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“本を書くこと”は思っていたより遠くて近い 佐藤友美『本を出したい』

“いつか本を書いてみたい”私のひそかな夢。

本を書く人のイメージは、
有名な人、
その道のプロフェッショナルの人、
特別な才能がある人、
世の中から認められた人、
みんなが知らない大発見をした人、
すごい人。

だから、ごく普通のわたしが本を書くことなんて、幼稚園の頃の“ケーキ屋さんになりたい”くらいの、心はときめくけどなんともふわっとした、夢の話だと思っていた。

なぜ本を書きたいのか。

いつも私のそばには本がある。
ホッとしたいときは、友達と話しているようなエッセイ本を。
やる気が出ないときは、気持ちがしゃんとする本を。
仕事がしんどかったら、教員のプロフェッショナルの本を。
悲しいときは、現実世界から逃げ出せるファンタジーの本を。

いつも本に救われているから。

でもこの本に「その理由だけでは本は書けませんよ」と言われた。

「自分は読者に役立つ何かを提供できるから本を出す」

本文より引用

当たり前のことだけど、分かっていなかった。

読む人の役に立てることがあって初めて、本として成立する。
買ってまで読みたい、と思う人がいるコンテンツが自分にはあるのか?
やっぱり私にとって、本を書くことは遠い行為だ。ガックリした。

でも、書きたい。

“私が書くことで役に立てることはなんだろう”と考え始めた。

教員として働き始めて8年目。
授業も学級づくりも日々勉強中で、人に何かを伝えられるほどの力はない。
唯一、自分の中で誇れることがあるとしたら、素敵な先輩たちとの出会いだ。

社会人1日目から「ここがあなたの学級です。」と割り振られ、前日まで大学生だった人が30人の大切な命を預かる仕事。教室では、大人は自分たった1人。
孤独だし、何があっても自分だけの責任だと感じでしまう。
だからこそ、救われるのが先輩の存在。

私はありがたいことに、たくさんの素敵な先輩に出会った。
表情、話し方、保護者との付き合い方、教室づくり、演じ方、気の緩め方も。
数えきれないほど多くのことを学んだ。
でもみんなが同じように、素敵な先輩に出会えるわけではない。
現に、環境に恵まれずに辞めてしまう人も少なくない。

私は、先輩たちのエキスを吸ってきたことで、ここまで働いてこられた。
もらってきた愛を誰かに渡せたら。

来年の春から、妹が教員になる。
私よりも繊細で真面目で心優しい妹が、教員の世界で生きていく上で心の拠り所となる本を書きたい。私が支えられてきた言葉や考えを知ることで、教室へ向かう心を少しゆるめてくれたらいいな……


“私が何を提供できるのか”
を考えることで、見えるものも分かるものもあった。
考えるだけで、ワクワクしてきた。仕事との向き合い方も変わってくる。

本を出したいならば(中略)
「本業を頑張りましょう」

本文より引用

“本を書くなら、本業をやめる”という思考だった私には衝撃の一言だった。

雲の上のように遠いと思っていたけど、実はすでに自分の日常にある近い行為。

本を出すのは「自分の知っていることを広め、世界をもっとよくする」ための一つの手段。世界をもっとよくするために、今の私には何ができるのかな。

そう考え始めた私は、本読む前とはもう違う私。
まさにこの本自体が、生き方を変えてしまう本。

さらに“本を書くこと”の魅力が見えてきた。

「著者は書いたあとに、別の人になる。読者も読んだあとに、別の人になる。1冊の本をつくるというのは、時空を超えた旅なのです。」

本文より引用

そんな旅が、したい。

本を出したい人はもちろん、書くことが好きな人にもおすすめの一冊。
私は、この先も何度も読む本です。

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