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映画感想文

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2012年から続けている手書きの映画ノートの内容を、一部編集・アップデートして載せています。当時見た新作〜旧作まで様々。洋画が多め。レビューや批評というよりは、感想です。出演して…
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記事一覧

映画感想#71 「追憶の森」(2015年)

原題 The Sea of Trees 監督 ガス・ヴァン・サント 脚本 クリス・スパーリング 出演 マシュー・マコノヒー、渡辺謙、ナオミ・ワッツ 2015年 アメリカ 110分 樹海で見つけた生きる意味 樹海、と聞くとどのようなイメージを持つでしょうか? 個人的には「自然」というよりは「自殺」が先に浮かびます。 そんな樹海をテーマにしたスピリチュアルな映画です。 カテゴリは「ミステリードラマ」とありますが、別に謎解きをするわけでもないし、犯人捜しをするわけでもない。自

映画感想#70 「ルーム」(2015年)

原題 Room 監督 レニー・アブラハムソン 脚本 エマ・ドナヒュー 出演 ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ショーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシー、トム・マッカムス 他 2015年 アイルランド・カナダ 118分 <部屋>から<世界>に出た親子は 拉致・監禁という許されざる犯罪によって傷を負った1人の女性の物語です。辛いシーンもありますが、彼女の人生と決断から、誰しも得るものがあるのではないかと思います。 2部構成となっていて、前

映画感想#69 「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」(2014年)

原題 5 Flights Up 監督 リチャード・ロンクレイン 脚本 チャーリー・ピータース 出演 モーガン・フリーマン、ダイアン・キートン、シンシア・ニクソン、クレア・バン・ダー・ブーム、コーリー・ジャクソン 他 2014年 アメリカ 92分 手放すべきもの、そうでないもの 主人公のアレックス・ルース夫妻がとても素敵でした。自分のことだけじゃなく、互いを思い合うことを当たり前に考えられるというか。2人でいて、初めて自分でいられる。そんな年の取り方をしてきた夫婦の雰囲気。

映画感想#68 「コンクリート・ナイト」(2013年)

原題 Betoniyo 英題 Concrete Night 監督 ピルヨ・ホンカサロ 脚本 ピルヨ・ホンカサロ、ピルッコ・サイシオ 出演 ヨハネス・ブロテウス、ヤリ・バーマン、アンネリ・カルピネン、ヨハン・アルフサク 他 2013年 フィンランド・スウェーデン・デンマーク合作 96分 息苦しさ、少年の葛藤 麻薬中毒の兄を待つ少年シモの葛藤を、独特な映像美で描いています。 モノクロということもあり、大衆向けというよりは、いかにもアート系フィルムといった雰囲気でした。 14

映画感想#67 「パディントン」(2015年)

原題 Paddington 監督 ポール・キング 脚本 ハーミッシュ・マッコール、ポール・キング 出演 ヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンス、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント、ニコール・キッドマン、ベン・ウィショー(声)、イメルダ・スタウントン(声)、マイケル・ガンボン(声) 他 2015年 イギリス 95分 このクマ癖になります 大変な面白さでした。見る前は若干「どうなの?」っていう気持ちがなくもなかったけど、このクマ、映画を見終わる頃にはどうしようもなく

映画感想#66 「アンジェリカの微笑み」(2010年)

原題 O Estranho Caso de Angelica 英題 The Strange Case of Angelica 監督・脚本 マノエル・ド・オリベイラ 出演 リカルド・トレパ、ピラール・ロペス・デ・アジャラ、レオノール・シルベイラ、ルイス・ミゲル・シントラ 他 2010年 ポルトガル・スペイン・フランス・ブラジル合作 97分 絵画のような美しさ。 世界から切り取られた1つの額縁の中を覗いているような感じ。 一言でいうと「静かで美しい映画」だと思います。劇中に流れ

映画感想#65 「独裁者と小さな孫」(2014年)

原題 The President 監督 モフセン・マフマルバフ 脚本 モフセン・マフマルバフ、マルズィエ・メシュキニ 出演 ミシャ・ゴミアシュビリ、ダチ・オルウェラシュビニ、ラ・スキタシュビリ、グジャ・ブルデュリ ほか 2014年 119分 ジョージア・イギリス・フランス・ドイツ合作 リアリティと寓話性が共存する映画 なかなかに緊張感のある、苦しい映画です。 独裁政権を強いた大統領の視点から、政治とは?統治とは?という大変現実的な問題を投げかけてくる。 実話ではないみたい

