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壱
2024年5月16日 17:22
ああ、何を言いたかったか忘れた。だって夢なんだもの、仕様が無いじゃないか。今の今まで寝ていたろうって?じゃあ君は5分前にあったことを憶えているのか?わかったよ、ぼくがわるい。打ち明けるよ。君と来た広い大きな公園に居たんだ。わかるだろ?あのおっきい湖があって、へりで二人で何度も座って話したり、寝そべったりした、あの。あそこで君はいつも通り四葉のクローバーなんかを探して、僕もそれに付
2023年7月21日 09:22
夏休みも半ばにさしかかり、友達と遊ぶこともなかった僕は、祖父母の家の庭で夥しい数の蟻の群れを眺めていた。滴る汗が砂利の上に滲みを作り出し、水玉模様の土を蟻が横切る姿を注視する訳でもなく、ただ眺めていた。コイツらは何を考えているんだろう。死んだ羽虫の亡骸を重たそうに抱えて列を成す蟻の気持ちを僕はわからずにいた。蟻は飽きもせずに運搬を続けている。 脇に咲く薔薇の棘に目をやり、指
2023年7月31日 17:47
蝉の声が頭の中で重なり合い、綺麗な思い出も、忘れたい過去も全てをぐちゃぐちゃにかき混ぜる。川沿いのベンチに腰掛けながら、煙を燻らすことに一生懸命な警備員を視界の端に捉える。彼はきっと、お昼休憩の1時間をいつもこうやって過ごしているのだろう。心の中で応援しながら、僕も一生懸命煙草を吸っている。今朝、祖父が死んだ。囲碁の好きな人だった。縁側でいつもラジオを聴きながら盤上を眺めてい
2023年9月10日 11:01
朝目覚めると、昨日までの悪天候が嘘かのような晴天に見舞われ、風に仰がれたカーテンが顔を撫でるのを鬱陶しく手で払った。ベランダに出て煙草でも喫もうかしらと、服を着て喫煙具を引っ掴んだ。床に置いてある灰皿の横に座し、のそのそとライターで咥えた煙草に火を付ける。一口目を肺に入れ込まずに、ふかす。煙がもわっと風に攫われ、僕の鼻先に立ち上る。ぷかぷかと煙を燻らせていると、僕の視界の端に