をも首謀して実行し、「安政の大獄」を終わらせた藩でもあり、先日記事にした雄藩・薩長土肥とはまた違う立場の雄藩でした。
この水戸藩の事もいずれは記事にまとめたいと思います。

他にも、生きていれば明治新政府で、さぞかし良い働きができただろうと、惜しまれる人材はたくさんいますが、きっとそれらの人たちは、短い天命の中でも果たすべき自分の宿命は全うしたのです。

長く生きたから成し得るものではなく、与えられた天命の中でどのような不朽の宿命を創り上げるかが肝要なのです。


論語と算盤

時代に関係なく、今なお読み継がれている渋沢栄一の著作があります。
大まかに、
・利益は道義を伴う事
・公益第一にせよ

という事を主張したものです。

私は読んでいませんが、なぜ今もなお多くの人々に読まれているのか?

それは、たとえ時代が変わろうが人の持つ根っこの普遍的な事を説いているからだと思います。  

ドラマ中でもありました。
「今、行動しなければ、私は何のために生き残ったんだ!」
「簡単な事だ。仲良く助け合うべきだ。」
(セリフの細かい部分は忘れましたが、こんな感じの意味)

要するに道徳を持て!という事なのです。
自分の天命を知って、人として最低限の道徳を守れという事なのですね。

道徳とは、

社会生活を営む上で、ひとりひとりが守るべき行為の規準(の総体)。自分の良心によって、善を行い悪を行わないこと。

道徳の定義

それはそうなのですけど…
利潤を追ったら、忘れてしまいがちな精神の基本です。

この基本の精神論である道徳は生きてゆく上で、今も色褪せていないのです。

インターネットやAIなどが発達した現代は、それら進歩した技術が私たちの生活を激変させているからこそ、余計に道徳を持って接していないと、信用や信頼を失うことになります。  

「論語」と「算盤」。
言い換えれば「道徳」と「商業」であり、道徳的な精神論を唱えれば稼ぐというのは邪道な事ですが、かといって商業が慈善活動になってしまうと儲けが出ない。  

栄一は「道徳と商業」とを両立させ、共存した人生を見事に貫いたのです。


その後の日本をどう変えれただろう

栄一が永眠したのが1931年昭和6年なので、その10年後に「真珠湾攻撃」があり、第二次世界大戦が始まった事を、彼が知ったら激怒していたでしょう。

日本史上、最低最悪なこの黒歴史を避ける事は出来たのか?
と考えてみると、おそらく栄一個人の力では無理だったでしょう。
軍国主義が増長して独り歩きしてしまったので、とてもじゃないけど庶民どころか、市井など顧みていなかった時代へと移ってしまったのですから。

その前に、栄一は十分長生きして粉骨砕身したのですから、この上まだ生きて働けというのは酷な話です。

ドラマは脚色しているでしょうが、本当に皆がこの時の栄一の精神論を理解できていれば、その後は違った歴史になっていたかもしれません。


主演は今回も頑張っていた

最近の大河ドラマは、本当にキャストに力を入れています。

以前も記事にしましたが、毎年、視聴率の低迷は避けられない状態になっているので、何とか若い層も取り込んで幅広い世代層をターゲットにしているのがよくわかります。

全話の平均視聴率は14.1%で、昨年の「麒麟がくる」の14.4%とほぼ変わらないのです。
せっかく、話題のイケメン俳優を起用してもです。

といえ、主演の吉沢亮さん、頑張ったと思います。
当初、聞いた時は、渋沢栄一は長命なだけに「え?できるの??」と、疑いの目でみていたのですが、溌溂とした若い時代から成熟した壮年期、そして重みのある老年期まで、よく演じ分けていたと思います。

顔が整い過ぎて、老けたメイクも超が付くほど違和感があったのは否めませんが…

かつて「黒田官兵衛」を演じた岡田准一さんに対しても同じことを思っていたのですが、見事な演じ分けにびっくりしたことがありました。

今や岡田准一さんは、ジャニーズとして歌って踊っている方が、逆に違和感を感じてしまうほど俳優業が板についています。

それを思うと、今回の吉沢亮さんも、これからの活躍が期待できる俳優となるのは間違いないかもと思えるのです。



先週もお祝いいただきました!
皆さんのおかげです。m(__)m







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千世(ちせ)
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