茶埜子尋子
きみの優しさが痛くて 涙がこぼれた 深手を負った怪獣の 孤独な呻吟 前に貰ったきみからの温もりは ぼくの鱗を焼き焦がして 醜い化け物にしていくんだ 星が降る夜 ぼくの肩にきみがそっと寄りかかった "このままわたしのこころを あげられたらいいのに" きみの鼻筋を横切って ぼくの肩に滑り落ちた 悲しくて溢れた涙なのに 温かかった あの夜のことは忘れない 流れ星は ぼくたちを迎えに来てはくれないよ きみはやさしい人だから ぼくは化け物なんだから
きみの頸部に うっとり揺れる 銀色の月 垂れた光の 流れを辿って 耽美文学に夢中な青年 読み終えるころには この世界はきみにとって 無意味なものになるのだろう 崇高な美しさに打ちひしがれて 道徳を忘れたら わたしのところにおいで 紅い月を見せてあげよう 茶埜子尋子
きみのことを ピンク色にするよりも 紫色にしたい 冷めた肌に 金木犀の香りを 溶かし広げて さわったら まがいものになっていく ぼくの純情 ヘンテコな形 一生恥ずかしい気持ちを わすれないように キラキラの杖で ぼくの気持ち 操って 勝てないことを 見せつけて 茶埜子尋子
後悔することを 前からそんなに悪いことだとは 思ってない あの時ちゃんとしなかったから、 今その分、気付きが深い 良く言うのは 勉強 。 確かにそうなんだ こればっかりはそう思う 子どもの頃は ふん、大人がなんか言ってらあ としか思って無かったが 通り越してみて気付く ああ、しとけばよかったなーあぁって 先に通り越した大人たちと 同じようになってしまったこと 悔しい でも、仕方ない 初めての人生 分かんないもん 最初っから物分りよく生きてきたら 人
耳なじみの良い きみの光 穏やかな温もりが ぼくの散らかった部屋を 調えていく 首すじから切り開いて 爽やかな粒子を注ぎ込んで つま先から青い肌 きみの光に共鳴して レースのカーテンで包んでくれる 秒針よりも遅い 心臓の音 きみの空の一部になりたい きみの星になりたい 茶埜子尋子
ぼくらが屑に かえるとき ぼくらが土に かえるとき きみたちみたいに なれるかな 結ばれるかな すべてを失ってしまえば 残酷だった欠片も 善良だった欠片も おのずと引かれ合うのだ 循環していく 自然のように 気持ちいい形へ キラキラ 爽やかな色で キラキラ 美しい宝石 茶埜子尋子
いつもどうりの日常に とくべつな愛が ぼくときみをキラキラさせて 朝はどんな生きものの気持ちも 理解することができる 不思議 この部屋は汚いけれど 何かに満ちあふれてる カーテンの隙間でゆれる魚 きみが大切にされていると うれしくなる 陽だまりも きみの毛も きみの分の野菜もたべて きょうがはじまる きっときみが猫でなければ ぼくはきみと出会わなかったろう ぼくらがまだ星だったころ きみはこの宇宙一美しい星だった 何もない日だけど 甘いものを食べにいこう
哀しみを知らない 冷たく光る眼 穢れも知らない 透明な色 手折りたい きみの色に染まりたい その青さのすべてを汚したい 何も知らないまま 佇んでいる 竜胆の花 茶埜子尋子
きみの背中の むらさき色の火傷が 穏やかにゆらめいて ぼくの空を七色にする 灰になったトキメキなんて 捨ててしまえよって きみの傷は遺ったままなのに みずみずしい鱗の少年たち 美しくいたくて光になった あの頃のまま 透明の色をした風と生きていたい 月の満ち欠けを聴いていたい 惜しみなく優しさを分けてくれた木々に この詩を届けたい 太陽の塔から ぼくときみへ 約束が交わされるころ 掟破りのクジラは 世界への捧げものになる 愛しさも風に 憎
白い花 窓際の星 どうしてきみは ここに居ないのだろう いつしかの栞 机の上の空 わたしも連れて行ってくれたら よかったのに 窪んでできた 星空に足をとられて 美しいものばかりを 数えることしか 出来なくなったの 流れる血 清らかな音 このしあわせ 遥かなる果てへ 茶埜子尋子
君とはおなじ 蓮華の上で生まれたい きみの遥かな思想の上に 横たわりたい 血切りを交わそう 美しい湖を染めて 呼吸を止めて 微睡みながら 心をひらいて 茶埜子尋子
世界のふちに垂れる 宇宙の原液が ぼくらの背中を 溶かしていく きみの手を引いて 朽ちたオブジェを 握りしめて 更地にされた大地で 逃げ惑いながら 生きてみたいよって 言ったきみを知らないふりして 連れていくところは いちばん星がきれいに見える 夜の彼方 ぼくの血で汚れた きみの手 きみがその気なら 容易く振りほどけるのに 永遠じゃないものに 縋りついているのは ぼくだけじゃないんだね ここでふたりで 繋がれよう オーロラで結んで
きみの柔肌に とけていく時間 余りものの露で 夢は白く染まる 永遠をみたくて 瞳を閉じたら ぼくの膝にかけてほしい 訪れる死を 穏やかな温もりで 満たしつづけて 誰のものでもない くすんだ欠片は そっと小指で砕いて下さい これからひとつも 悲しみが生まれないように 茶埜子尋子
裸のままで 棺の上には 番を失った鳥が 羽を休めて 裸のままで きみの美学の前に膝まづいて 青い花が咲く 夜に死にたい 裸のままで 白い馬たちの 美しいたてがみ 荒れた庭の噴水は ようやく銀河で 溢れかえるのでしょう 裸のままで ずっとこのまま 裸のままで 傷ついてもいい 裸のままで 美しいのは きみの望むものすべて 茶埜子尋子
夏には死がお似合い 鈴虫の音のような 爽やか色で 風鈴が靡くような 軽やかな色で どうしてわたしは 生きているの どうしてこの唇は この身体のものなの 小さな星が降るグラスに 酸素をうかべて キラリと光ったものだけを 飲みほしたい 流れるように 消えゆくように からだの中で 蠢く命 この涼風にさらして 夏の音にしたい 流星のネックレスでもいい 着崩した浴衣で 朝顔と死ぬ 茶埜子尋子
夢に浮かんだ空よ ぼくの命の行方は知らないままで 約束のときが来てしまったよ 生きている日で一番美しい日 青く透ける鳥のような どこまでも羽ばたける羽で この命のおわりを 放たせたかった やさしい愛を知ったとき はげしい憎しみを抱いたとき 始まりがあって終わりがあることを ぼくは長い時間をかけて 命のかなしみを 溶かしていたの 生きていくこと ぼくであってぼくじゃない 体があるきみの命 手放すことはできない 儚い命 きみだからこそ生きてい