道化の夏休み
夏休みも半ばにさしかかり、
友達と遊ぶこともなかった僕は、
祖父母の家の庭で夥しい数の蟻の群れを眺めていた。
滴る汗が砂利の上に滲みを作り出し、
水玉模様の土を蟻が横切る姿を注視する訳でもなく、ただ眺めていた。
コイツらは何を考えているんだろう。
死んだ羽虫の亡骸を重たそうに抱えて列を成す蟻の気持ちを僕はわからずにいた。
蟻は飽きもせずに運搬を続けている。
脇に咲く薔薇の棘に目をやり、指でそっと触れる。
思いの外強く指の腹で押してしまい、血が滲んだ。
祖母は買い物に出ていて、しばらく帰ってこないことをわかっていた僕は、
周囲を確認してさらに強く指を押し込んだ。
痛さがますに連れて、血は指を伝い、手首まで流れ落ちる。
祖母が見たら飛んでくるだろう事を想像すると、
おかしくなって思わず笑みが溢れる。
人の血は赤い。
それは僕をとても不思議な気持ちにさせた。
緑でも黒でも良かったじゃないか。
おばあちゃんの血も、おじいちゃんの血も、クラスのあの子の血も、みんな赤いのだろうか。
僕は不思議に思った。
祖母が帰ってくる頃合いになったので、
僕は血を洗い流し、思い出したように蟻を踏み潰して家の中に入った。
居間には祖父のワインセラーの中に、
何やら沢山のお酒が飾られている。
他にこの部屋にはマッサージチェアとテレビしか無い。
テレビをつけて、子供向けの番組を視聴する。
祖母が帰宅し、スーパーの袋を台所に持って入っていった。
毎日、僕が子供番組を熱心に見入ってるのを満足そうにし、笑みを浮かべながらご飯を作る事を僕は知っている。
窓から差し込む風が白いカーテンをふわりと扇ぐ。
僕は子供番組を観ながら、少し声を上げて笑った。