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私だけのHB

おはようございます。書評行きます!!!

「天使たちの探偵」 (ハヤカワ文庫JA)  
早川書房、1997年出版、原りょう著、325P

(以下は読書メーターのアカウント https://bookmeter.com/users/49241 に書いたレビューです)

短編に関しては本家のチャンドラーを超えていると思った(異論は認める)。著者が無茶ぶりな展開をわざわざ己に課し、いかに切り抜けるかを楽しんでいるような六編。特に「少年の見た男」は相当トリッキー。「選ばれる男」も直球と思いきや鋭いカットボールでまんまと芯を外された。実在の人物やエピソードを角が立たない程度にシニカルに取り入れる大人のユーモアもじわる。ハードボイルド枠で固定ファンの絶賛に留まるのはもったいない傑作。今後「何かいい短編集を知ってますか?」と訊かれたら、まずはこの本をオススメしよう。ザ・面白い小説。

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著者の本を読むのはこれで三作目です。エンヤ並みに寡作な作り手ですが、いまのところ傑作揃い。物語自体も起伏に富んでいて飽きさせないのですが、なによりも文体と主人公のキャラクターが素晴らしい。小説の肝はやはりそのふたつだなと痛感させられました。

ジャンルとしてはハードボイルド・ミステリィ。私立探偵・沢崎は「探偵物語」の工藤ちゃんよりもユーモアが辛辣で口が悪く、レイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」のフィリップ・マーロウやロバート・B・パーカー「初秋」のスペンサーみたいなマッチョな色気とも程遠いタイプです。かといってダシール・ハメットの生み出したサム・スペードほど冷たく研ぎ澄まされた佇まいでもなく、藤原伊織の小説の主人公から女性に纏わる影を抜いた感じに近いと思いました。隠し持つ弱さと優しさの強度は同じだけど方向性が異なるのです。

こういう小説、今後はどんどん減っていくのでしょうね。ドラマから喫煙シーンがカットされるご時世ですし、スマホが普及したスピーディーなネット社会とはテンポが合わない気もします。二十~三十代の作家が書いたハードボイルドっていまあるのでしょうか? 中村文則「掏摸」しか思いつきません。あれを書いた時の中村さんってまだ三十歳ぐらいでしたよね。素晴らしい作品でした。

私はハードボイルドの「ハ」の字にも及ばぬ軟弱な人間です。でもだからこそハードボイルド的な強い生き方をして勝ち残っている作家からは逆立ちしたって生まれない突然変異を創造し得るのではないか。本来の自分にあえて窮屈な負荷とルールを設定し、その制限された枠の中で想像と発想の自由を謳歌したとき、一体いかなる文体とキャラクターが生まれるか。少しずつ書いてみようと思います。どうなるか楽しみです。



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