10月に読んだ本
「スナーク狩り」
「不思議の国のアリス」で知られるルイス・キャロルのナンセンス小説。スナークと呼ばれる誰も見たことのない怪物を探すため旅に出た8人と1匹の冒険譚。魅力は何と言ってもルイス・キャロルの無意味でシニカルな言語センスだろう。全ての事柄に言えることだけれど、無意味はそこに存在する時点で決して無意味を意味しない。
「不思議の国のアリス」及び「鏡の国のアリス」でも感じたことだが、ルイス・キャロルは人が人を裁くという行いに対して大変ユーモラスな興味を持っているらしい。彼のその微笑みに、僕の口もまた歪んでしまうのを禁じ得ない。
「ソングライン」
「ソングライン」については個別で感想を書いている。チャトウィンの魅せてくれたあの地平線への憧憬は、ひと月経っても僕の胸から消えてはいない。まだまだ知らない世界がある。歩みを止めず、出会い続け、学び続けなければならない。
「ふがいない僕は空を見た」
日本の小説を読んだのは随分久しぶりだった気もするが、十分期待に応えてくれた。
人妻とコスプレして不倫する高校生に端を発する5つの連作小説集。僕のお気に入りは「セイタカアワダチソウの空」。リズムも余韻も素晴らしかった。
純粋な人間などどこにもいない。誰もが酷く汚れている。けれど、その濁った目に映す、儚くも穏やかな未来の光を奪い去ることは、汚れた手では叶えられない大望だろう。
「掃除婦のための手引き書」
「楽園の夕べ」の発売に伴い久々に再読。やはりルシア・ベルリンの視点は僕らと非常に近いことを再認識した。彼女の眼球は乾き、動かすのにも一苦労したことだろう。その目が宿した幾つもの景色に僕は今回も救い出される。
僕のお気に入りは「エンジェル・コインランドリー店」。この短編集のトップバッターにふさわしい素晴らしい小説。コインランドリーはある種の人々にとっては楽園となりうる。月が昇っていようとなかろうと、帰る場所があろうとなかろうと、踏み締める大地が島であろうと大陸であろうと。
「萩原朔太郎詩集」
日本人の詩集は昔から頭に入らない。これを読んだのも何度目かわからぬほどに。
音楽は好きだ。洋楽だけでなく邦楽も。僕は歌詞カードを舐め回すように読むタイプ。けれど日本の詩人の言葉はとんと心に馴染まない。結局、2024年の僕にも朔太郎はわからずじまい。来年以降に再度期待。
「ぼくだけはブルー」
僕はドレスコーズも毛皮のマリーズも大好きだ。曲に触れるたび強烈なシンパシーを常に感じる。けれど、リアルタイムで毛皮のマリーズを追っていたわけではない。当時のファンから話を聞いて曲の理解を拙く深めたりもしていたが、やはり、本人の自伝となるとものが違う。生臭くて、あたたかだ。音楽を聴けばわかることで、わざわざ言及するのも馬鹿馬鹿しいが、それでも言葉にしたくなってしまうほど、まさに、毛皮のマリーズは青春だったのだろう。あとがきに書かれた、”他人といると、別の型の血液を流し込まれているような感覚”というのに一番強い共感を抱いた。僕に友達がいない理由を教えてもらったような気がする。
時間ができて気が向けば、いずれ個別で書くかもしれない。「スナーク狩り」や「ふがいない僕は空を見た」については、もう少し話したいような気もしているから。
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