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19冊目『ガイドブックには載っていない 本当は怖い沖縄の話』/神里純平

 6冊目『平面いぬ』/乙一 の冒頭でも書いたが、夏になるとホラーものが読みたくなる。
 加えて、私は「本当は怖い××」系の作品に滅法弱い。一時期『本当は怖いグリム童話』にどっぷりハマり、滅茶苦茶読んでいた。最近は「本当は怖い××」系も『本当は怖いグリム童話』も読んでいないけれど、書店などで見かけると「うわっ、懐かしい!」「昔はこういうの好きだったんだよね〜」なんて内心で呟きながら、つい立ち読みしてしまう。

 本書『ガイドブックには載っていない 本当は怖い沖縄の話』も、夏だから怖い話読みたい欲と、「本当は怖い××」系にビビッとくる性癖がマッチングした結果、ついつい手を伸ばしてしまったのである。

 因みに、私は一度も沖縄の地を踏んだことがありません

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『本当は怖い沖縄の話』と記されているし、沖縄にはパワースポット等もあるから、心霊モノとかスピリチュアル的な怖い話が纏められているのかとワクワクしていた。
 が、予想に反し、本書の内容は全然ホラーじゃなかった。まあ、ある意味“怖い話”ではあるけれども。期待していた“怖い話”ではなかった。
 まず冒頭に、以下のように書かれている。

本書は、このままでは忘れ去られてしまうそのような沖縄の一面に焦点をあてて「本当は怖い」というテーマのもとに執筆したものである。歴史的なことも含めて掘り下げているので、県外の方はもちろん県民の方も興味を持って読んでもらえると思う。(P.3)

 この『そのような沖縄の一面』とは具体的に、他県では見られない沖縄独自の文化や歴史のことを指しています。言い換えると、沖縄県民からすれば至極“当たり前”すぎて語られない文化・歴史のことのようです。
 個人的に酷く驚いた「沖縄の怖い話」を、箇条書きにしてみた。

①「絶対に米軍基地反対」と言う沖縄県民は、そんなに多くない(P.50)
②翁長知事は独立を「県民の総意」等と言い、「独立するというよりは、日本が切り離すんじゃないか」としていたが、実際はほとんどの県民が切り離されることを望んでいない(P.79)
③基地に配属された米海兵隊員の中には、前科持ちの者もいる。保護士から「南の島に行けばいい生活が出来る」と入隊を勧められ、配属されたコカインの売人(服役回数:二回)もいたりする(P.119)
④基地のある市には、政府から億単位の借地料が支払われている。故に基地を返還する話が具体的になると「返還反対運動」が起こる(P.138)
⑤反基地運動をしている人のほとんどが県民ではなく、左翼勢力や沖縄に関係のない人達である(P.140)
⑥辺野古にジュゴンはいない。毎日、辺野古の海に潜っている漁師も目撃したことがない。但し、比較的近い海岸には生息している(P.140〜141)

 最も驚いたのは『辺野古にジュゴンはいない』のくだりである。
 あれだけ「ジュゴンが居るから、埋め立てて基地を作ったらアカン!!」と叫ばれているのに、本当はジュゴンが居ないなんて誰が思おうか。果たして、真実は何処にあるのか。何を信じて良いのか。改めて考えさせられる一冊である。


 本土──特に東京──に住んでいる時、沖縄の問題に触れる機会はテレビを始めとするマスメディアやネット、書籍ぐらいしかない。それも「知りたい」「知ろう」と自ら行動に移さない限り、詳細は分からないだろう。マスメディアから流される一方的な情報を受信するだけでは、本当の沖縄問題や、県民の考えなど分からないのである。
 私は、本書から「受動的ではダメなんだな」と実感できた。ジュゴン云々の他にも、多額の補助金の話や、“負の遺産”問題にも驚かされた。何故、驚かされたのか。答えは、こうだ。
 現実的に生々しくて醜くて耳障りな沖縄県内での〈その手の話〉は、東京などには全く伝わって来ないから。
 しかし、よくよく考えてみれば、ジュゴンの話以外は沖縄県外でも珍しくない問題である事に気付く。本土──というか本州でも莫大な税金が注ぎ込まれたにも関わらず大赤字を出している所謂『ハコモノ』が数多く存在するし、行政と市民の意見が食い違ってることも間々あるし、補助金や借地料を頼りにしているが故に世論に「反対」する地元民も少なくない。

 青い空、白い雲。透き通った綺麗な海に、白い砂浜。
 リゾート地(或いは観光地)として我々は、沖縄に夢だの憧れだのを抱きだちだが、実際のところは「近くて遠いと見せかけて滅茶苦茶近い土地」なのかもしれない。とりわけ税金問題や土地に関する事案は、きっと大差ないのだと思う。
 アメリカ軍基地問題を直視したくない。輝く海と空と、美ら海水族館と、その他諸々の『沖縄の素晴らしいところ』だけを見つめて、それ以外には盲目になりたい。沖縄の抱える問題はメディアが報じる事が全てだ──その気持ちこそが“怖い話”だと私は思った。
 この“怖い話”は世界中、無限に存在しているのだろう。私達が知らないだけで。

(了)


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吾妻燕
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