イチ書店員の「適当」論
タモリさんの座右の銘は「適当」でしたか。
「真っ当」と「適当」、そして「いい加減」。この3つの違いを考えてみました。
まず「真っ当」は「ちゃんとしたやり方」です。正しい手順を省かず、きちんと踏まえること。「適当」は私の場合、重要なポイントを押さえたうえで迅速&簡略化することを意味します。「いい加減」は何も考えず、さっさと終わらせるために雑に流すこと。
たとえば返品する本を棚から抜くとき。大型店の書店員はハンディタイプの機械でバーコードを読み込み、直近数か月のデータを確かめ、売り上げの立っていないものを外します。これが「真っ当」なプロセスです。
ただ日々見ている自分の棚であれば、全てチェックしなくてもある程度は把握済み。「この本はずっと動いてない」「今後も厳しい」と勘を働かせることで「適当」な仕事ができます。
「いい加減」は新刊を置くスペースを作るため、目に着いた本を無造作に抜くこと。売り上げも話題性も著者名も内容も気にせず。いまだったら直木賞の受賞作を外すようなものです。
先日「北条義時」に関する児童書を返そうとしている人がいて驚きました。「鎌倉殿の13人」が始まって評判も上々なのに。
あと「あれ?」と思ったのはノンフィクションの棚。伊藤詩織さんの「Black Box」が返品されている。↓のニュースを知らないのでしょうか?
3月に文庫化するので、じゃあ単行本はいいかと判断したのかもしれない。でも私なら文庫が来るまでは売れてなくても棚に差します。
「真っ当」を貫くなら、動かない本は返すのが定石。でもそれだけで満足していたら我々の職務はいずれAIに奪われます。「売れてなくても置くべき本」はどのジャンルにもあるのです。そこの見極めを「適当」にできてこその「書店員」ではないでしょうか?
「いい加減」は論外ですが「真っ当」も常に正解とは限らない。だからこそこの仕事は面白いのです。