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「入り口」の一作と「いつかいつか」の二作

今年の9月で90歳ですか。

筒井さんご自身は、昨年11月に出た掌篇小説集「カーテンコール」を「わが最後の作品集」と呼んでいるそうです。しかし職場の売れ方を見る限り、まだまだ終わらない気がします。長年のファンらしき年配の方だけではなく、若い人も買っていくのです。TikTokで話題になった「残像に口紅を」をきっかけに存在を知ったのでしょうか? 

膨大な数の著作がありますが、いわゆる「入り口」として「残像に~」以外で一冊選ぶなら、新潮文庫の「くたばれPTA」でしょうか。「カーテンコール」と同じ掌編小説集です。

某冨野アニメを連想させる「2001年公害の旅」と不可避の問いを投げ掛けてくる「ここに恐竜あり」が印象に残りました。いま読むと良くも悪くも昭和の男性作家だなと感じます。一方で、悠然と枠を踏み越える突破力及びアイデアの鋭さに時代云々とは無関係の、いつの世でも鬼才だけが生み出してきた危険な色気を覚えるのもたしかです。ぜひ。

筒井さんの作品と初めて出会ったのは、たぶん高校生の頃。深夜に放送していた映画「文学賞殺人事件 大いなる助走」です。アダルトな展開に釘づけになりつつ、どこまでが事実に基づくのかわからなくて戸惑った記憶があります。

原作の「大いなる助走」は読んでいません。映画に打ちのめされ、ずっと腰が引けています。ウィキペディアによると、直木賞の選考過程を揶揄するストーリーにもかかわらず(選評に怒る場面がやけに生々しかった)「別冊 文藝春秋」に連載していたとか。大らかな時代? そんなありふれたフレーズに要約していい話でもないような。

改めて眺めると表紙も不穏ですね。読みたい。

興味津々なのに世界観及びチラ見したあらすじにビビり、手に取るのを躊躇っている筒井文学は他にもあります。代表格は↓。

イタチ族と文房具たちの戦争。さらに輪ゴムがゲシュタルト崩壊だとか、セロテープがペン皿の部下だとか、墨汁が○○○○○だとか。

恐ろしかったら存在を忘れてしまえばいいのに、名作固有の魔性がそれを許さない。かつて夢中になったサウンドノベル「弟切草」や「かまいたちの夜」もそうでした。バッドエンドに震え、怖さで眠れなくなってもやめられない。逃げずに克服したいとか、そういう前向きなチャレンジ精神とは無関係です。ただただ引き寄せられました。

一概に言えないのは大前提。でももしかしたら、怖さとは好奇心へ繋がる可能性を秘めた何かなのかもしれません。

沢木耕太郎「一瞬の夏」じゃないけど「いつか、いつか」から一歩踏み出したい。近々「大いなる助走」に挑みます。

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