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『星降る夜に』、やさしさが刺さる夜。
朝と夜。
星と太陽。
日陰と日差し。
あるとない。
復讐と愛を注ぐということ。
生きてゆくと死んでしまうということ。
ドラマ『星降る夜に』が好きだった。
対岸にあったものどうし、真逆にあった
ものどうしが、歩みをちかづける物語でも
あった。
昨日エンディングを迎えて、物語は
ハッピーエンディングに閉じられた。
それは十歳年下の一星(北村匠海)と
十歳年上の鈴(吉高由里子)の
ふたりが別れることなく、他愛もない
喧嘩をしながらふたりずっと暮らして
ゆくという大団円に対してではない
ような気がする。
年が離れているとか離れていないとか
恋愛がテーマじゃないよなって。
そんなことを感じてからわたしは
夢中になっていた。
脚本家の大石静さんは根源的な
ものを描き切ったのだと知った。
このドラマに夢中になったのは
まんなかあたりだった。
一星くんの嫌味のないかわいらしさや
人に関わらずにはいられないその
性格に惹かれてもいた。
じぶんと比較することはない
のだけれど
真逆だったから。
真逆のものにはひかりを感じるから
まぶしくて好きになる。
舞台は海の街にあるマロニエ産婦人科。
産婦人科医の雪宮鈴はある日、息抜きで
訪れたキャンプ場で聴覚障害者で遺品整理士
として働いている柊一星と運命的な出会いを
果たす。
耳が聞こえない障害を抱えながらもいつも、
開いた心で人生を謳歌している一星。
その一方で誰にも弱音を言えず過去の痛みを
抱えたままの鈴の心は、年下の無邪気な彼と
出会い、どんどんと一星の世界の一部になっ
てゆく。
ウイキペディアを参考にしながら。
はじめて惹かれた台詞は耳の聞こえない
一星が言った
「元気そうに見えても みんないろいろ抱えて生きてんだ」
だった。
俺が特別なんじゃないんだよって
鈴に根っこの気持ちをうちあける。
頼もしいなって思った。
わたしを見て、わたしだけが可愛そう。
愛して、ひたすら愛して。
あのひとは無理、ぜったい無理。
わたしは過敏だから近づかないで。
そんな叫びをTwitterやSNSなどでは
いつも目にしているから、一星の
言葉に風通しのよさを
感じていた。
恋人の鈴は過去に医療裁判で「人殺し」と
言われた重くて苦しい経験を持つ。
何も知らない人がじぶんのことを決め
つける言葉に呪縛なんてされなくて
いいんだって、傷つかなくていいって
諭す一星。
ほんとうに頼もしい。
傷つかなくていいって、お守りに
したい言葉。
そして過去の医療裁判で、妻が死んだことを
訴えた後、敗北の辛酸から逃れられない
宗一郎(ムロツヨシ)。
産婦人科医である鈴を恨むことで、自分と
ちいさな娘のいのちをつないできた彼。
鈴への誹謗中傷や嫌がらせを執拗に続けて
彼はついに病院で鈴に対面して脅しを
かけに来る。
ムロツヨシさんの演技に圧倒されて
挙句の果て
この人はやく消えてくれてって思うほどの
圧倒的な復讐の魂を感じた。
わたしは宗一郎を排除したかった。
鈴の勤めるマロニエ産婦人科に殴りこんで
きた宗一郎とのその事件を終えたあとの
海辺のシーンは忘れられない。
鈴と一星と後輩の医者の
深夜先生(ディーンフジオカ)
が海辺で花火をしていたら
鈴のモノローグが
聞こえてきた。
「なんでだろう、あの人もここに居たら
よかったのかとふと思った」
あの人って、あの人だ。
さっきまであんなに消えてくれって
思っていた宗一郎のことだ、あの人って。
その時見ていた世界が反転したように
わたしの中でふるえるようにひかった。
さびしくてくるしいのはみんな
いっしょなのだと。
そんな思いに駆られた。
そして一星がある時ぽつりと言う。
(宗一郎と)
因縁を絶つのが無理ならいっそ深められたら
いいのかな
なんだろう。
この誰も排除しないというその無垢な
まなざし。
包容力のある台詞に涙が出ていた。
わたしだって宗一郎なのだ。
その立場にならない保証なんてどこにも
ない。
わたしは罪を犯さない人
あなたは罪を犯す人。
そんな確信なんてどこにもない。
一星はもっとわかりやすく指先の言葉で
伝える。
普通の会話ができるようになるのが一番いい
なんなら一緒に星を見に行けたらいいのに
鈴はわからない、なんで?
って表情をしている。
ほんとなんで?
なんで一星ってこんなにまで心に
ちゃんと余白を持っているんだろうって
泣いていた。
そして最終回。
宗一郎は過去の罪の重さに
行き先を決めていた。
あなたにひどいことをした。
だからやさしくしないでください。
あなたがいい人じゃ困るんです。
ゴールはないんだ。
死なせてくれと思っていた刹那
彼の娘が彼を呼ぶ声を耳にする。
おとうさ~んという遠くからの言葉。
それは父を呼ぶ声というよりわたしには
「もういちど生きて」にしか
聞こえなかった。
あんなに憎かった宗一郎にわたしも生きて
ほしいと心の底から願っていた。
慟哭ってああいうことなのだ。
くずおれながら声を絞るように泣く宗一郎に
対して、一星が危機を救う人の速度でもって
駆けよって抱きしめる。
そして鈴も寄り添う。
一星たちはそのまま重なり合うように3人は
ひとつにハグしていた。
この物語は、分断することと真逆にある
世界が描かれていると思った。
みんな傷ついてきた分、優しい。
遺品整理の会社の社長北斗さんが、
彼らたちのことを
恋とか愛とか単純な名前は
つけられないな
と言うように
この物語は名づけられない関係、
名前のないかけがえのない
時間だけがそっと描かれて
いた。
今見ている星はもうすでに過去たちの光で
あるような、儚さと永遠に包まれながら。
このドラマを見終えてから
隣人を愛せるのかという命題がわたしの
なかにはずっと鳴っている。
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