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短編「わたしはあしながおじさんなんかいらない」⑦
きっかけになったのは一枚の古いポートレイトだった。
紗英とふたりで実家にある母の遺品を整理していたとき、それはまるで春光を待ちわびていたかのように、わたしたちの前にあらわれた。長いこと眠っていたために色と艶が失われていても、そこに映る少女の瞳までは輝きを失っていなかった。
写真には、瀟洒な教会を背景に、祭服に身を包んだ中年の神父と口元を綻ばせて笑う頑是ない少女が映っていた。わたしたちはその少女
短編「わたしはあしながおじさんなんかいらない」⑥
それからというもの、わたしは暇を見つけては紗英の店へ顔を出すようになった。
紗英の料理は疲れた身体を癒してくれたのみならず、寂しさで震えた心を温めてもくれた。わたしは、暗く閉ざされた人生に光明を求め、さらには、喪われた母親の温もりも求めた。
もっとも、紗英の方も、まったく同じことを考えていたかもしれなかった。彼女は、母を喪った寂しさを、わたしで紛らわせようとしているふしがあった。
母と紗英は