
「街の書店」に根付くもの
出版不況という言葉がピンと来ません。
10年以上書店で働いています。でも「昔はもっと売れたのに」と思ったことは一度もない。これが普通なのです。
コロナ禍でも同じ。休業中はともかく、営業期間の売り上げはさほど落ちていません。目が回るほど慌ただしい。これで「不況」なら好況時は過労死が出たのでは、と訝るほどです。
忙しさの割に給料が安いという点に「不況」の影を見出すことはできます。でも原因は本が売れないことではなく、業界の古い体質にある気がします。出版社や取次に比べて書店の得る利益が著しく低い。そこを誤魔化して全てを「不況」のせいにするのは違いますよね。
とはいえ、私は大型店の従業員です。街の書店で働く人の認識はまた別でしょう。ひしひしと「不況」を感じているかもしれない。
↑の記事に「店売をやめて配達だけにしている店も多い」とあります。私も小さな本屋で働いていた際は近隣のオフィスへ配達をしました。真夏や真冬は大変です。雨の日も嫌で「なぜこんなアナログなことを」と疑問でした。
でもいま思うとああいう古き良き地域密着型のビジネスモデルがお店の生命線だったんだな、と。子どものころは酒屋さんや牛乳屋さんの配達とかありましたし。
ネットが主流になっても昔のままがいいという人は一定数います。彼らの受け皿は大事な役割。ただそれだけでは先が見えない。SNS及びオンラインショップの活用も必要になってくる。あとは選書と場の空気で大規模店やAmazonとの差別化を図る。
その意味でオススメな「街の書店」をひとつご紹介します。
『肝を喰う』(小泉武夫 東京堂出版)とにかくこの臓器はとてつもなく美味で、そして栄養価にも富んでいるので、昔から人はこの器官を特別大切な食べものとして重宝してきた。生でも、煮ても、焼いても、コッテリとした濃厚なうま味とコクは、人を魅了し、そして舌を誘惑してきた。 pic.twitter.com/3NdGFBQjyL
— 新栄堂書店 (@shineido) December 4, 2021
池袋東口のあずま通り(ジュンク堂の隣の道)にある新栄堂書店です。
ここの選書の目利きはたしかで、私もかなり影響を受けています。あと雰囲気が落ち着いていて静かな時を過ごせます。こんなオシャレな本屋、用がなくてもつい覗いてみたくなりませんか?
「街の書店」には大型店やネットにはない何かが根付いています。あえて言葉にするなら「お金が全てじゃない」という「文化への矜持」でしょうか。ぜひ足を運んでたしかめてみてください。
いいなと思ったら応援しよう!
