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覚書

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わたしが消えたくなった夜のための
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#自分

贅沢な二週間

贅沢な二週間

 歳を重ねるごとに誕生日の過ごし方がわからなくなっている。

 毎年の誕生日を“誰かに祝ってもらう”ことが確定しているわけではないわたしみたいな人間は、どうその一日を過ごすかを自分が考えてあげなくちゃ、ただ孤独を感じる一日になって、特別さが薄らいでいく気がする。わたしはいくつになっても自分の誕生日にうきうきしていたいよ。

 そんなわけで、今年の誕生日、わたしはずっと念願だった免許合宿に行くことに

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深淵なんてもんじゃない

深淵なんてもんじゃない

 どんな人に出逢っても、どんなに好きなものに囲まれても、ずっとむかしにぽっかり空いた心の穴が塞がらないまんまだって?

 おめでとう、それは心の穴なんかじゃない、ブラックホールの赤ちゃんだ。君が発している引力のこと。

 ブラックホールは、光すら脱出できないんだって、絶望みたい。でも、ブラックホールに呑み込まれる宇宙の塵たちは、最期の一瞬、あまりの熱と引力に宇宙で最も輝くらしい。もしかするとその光

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ヘイトを叫べ

ヘイトを叫べ

 なにかに感動したり、ときめいたりすることがめっきり減った。

 以前はどんなものにも心の底から共感したり、自分自身に備わっていないものであれば解ろうと近づいたり、音叉のように心を震わせたり、そうやって好奇心の赴くまま、ひとの心や、それらから生まれたものたちに触れたりしていたのに。

 今はもうなにかを見たり聞いたりしてもへえーすごいねという感じだ。もしかして、ちょっとは五感が肥えたせいかもしれな

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何者

何者

 五月になった。あと二十日で誕生日だねと、祖父は嬉しそうに言うのに、なぜかわたしはひやっとした。永遠のティーンエイジャーが終わる。

 何者かになる。ならなければいけない。ずっと急かされていたように感じる。だれに?だれでもいい。考える間もなく、ただ焦っていた。何者かになる。名前をもたず、替えが利くわたしであるならば、わざわざ生きなくていいと思った。何者かになる。それがなければ、わたしはわたしになれ

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