亜紗村咲嬉

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たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~9

エピソード9 Heaven Sent 【エピソード8からの続き】 「僕が調べた範囲では、鏝絵が全国版のメディアに初めて載ったのは、1982年に発売された雑誌『銀花 第四十九号』だ。大分の写真家・藤田洋三さんが、撮り続けていた写真を東京の編集部に持ち込んだことで特集が決まった。藤田さんは1970年代から鏝絵の価値に気がつき、安心院などの鏝絵を撮影していた人。藤田さんは撮影するだけでなく、鏝絵を保存するための活動も行って、鏝絵の価値を伝えようとし続けていた」 鏝絵は1982

    • たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~8

      エピソード8 Bitter Tears 【エピソード7からの続き】 「目の前のこの蔵はどういう方の作品なんですか?」 「河上伊吉という人なんだけど、元々は行商人で、吉澤仁太郎に見込まれて佐官職人になり、これを作るために富山県の竹内組で修行をしたそうだ」 これを造るために佐官職人になった? しかも富山? 調べたら長岡からは200キロとか離れているのに、交通手段が未発達な時代にそこまで行く理由ってなに? 「なぜわざわざ富山へ行ったんですか?」 「富山の竹内組に竹内源蔵とい

      • たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~7

        エピソード7 Shine Like It Does 【エピソード6からの続き】 「サフラン酒? サフラン酒って聞いたことないです。なんですか?」 「サフラン酒は明治時代から昭和にかけてよく売れた薬用酒。養命酒は知ってる? そのライバル商品だったんだ。サフラン酒とその後に出した『銃印葡萄酒』で大いに儲けた吉澤仁太郎という経営者がいてね。彼は僕らのような建築好きにはありがたいことに、“普請道楽”に走ってくれた。そのおかげでできたのが、この立派な主屋や鏝絵蔵、衣装蔵、庭だよ。主

        • たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~6

          エピソード6 New? Sensation 【新潟県長岡市 旅のリポート】 私はいま、新潟県長岡市のJR長岡駅前に来ています。 初めて降りた駅、初めて来た土地です。 きっかけはいつもの下北沢の喫茶店で、丹波先輩に「来週、燕三条に背脂ラーメンを食べに行くんですよ」と話したことでした。 先輩は少し考えて、 「そっか、燕三条か。じゃあ食べ終わったら長岡駅まで来て」 と抑揚のない口調でサラリと言い、私は一瞬驚いたものの、行ったら面白そうなもの見れそうだし、ラーメンの後は町歩き

        たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~9

          たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~5

          エピソード5 They Built This City on ……. 丹波先輩の話を聞いて、美しい大阪市中央公会堂は、建設のために多額の寄付をした岩本栄之助さんが建設中に自ら命を絶つという、悲劇的なストーリーをはらんでいたことを初めて知った。また日本の経済界の最重要人物、渋沢栄一さんが絡んでいたことも。 しかしわからないのが、なぜ栄之助さんが追い込まれることになったかだ。 「絶好調で、数十億も寄付したような人が、なぜ自ら人生を断つことになるんですか?」 丹波先輩は「うん

          たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~5

          たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~4

          エピソード4 岩本栄之助がいなければ野村證券はなかった?野村財閥創始者「北浜ただ一人の親友」 辰野金吾が設計に関わったことでも有名な大阪市中央公会堂。美しい、私が大好きな建築のひとつだ。ただ、建設のために巨額の寄付をした相場師の岩本栄之助さんが、完成を見ることなく自ら人生に幕を引いていたことをついさっき知り、驚きのあまり目と口を大きく開いたまましばらくフリーズしていた。 「丹波先輩、この建築を後世に残した栄之助さんのこと、もっと教えてください」 ようやく言葉を振り絞ると

          たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~4

          たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~3 #創作大賞2024 #漫画原作部門

          エピソード3 Behind The Mask 1970〜80年代の洋楽ばかりかかる、下北沢のいつもの喫茶店。もう2時間ぐらいいるかな。入り口が開く音がしたので顔を上げたら、丹波先輩が入ってきた。 「来た来た!私、持ってる!」 先輩に聞こえないように小声でつぶやいて、机の下で小さくガッツポーズを取る私。 実は、ちょっとばかり追い込まれていたのだ。 たびけん部では年に数回、“たびけん(旅&見学)”する候補地を出し、全員で議論しながら行き先を決めている。これがナアナアな会合では

          たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~3 #創作大賞2024 #漫画原作部門

          たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~2 #創作大賞2024 #漫画原作部門

          エピソード2 You'll Never Walk Alone 丹波健三先輩を初めて見かけたのは、京都のとある一角だった。 大正〜昭和初期の特殊な建築がいまも残りながら、観光地としては認識されていないその場所で、建物を観察しながら、カメラを手に一人でゆっくり歩く人がいた。背が高いなぁ、きれいに整った顔立ちで、頭の良さそうな人だなぁというのが第一印象。その翌日もそこですれ違った。この一角に2日続けてわざわざ来る人はいないから、強く印象に残っていた。 2度目に見かけたのは下北

          たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~2 #創作大賞2024 #漫画原作部門

          たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~1 #創作大賞2024 #漫画原作部門

          あらすじ いつも「素敵だなぁ」と見ていた憧れの建築が、ある日取り壊されてしまった。いつか見に行きたいと思っていた建築も、気が付いたら解体済みだった。調べたら設計したのは有名な建築家だったり、地域の歴史を象徴したものだったり。紀子は高校時代から貴重な建築を活用できないか、残すにはどうしたらいいかを考えていた。同級生からある大学に建築の記録と保存・活用に取り組むサークル「たびけん部」なるものが存在すると聞き、その大学に進学してすぐに入会する。 これは紀子の視線から語られる建築好

          たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~1 #創作大賞2024 #漫画原作部門