飼育

ロマンティックがない夜に ホントの勇気 見せてくれたら "バニーのおしりみたいな文学" あげるよ https://twitter.com/breeding_dela

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最近の記事

ぬるい眠りをなぞって眠って、眠りたいだけ眠ってみせてよ④

「見て! 月が追いかけてきてるみたいだよ」  幼稚園に行っている頃の記憶だ。車に乗っている時よく口にした。家々や電柱、街灯がいくつ通り過ぎても、月はぴたりと後ろをついてくる。兄弟は一緒に不思議がり、両親は難しいことは説明せず相槌を打った。  理科の宿題で月の動きの観察を行ったのはもう少し大きくなった頃だ。朝、トーストを置くのにぴったりな丸く平たいお皿に似たアルミ製の星座盤を持ちながら、日没から1時間ごとに月を見上げるために家を出た。夜ご飯を食べた後はすっかり暗くなっていた。日

    • 青い、青い空

      2023年 7月16日  最後の大きな段ボールを車に積んだ時、大きな粒の汗が頬を伝って首に垂れていくのを直英は感じていた。直英は軍手を外して、濡れた額を拭いながら運転席に乗り込んだ。 「はい、これ。汗すごいけど大丈夫?」  直英の妻の真帆は助手席からスポーツドリンクを差し出しながら言った。直英は「ありがとう」と気無しに返事をして、飲み物を受け取った。  気の早い一部の蝉が見切り発車で鳴き始めたと思ったら、いまやそこかしこで大合唱となっている。あの耳障りな鳴き声が気にならなく

      • ぬるい眠りをなぞって眠って、眠りたいだけ眠ってみせてよ③

         ブルーライトが気になるが、寝る前に携帯を見ていた。  一枚の写真が画面に映った。心臓を掴まれた感覚。目を離せずにいると目の縁の筋肉が固まってしまった。その写真は新緑の季節か、それとも腰かけているベンチの上、蔓がよく絡んだ古い日陰棚に日差しが注ぎ込み、乾いた砂に濃い葉陰をつくっていることから察するに、もう少し夏めいて見えるか。写っている女性のことを、僕は彼女のお母さんに随分と似てきたな、と思った。顔が小さくて手が大きく見える。口を押さえるわけでもなく鼻を触るでもない、照れ隠し

        • あの頃

           今回の旅行は僕の希望で実現した。「どうしてもあの頃に戻りたい」という強い希望である。  思い付いた時にLINEでなんとなく田村に相談したのが始まりではあるが、その時は「まあいつかね」と流れてしまっていた。  僕も当時はそこまで強い希望は持っていなかったが、最近になって妻が二人目の子を妊娠していることが分かり、「二人目の子が産まれたらいよいよ身動きが取れなくなるから」と改めて田村に相談を持ちかけたことで実現に至った。  最初は前向きでなかった田村も、僕の意図を聞いてから気が変

          煙草

           奴が来たら煙草を吸おうと決めていた。  さも普段から嗜んでいるかのように、迷いのない所作で、おもむろに火を付けてやろうと決めていた。  あいつ、どんな顔をするだろう?慣れた手つきで煙草を吸う僕を見て驚くだろうか。或いは、ぎこちなさを見抜いて笑うだろうか。僕は、左のポケットに入っている煙草の箱をズボンの上から擦った。 「うい、バイトお疲れさん」  奴が来た。端正な顔立ちの青年が僕の正面の席につく。 「お疲れさん。こっちも今来たところ」 「何にする?」  メニューを開く。ハイ

          手とずかん

           じいちゃんの家に遊びに行くのが好きだった。昼間には温水プールやボウリングに連れて行ってくれるし、夜はご飯を食べた後に教えてくれた花札やオセロなんかをして遊んでくれる。そして寝るときにはきょうだい3人分のマットレスと布団を几帳面に敷き詰めてくれて、当時はもうビデオテープが主流だったのに、LD(30センチくらいあるDVDみたなもの)でハイジやディズニーのアニメを流してくれた。いつの間にか寝て、次の日の朝、熱い紅茶に角砂糖を3個入れて焼いてくれたパンを食べた。  好きだったこと

          手とずかん

          ないようで、ある

           薄情なもので、あまり亡くなったという実感が湧かなかった。  実感が湧かないというよりも、感情の動きが少なかったと表現した方が適切だと思う。 「仏の教えの世界で最も大切な言葉で『色即是空 空即是色』というものがあります」  葬儀を終え、祭壇に手を合わせた僧侶が穏やかな表情で列席者に振り返った。 「ある有名なお坊様が、この言葉を『あるけどない ないけどある』と訳しました」 「この世のものは、いつか全て消えて無くなる。けれども、確実に『ある』」  僧侶は袖を正しながら最後に言っ

          ないようで、ある

          ぬるい眠りをなぞって眠って、眠りたいだけ眠ってみせてよ②

          「明日、髪を切りにいこうかな」  思いつきで言うと、柊平さんの口角が上がり「どこで?」と聞いた。柊平さんはさっきから台所でガサゴソとうるさく、戸棚の奥から引っ張り出してきた紅茶を淹れていた。近所のスーパーマーケットに売っている安い日東紅茶のアールグレイで、私の分はわざわざミルクティーにしてくれているようで、仰々しくミルクパンで温めた牛乳を入れている。  私は決まった美容院に通うのが苦手で、何回か行くとすぐにまた丁度よい別のところを見つけて通い直すのを続けている。よく学校でも職

