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雪柳 あうこ
2023年11月26日 11:27
詩と暮らすことにしたのは、数年前の春からです。その春、わたしは陽気に当てられぐったりとしていました。そんな時、窓からふと、ひとひらの詩が飛び込んできたのでした。ひらひら、ひら、り。窓の内側に吹き込んできた詩を、手のひらに収めました。薄桃色の詩は、見た目の美しさとは裏腹に、少し乾いていました。わたしは硝子の容器に水を張り、詩を浮かべてみたのでした。すると、詩は楽しそうにくるくると硝子の中で回りま
2023年7月12日 19:34
都会の真ん中で放たれる蛍の群れを誘われて、見たことがあるビルの屋上に広がる庭園で (いつのことやら、夢のようだけれども)人の都合で育てられ人の都合で死んでいく蛍たちが黄色い求愛を披露するあえかな光の、たしかなアイデンティティ闇に眩しく輝くネオンほど美しいとは思えないけれど交尾を全うするためだけに尾を引く光はきれいだったほ、ほ、ほーたるこい朝になればただの虫と間違
2023年1月15日 00:30
前略本日は名も知らぬあなたにお手紙差し上げる次第ですあの日、雪の街角のブロック塀の先のところに傘も持たずに佇んで車に轢かれた猫の消えゆく温もりを眺めていてくれた、あなたへ死と同じくらいまで冷えながら猫の最期の吐息とくたり、とした尻尾の一振りが薄く積もった雪にすぐ消える跡を残すのを涙目で受け止めていた、あなたへわたしはその傍を、さくさく、さくさくとただただ転ばぬよう
2022年7月9日 10:09
夜中に手紙を書くときは、いつだって最後に追伸、と書きつけてしまう言い残したことがあるのです忘れていたことがあるのです書きたくても書けなかった真実を最後に、少しばかり追伸、あの仕事は片づけておきましたあの件はなかなか終わりませんあの子は相変わらず元気ですよあの日のことは忘れてください追伸、あいしていましたあいのようなものでしたあいしていますあいのようなものだと
2022年2月6日 23:02
神様が留守にすると秋は、素知らぬ顔でその不在を誤魔化そうとする金木犀を心地よく香らせ、萩の小さな唇を色づかせ、月に綺麗な化粧を施すので秋風の手を取れば目眩ばかり神様がさぁ、留守なんだってさ (ちゃんとお留守番できる?)あの日、棚の中からくすねたわたしという名の小さなドロップス愛を与え 罰を与えるため神様は作られたけれどこの世界に記録され続けるわたしたちは
2022年5月8日 14:30
あれはヤツデ? ──いいや、あれは無花果。しばらくすると、美味しい実がなるよ。その日からわたしは、来る日も来る日も無花果の葉の下で、もたらされる実りを待った。青空はくらくらする。陽炎のような誰かと遊んでさみしいよりも、空を切り取る緑の手と戯れる方が愉しい。葉をすり抜ける陽射しが肌を焼いて、体育座りの腿の内にまで汗を浮かべさせる。登校日は忘れたことにした。青空はまだくらくらする。よく何年も、そ