マガジンのカバー画像

詩集

79
運営しているクリエイター

#詩のようなもの

風花の詩

風花の詩

花のように

きみの手が風にゆれる

水面にうかぶ

月は夜へ消えてゆく

指先のひかりは

木の葉に風穴を開ける

ようやく咲いた

紫陽花の道

路面電車の下

散り散りになった砂は

新しい明日の朝日になる

結んでひらいて

輪廻の輪

いつもどこかで

鈴がなる

茶埜子尋子

海のしずく

海のしずく

永遠とおなじように

あなたの愛に

うかんでいたい

君のいのちの前で

軽々しく

白い血を

流しつづけていたい

時計の音と

あの日の約束の唄は

同じ音色

広い海の浅いところの

やさしい色に似ている

幸せにいちばん近くて

愛にいちばん遠いところの

美しい色

あの空が満たされるまで

今日のこの日のままで

枯れた花束を抱えて

流木に凭れて

小さな花

咲かせて

茶埜子

もっとみる
星の子たち

星の子たち

にじいろを手にもって

光のアーチをくぐっていくと

あの子たちの王国に

辿り着くの

ひかりの不思議

奇妙なかたち

でこぼこの丸を

創り出して

滅ぼされた者たちの

亡骸の数だけ

国中が瞬きはじめる

やがて

夜の卵になって

美しいくにが産まれるの

青いペンをにぎりしめた

星の子たち

海をしらないまま

青い大地を

写し出してゆく

茶埜子尋子

ファースト・デイト・ナイト

ファースト・デイト・ナイト

とんでもない愛を

見つけたわけじゃない

落ちていたイチゴを

ただ拾ってみたつもりなのに

夜にはなにか

こころ脅かすキラキラがあるらしい

ぼくの靴は

ひとりでに赤い街へ

向かっている

行き交う人間どもの

仮面が美しいこと

夜とはこういうことなのだ

怯んだぼくの

またたきの間に

きみの吐息が降り注いで

次からつぎへ

激しく変わってゆく

きみに

時に

縫いつけられて

もっとみる
インディゴ星人

インディゴ星人

青い肌に

無数の光

無いものだけが

そこにある

ささやかなエロスを

むき出しにして

あの日の陰を

照らしてく

この星にはまだ

生命はありますか

無造作に交わりながら

星の露を垂らして

やがて流れだすの

この星はインディゴの星

青くゆれる

長い尾のような

惑星のいとなみ

遊泳に似た陶酔

茶埜子尋子

リグレット

リグレット

灯台からみえる

淡いひかりの帆船は

白いかぜの上を進んでゆく

いつしか見えなくなっていく

陽だまりが肩を揺すったこと

オイルランプの囁きで
いくつも夜を明かしたこと

もう引き返すことはできない

ゆらゆら僕は

波に揺られている

ゆらゆら帆船は

風に揺られている

ひび割れた万年筆を手に取って

この海へ遺書を書こう

あの遠い国の物語と

懐かしい日々の思い出と

そして少しの後

もっとみる
月の海

月の海

叫んでも

この声は

仄かなひかりになる

泣いた分だけ

輝きになる

わたしはこのまま

生きつづけるの

きみの手に触れたら

この哀しみはきっと

海になる

きみをのみ込んで

怪物になる

お願いわたしを

止めてください

抗っていないで
大きく吸って
青い星になりたいのなら

くちびるのしわに

染み込んだ

空気のたま

おどろおどろしい内蔵の

ひとつひとつに手をとって

もっとみる
僕のなかの赤毛のきみ

僕のなかの赤毛のきみ

トキメキだけで

すべてを失ってしまえればいいのに

ほんの僅かな企みが

未だにぼくを

大切にしている

こんなはずじゃなかった

ぼくは何者なのだろうか

もっと上の

ひかりだけの世界から

やさしいうたが

聴こえているのに

ずっと遠くの世界から

僕らのこれからを

ささやいてくれているのに

むらさきいろの

向こうから

赤い手紙が

送られて

ずっと いっしょに いようね

もっとみる
草原の輝き

草原の輝き

ちぎれた鳥の足が

僕を導いてゆく

跡をたどって

ぬかるみに

はまっているのも

知らずに

あの輝きへ

生ぬるい痛みも

忘れられた傷も

ぜんぶ

そのひかりで

思い出させて

破裂した音

きらきらと舞う

腐敗した肉

これは僕の記憶

君の手を汚す

ぼくの血液のほうが

何よりも温かいこと

浅ましくなる

それでも

僕の頬に流れ落ちた

君の涙のほうが温かかったこと

もっとみる
ノスタルジア

ノスタルジア

遠くの島で

うたが聞こえる

なぎさの宴

懐かしい音

待っていて

私が子どもに戻るまで

やさしい波

潮風に揺られて

白い時は

嵐のようなはやさで

なぎさの心

美しい島

待っていて

私が子どもに戻るまで

ほのおの香り

文明の呼び声

茶埜子尋子

星座

星座

ふたりで星座になれたら

いつかの日も見つめあえるね

かるいままで

刹那さを探して

いちめんきら星

裂け目から

こぼれて

きらきら 潮騒

目をつぶって

銀色 夜の方舟

いい夢を

茶埜子尋子

ペルシアの空

ペルシアの空

生まれてすぐは

なにも見えなくて

ペルシアの空は

心のなかに

夢のような

溢れだす心地

本物はいつもここに

信じていいの

懐かしいのは

ペルシアの空に

全て置いてきたの

風は吹いている

渡り鳥

語りかけてるよう

優しさはいつもここに

信じていいの

きっと本当なんだろう

七つの星が呼んでいる

聞こえているよ

ペルシアの空

茶埜子尋子