【読書】How to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing by Paul J. Silvia
あらすじ
1. スケジュール(ルーティン)に組み込む
著者は、連休や夏休みにまとめて書くのではなく、平日の一定時間を「執筆の時間」としてスケジュールに組み込み、毎日少しずつ書くこと、つまり執筆のルーティン化を推奨している。
例えば、「月曜日から金曜日の朝8〜10時は執筆の時間」として、あらかじめスケジュールに入れ、毎日淡々とその時間は執筆をするということである。
このとき、よくある言い訳として、「書く前には、読む必要がある」というものがある。論文を書く際には、先行研究を読み文献を引用しながら書く必要がある。また、その先行研究に、議論を要する箇所があり、スルーしていいのか、追究すべきか、指導教官の指示を仰がねばならない場合もある。
著者の方針は、「執筆に真に必要な作業は、執筆時間に含めるべし」である。つまり、書くために必要な文献を読んでいる時間、書くために必要な議論を指導教官としている時間は、ペンを動かしたりキーボードをタイプしていなくても「執筆の時間」として含めていいというものである。
一方で、本当は必要ない時間を執筆時間に含め、本当の「書くという仕事」を先延ばしにすることは推奨されない。本当は必要ないのに先延ばしにする行為とは、例えば道具(適切なペンや、最新のソフトウェア)がないから、まずは道具の調達からだ、というような状況である。紙、ペン、コンピュータ、ソフトウェアはなんでもいいので、まずはルーティン化して書き進めることである。
2. 記録をつける
著者は、1日単位で何ワード書くかという目標を設定し、実際にその日何ワード書いたかを毎日記録をつける(トラッキングする)ことを推奨している。著者は例として、1日 200wordsを目安としているが、これはルーティンとし執筆に費やせる時間が30分の人もいれば、3時間の人もいることを考えると、あくまで自分ができる目標を設定するのがいいだろう。
1日 200wordsというのは、大変キリがよく、現実的な目標であるように思う。理想的な1パラグラフは100-200 wordsとされているところ、200 wordsは、長めの1パラグラフ、もしくは短めの2パラグラフとして、ちょうどいい区切りである。また、土日祝日以外の1年約250日×200 wordsで50,000 wordsになり、分野や機関によって基準は違えど、概ねPhD Thesis(博士論文)の本体として妥当な分量になる。
著者は、その日一日の執筆量(アウトプット)を、後で見返せる形で記録することを推奨している。これにより、自分の成果や成長を可視化できるし、逆にどの部分で書くのに苦労したのか(ひょっとしたら自分がよく理解していない、整理できていない部分かもしれない)も後で見返せる。
例:
11/4(月) 205 words
11/5(火) 311 words
11/6(水) 250 words
11/7(木) 188 words (Aをサポートする良い文献が見つからない)
11/8(金) 169 words (↑候補を見つけたが、使えるか要議論、来週教授に相談)
3. 健全なピアプレッシャーを活用する
Writing Groupを作り、互いに健全に監視し合うことで、ピアプレッシャーを利用して毎日、毎週のノルマをこなすことも推奨されている。日本では「同調圧力」と訳され、ネガティブな印象を持たれるピアプレッシャーだが、悪いことばかりではなく、自分を高めるために利用する術もある。名門進学校で授業の内容自体は他の学校と大して変わらないにも関わらず、特別に東大など難関大学への合格率が高くなるのは、その環境に身を置くことによる同調圧力(ピアプレッシャー)の影響も大きいだろう。
Writing Groupを組織する際に重要なことは、ヒエラルキー型組織ではなく、あくまで対等同士のグループにするということだ。筆者の意図するWriting Groupは、執筆のペースと習慣を維持するための組織であり、中身や文体そのものを批判的に検討し合うグループではないという点に注意が必要だ。もちろん、実際に論文や書籍をパブリッシュすることになれば、中身や文体をクリティカルに検討することは重要だが、それは指導教官やレビューアーの仕事であり、まず、執筆のペースを作るグループでは、批判し合う必要はない。