1ページに満たない映画感想<亡き人を想う>2015年⑦

ニュー・シネマ・パラダイス(1989年/ジュゼッペ・トルナトーレ/イタリア他) 言わずと知れた名作ですが・・・やっぱりとても良い映画だ。 良い映画と言わずに何といえば良いんですか、というくらいの名作だと思った。郷愁、青春、恋、成長・・・良い映画の要素が詰まっている。 古き良きイタリア。戦争の傷跡が残るシチリアの田舎町で、唯一の娯楽である映画を通して交流がなされていく。 映写技師アルフレードは時に厳しく、時にやさしく、本心で向き合ってくれるおじさん。主人公の少年トト(サル

1ページに満たない映画感想<戦争を考える映画>2015年⑥

日本のいちばん長い日(2015年/原田眞人/日本) その名のとおり、日本の歴史の最も重要な一幕。 ポツダム宣言を受諾するか否か。 1945年8月15日の、人々の行動と心情を描いています。 ただ映画としては格好の材料ですが、それをただのドラマとして見てはいけないのだと思います。これを史実として受け入れる責任が、日本人にはあるはずです。 「日本という国の命運」を描きつつ、その中にある天皇・政治・軍、上司と部下、さらによりミクロな視点で個人の内面を描いている。 特に松坂桃李

1ページに満たない映画感想<子どもの世界も大変だ>2015年⑤

犬どろぼう完全計画(2014年/キム・ソンホ/韓国) ほぼ初めましての韓国映画。 家をなくした少女が、マイホームを取り戻すために犬を盗んでお金を手に入れようとする、というなんとも切ないお話です。 予想通りのザ・感動もの演出ではありましたが(スミマセン)、そこまで嫌悪するほどではありませんでした。 何より子どもたちがかわいい。逆に言うとそれありきで成り立っている映画かも。 本作は、アメリカの作家バーバラ・オコーナーの小説「犬どろぼう完全計画」(How To Steal a

1ページに満たない映画感想<立ち上がれ、主人公!>2015年④

ナイトミュージアム エジプト王の秘密(2014年/ショーン・レヴィ/アメリカ) ベン・スティラーがとても良かった。 お馴染みの自然史博物館の面々や息子ニッキーとの関係も含め、主人公ラリーの成長がしみじみと感じられました。 最初はあんなに大変な思いをして夜警をしていたラリーが、展示物たちと信頼を築いていき、今や自然史博物館を守る存在となっている。いやはや、ナイトミュージアム好きとしてはなんだか感傷的になってしまいますね・・・。 展示物を動かしている原因である、エジプト王家

1ページに満たない映画感想2015年③<シニカルでメタフォリックな世界>

ある官僚の死(1966年/トマス・グティエレス・アレア/キューバ) キューバの映画は初めて。独特の空気感がありました。 叔母のために走り回る甥のフアンチンは、労働者証を取り戻すために奔走するも、行く手を阻むのは分かりにくく、面倒くさい決まりごと。行政や官僚に振り回され、真面目な青年が狂気を見せる変容っぷりが面白い。 官僚制度への批判だけでなく、きちんとブラックコメディに昇華されているところが良い。 ラテン系の言葉にはリズムや勢いがあって、見る人のテンションも上がってい

1ページに満たない映画感想2015年②<ヨーロッパのシュールなアニメーション>

ムーミン谷の彗星(2010年/マリア・リンドバーグ/フィンランドほか) 豪華ムーミン。 北欧俳優陣の声の出演が最高です。 まず、ナレーションのマックス・フォン・シドーが、冒頭から北欧の澄んだ空気感を作り出してくれます。ムーミン親子は、スカルスガルド親子がそれぞれ演じているのも良い。声もなんだか似ているように聞こえました。特に息子アレックスの声はとても特徴的なので(と言うか好きなので)、ムーミンというよりアレクサンダー・スカルスガルド様の冒険に思えてきてしまいます…。 スニフ

1ページに満たない映画感想2015年①<自分探し×恋愛映画>

自由が丘で(2014年/ホン・サンス/韓国) 加瀬亮主演の韓国映画。 主人公モリは、かつての恋人クォンを探しに韓国へ来たものの、なかなか見つけられずに時間だけが流れていく。少し哲学的な要素も含んだ作品です。 しかし見た直後の感想としては「よくわからない…」。いくつか解説などを読むと、「時間」という概念がキーワードになっているみたいです。吉田健一の「時間」という本を、加瀬亮がずっと読んでいます。 いや、でも流石にこんなにも時系列を無視されるとよくわからない。 なんでモリが