見出し画像

内幕10:老舗書店買収の裏側にある大企業の思惑と今後の動向

12月29日に紀伊國屋書店は、旭屋書店・東京旭屋書店の全株式を取得したと発表されました。

旭屋書店といえば、1946年に大阪駅前に創業した約80年の歴史を持つ老舗書店で、関東・関西を中心に11店舗を展開しています。

業界の人以外は知らないかもしれませんが、旭屋書店は元々、TSUTAYAを展開しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の子会社だったんです。
CCCは、2019年4月から旭屋書店および東京旭屋書店を子会社化しています。

屋号が「TSUTAYA」じゃないのでわからなくて当然かもしれません。


紀伊國屋書店とCCCでは、2024年8月30日に「旭屋書店および東京旭屋書店の株式譲渡契約締結に向けた協議開始」と発表していました。

それが、今回合意したことによりCCCから紀伊國屋書店に、旭屋書店と東京旭屋書店の全株式が譲渡されたということです。

紀伊国屋書店が同業を買収するのは初めてのことです。

紀伊國屋書店は、買収した目的を『出店エリアの補完や人材交流により、成長を加速させる』としています。


では、なぜCCCは旭屋書店・東京旭屋書店を譲渡したのでしょうか。

また、なぜ譲渡先が紀伊國屋書店だったのでしょうか。

ここからは、業界に精通する僕が関係者の方々から聞いた話を元に推察していきます。

前提として紀伊國屋書店とCCCの繋がりから簡単に説明します。

2023年10月2日に紀伊國屋書店、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、日本出版販売(取次)の3社で、書店主導の出版流通改革の実現に向けた、共同出資会社「株式会社ブックセラーズ&カンパニー」を設立しました。


通常は出版社→取次→書店の流れで本が流通しています。
これを出版社→書店の直接取引にするということです。
ブックセラーズ&カンパニーが参画書店の代表として各出版社と交渉し、仕入数を決めて直接取引契約を締結することを目的にしています。

簡単に説明すると、『書店の利益を上げるために直接取引にし、その代わり書店は返品抑えてしっかり本を売るようにしましょう』ということです。

これで面白くないのが、取次である日本出版販売だと思います。
通常の流通の流れから言えば、飛ばされることになるからです。
しかし、本を書店に運ぶ役割を担うことに変わりはありません。
また、日本出版販売はグループで書店も展開してるので、データの共有などできるという点で参加しました。

しかし、「本を本屋に届ける役割」を担うのであれば、佐川急便やクロネコヤマトを使った方が迅速に届けることができ、コストも抑えられると思うので、参加しなくても良いのではないかと思います。

こうした合同会社を設立したことからもわかるように、紀伊國屋書店とCCCは繋がりがあります。

そして、CCCが旭屋書店を紀伊國屋書店に譲渡した理由として、『CCCが書店経営に力を入れなくなった』からだと僕は思います。

なぜなら、CCCはホームページでも「カルチュア・コンビニエンス・クラブは、企画会社です」と謳っているからです。

つまり、「企画会社」として成長していくために、「本屋」を切り離したかったのではないでしょうか。

そのことからも分かるように、全国で多くのTSUTAYAが閉店しています。

そして、「SHARE LOUNGE」や「フィットネス」など様々な事業を展開しています。

そうした中で、子会社の旭屋書店の存在が足かせになったのではないでしょうか。

旭屋書店は決して業績が悪い本屋でほありません。
悪ければ閉店しているはずです。

その旭屋書店を譲渡するのに最適だったのが、紀伊國屋書店だということです。

紀伊國屋書店からしても、新規で出店する必要もなく、売上が見込めて出店エリアの補完にもなることから、成長を加速させるためには最適だったのではないでしょうか。

紀伊國屋書店は、2024年8月期の連結決算で、『純利益が前の期比9%増の34億円だった』としています。

つまり今回の買収は、紀伊國屋書店としては『本屋』として成長していくためであり、CCCとしては『企画会社』として世界に羽ばたいていくためのものだったと言えるのではないでしょうか。

いいなと思ったら応援しよう!

RYUTA|本屋マイスターの道しるべ
宜しければ応援お願いします! いただいたチップは本屋応援の活動費に使わせていただきます!