          ぬるい眠りをなぞって眠って、眠りたいだけ眠ってみせてよ②

          はるちゃん、あのね

           フレックス勤務で16時に職場を後にし、自宅に向けて車を走らせる。  郊外に向けて伸びる地方都市の幹線道路は、仕事を早上がりした甲斐あってまだ車通りは多くない。  ここのところ、この時間帯に帰宅することが増えた。最近買ったフリードのハンドルを両手で握り、アクセルを踏み込む。赤信号で引っかかると、隣にはシエンタが止まっていた。同じサイズの車を見ると嬉しくなる。僕は前を向いたまま口角を少しだけ上げた。  自宅のドアを開ける前に、僕はいつも深呼吸をする。今日も例によって、

          はるちゃん、あのね

          ぬるい眠りをなぞって眠って、眠りたいだけ眠ってみせてよ①

           家にあったので持ってきたおっとっとを食べながら、少し散歩をする。スナック袋を抱えて慣れ親しんだ、しみったれた近所を歩く。私は柊平さんのことを考えていた。柊平さんの指や、爪の形、少し踵が鳴る歩き方なんかのことを。  おっとっとはパリパリと小気味いい音を立てて砕けてすぐに消えてなくなるので、私は次々と口の中に入れてしまう。私が魚介類の形を舌で読み取り、今のはカニだった、イカだった、これは絶対にマンボウ、レアだよレア、などと毎回報告するのを柊平さんは面白がった。袋の半分を空にした

          ぬるい眠りをなぞって眠って、眠りたいだけ眠ってみせてよ①

          語尾を美しく彩る金沢の方言を勃起の視点から考察する

           皆様あけましておめでとうございます。  本年もどうぞよろしくお願いします。  私共にとって昨年は「飼育」としての生命が誕生した年であり、とても充実した一年でありました。  一部の方はご存知かと思いますが、私「共」と表現した理由について簡単にご説明差し上げます。  実は飼育は二人で運用しておりまして、一人は東京在住のイキリお洒落クソ包茎男子、もう一人は名古屋在住のクソキモチー牛陰毛包茎男子でございます。  本来であれば二人が交互に記事を更新し、片割れはクソエモ女受け◎

          語尾を美しく彩る金沢の方言を勃起の視点から考察する

          クソキモ自分史④ 浅き夢見じ 酔いもせず

          11 街を愛するということ  「事業を立案する時、必ずその原因となる事象が先行する。簡単に言えば堀君が何故その事業を立ち上げたいと思ったか。言い換えると今愛知県が抱える課題だよね。先に分かっている課題を徹底的に分析しないと、県として抱える課題を解決するための有効な施策が見えてこないはずだと僕は考える。堀君は手法から入っちゃってるから。何故その手法を選択したか聞かれた時に県民全員を納得させることができる?課題とその解決方法、つまり原因と結果は必ず線で繋がっていないといけない」

          クソキモ自分史④ 浅き夢見じ 酔いもせず

          クソキモ自分史③ 有為の奥山 今日越えて

          8 やけどな、出て行くべきや 「こんな日々が、続きますように」  いつかは終わりを迎えることが分かっているからこその願いでした。  大学1年の時に初めて訪れた夜の街。その外れにあるラウンジ音色で働くための面接の直前のことでした。私は、私をここまで導いてくれた「道」の存在に気付きました。  この道はこの先どこに繋がるのか。そんなことを考えながら歩いてきた軌跡を振り返ると、稲沢さんが、都さんが、そしてママが、私のすぐ傍らでこちらを見て微笑むのです。なんと心強いことか。なんと愉し

          クソキモ自分史③ 有為の奥山 今日越えて

          クソキモ自分史② 我が世誰ぞ 常ならむ

          5 今を生きなさい  アルバイトに向かう原付に跨る時、私は決まって憂鬱でした。「君のせいで私はとんでもない目にあっている」何度かこの原付を蹴っ飛ばしてやろうと思ったほどでした。イオンで買った安物のシャツとスラックスを纏い、私は冬の冷えた空気を浴びながら風を切って街に向かいます。  研修と称してマンツーマンで指導を受けた最初の一週間は毎日シフトに入りました。水商売の世界の道理も知らない少年がいきなり通用するわけもなく、私は金魚の糞のように店内を忙しなく動き回る大男の後ろをつい

          クソキモ自分史② 我が世誰ぞ 常ならむ

          オレンジは泪の痕を伝って

          「大袈裟な名前の渓谷だったね」 「私おじいちゃんの朝の散歩コースかと思っちゃった」  夏に等々力渓谷に行った時に、一日がかりのデートになると見込んでいた割に半日どころか3時間で目的を終えてしまったことがあった。そのあと結局、やることもないから思いつきでレンタカーに乗って江ノ島まで行った。「そういう臨機応変なところ、すごい好きだしわくわくする」と褒めてつかわされ、気をよくしてしまい、途中寄った地場のスーパーで円柱型のビニールに入った大学生がキャンプでやるような馬鹿でかい手持ち花

          オレンジは泪の痕を伝って

          クソキモ自分史① 色は匂へど 散りぬるを

          1 はじめに  永遠に思えるほど長く、それでいて刹那的であったモラトリアム期間。私は、この天より賜った猶予期間を曖昧模糊として過ごし、何を発見し、何を成し遂げるでもなく惰眠を貪るためだけに浪費しました。  そして、その後丸裸の状態で社会に放り出され、今年で三十路を迎えました。私はつい昨日まで、当時のモラトリアム期間の沈殿物、曖昧模糊の澱みは、最早出涸らしとなった残り滓を口を窄めて味わうために存在しているものだと認識していました。  青春の残滓は往々にして朧気で儚いもので

          クソキモ自分史① 色は匂へど 散りぬるを