合コンで出会った「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明を読んで。「能力」よりも大事なもの。
今回、イェール大学準教授の伊神満さんの著書『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』を読んでみました。この本との出合いは、友人が開いてくれた合コンです。主催者の友人が何を狙ったのか合コンの席に携えてきたんです、このがっつり経済学の難そうな本を。それを、予定時刻より必ずきっちり30分遅れてくる系の女性陣を待つ間、新宿の飲み屋でハイボール煽りつつ拝借して読んだのが始まりでした。
結果、その合コンで唯一の収穫はこの本に出合えたことでした。面白い。一番自分の感性にしっくりくるあいみょんの曲を披露し合うより面白い。アジとサバの違いがわからない女性陣の前に並べられた赤身の刺身がブリではなくマグロであることを教えてあげるより面白い。俵万智以降口語短歌が流行し今またそのニューウェーブが来ていることを語り「こいつ女受けする趣味もってないわ」と女性陣に声に出して言われるより面白い。女受けする趣味ってなんだ教えろ!!
この本は、「なぜ既存の大企業は、新参企業に技術革新の面で劣るのか?」という問いに経済学的に理詰めで攻め込んでいく本です。その辺のビジネス書と違い、全てに根拠があります。1つ1つにしっかりとした説明が入ります。「これはこういう風に昔から言われてるのでこうです」とか「今流行ってるんでとりあえず盛り込んでみました」みたいな曖昧な定説、流行り言葉は出てきません。むしろそうした漠然とした認識や、何となく...でいっちゃう思考回路を否定します。例えば、ビタミンCが体にいい、とか。
そんな本書ですが、結論を書いちゃいますと、※以下ネタバレします
① 既存企業は、「共食い」により既存主力事業との折合いがつかずイノベーションに踏み切れない
② 一方で、芽が出そうな新興企業を需要を食い合う前にM&Aで取り込んじゃうような「抜け駆け」へのイニシアチブは高い
③ 研究開発能力:イノベーションが起こりえる技術的な土台、は既存企業の方が大きい
と、いうことらしいです。②と③を見ると既存の大企業の方がやっぱり強健な気がしますが、、、①が圧倒的に影響力が大きく、②と③に関わらず遅れをとってしまうそうな。問題は「意欲」なんですね。「能力」じゃなく。
現実として、日本の家電業界なんかみると、新興・中小企業が画期的な商品を開発→潜在的な需要の掘り起こしに成功!市場開拓!→大企業がそれを模倣。製造コストの低さを武器に、安価な類似商品を出す→市場横取り。みたいな例はありますよね。ヨットレースといわれるやつです。後ろを走るヨットと同じコースを取れば、少なくとも出し抜かれることはない。そういう経営戦略?です。経営手法としての良し悪しはともかく、「意欲」は感じられません。江戸川でやるならそれでいいかもけど、世界の大洋に出たらどうするんだ日本の大企業は、というのが明らかになった平成後期でしたね。
本書では、ではどうすれば既存の大企業は生き残れるのか、という点まで踏み込んで言及していますが、そこはここでは書きません。内容濃いので、ちょっと、書くのしんどいです。。。興味をもたれた方はぜひ読んでみてください!
最後まで読んだ自分の感想としては、「球団経営と同じ」ということです。
実績があるからといって、とうに最盛期を過ぎた野球選手をいつまでも戦力として抱え続ける球団があるでしょうか。ないですよね。コーチとして再雇用するとか、戦力外にするとか、どの球団も毎年人員整理を行っています。同時に、ドラフトで新しい血を入れる。旧事業を整理しつつ、イノベーションの種を蒔いていく。
痛みを伴う新陳代謝を、常に断行し続ける。イノベーションの波に呑まれて窒息死しないためには、イノベーションの波を起こす側にまわる必要がある、そういったところでしょうか。本書の言葉でいうと、「生き延びるためには、一旦死ぬ必要がある」。
蛇足です。「ブラック企業でもとりあえず3年は頑張れ」は果たして合理的な論理でしょうか。そういった何となく思い込んでる風説も、この本を読むとその本質を解剖できるようになりました自分は。恐らく、一昔前であればこれは合理的でした。雇用が固定的でキャリアの流動性が低かった時代では一度入った会社を辞めるのはかなりリスキーです。そもそも転職市場が小さいので次の仕事が見つかる保証がないし、ある程度耐えれば終身雇用でとりあえず死にはしない。「最初にどこに入社するか」がかなり人生を左右する時代。一方今は、雇用はかなり流動的になり、「どこで働いてきたか」より「何ができるのか」が重視されているように感じます。そういう現代においては、3年間徒労するより、さっさと辞めて”次”を見据えて行動した方が合理的だと思いますが、、、どうですかね。