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たびけん ~ 日本の素敵な建築を知りたい/守りたい人たちの旅の記録 ~6

エピソード6 New? Sensation

【新潟県長岡市 旅のリポート】

私はいま、新潟県長岡市のJR長岡駅前に来ています。
初めて降りた駅、初めて来た土地です。

きっかけはいつもの下北沢の喫茶店で、丹波先輩に「来週、燕三条に背脂ラーメンを食べに行くんですよ」と話したことでした。

先輩は少し考えて、
「そっか、燕三条か。じゃあ食べ終わったら長岡駅まで来て」
と抑揚のない口調でサラリと言い、私は一瞬驚いたものの、行ったら面白そうなもの見れそうだし、ラーメンの後は町歩きでもして、良さそうな食器を探そうかな、ぐらいしか考えてなかったので、「了解ですー」と即答したのでした。

燕の背油ラーメン

しかし、なぜ長岡なのかは教えてくれなかったのです。
早めに駅前に着いたので「長岡城本丸跡」の碑や、大きな「正三尺玉・二尺玉打揚筒」のモニュメントを見ながらここに呼ばれた理由を考えているのですが、全く見当がつきません。

新潟といえば前川國男さんの出身地。長岡にも作品は残っているのかな、と検索したら、山田五郎さんが新潟の前川建築を訪ねて紹介するサイトが出てきました。山田さんが訪れていた長岡市北部体育館、かっこいいー。
さらに検索すると、伊東豊雄さんや隈研吾さんの作品も出てきました。ただ、先日の会話にこうしたお名前は出てこなかったので、長岡に呼ばれた理由がますますわかりません。

喫茶店でのやりとりの中にヒントがあるはず。ちょっと振り返ってみます。

あの日の店内では1970〜80年代のオーストラリア系アーティストの曲ばかりかかっていました。
私も大好きなINXSやメン・アット・ワーク、リック・スプリングフィールド、ユーロビートのヒット曲を連発したカイリー・ミノーグ、本当はイギリス生まれのビージーズにオリビア・ニュートン=ジョン、実はオーストラリア生まれメンバーは少ないAC / DCなんかが次々と流れ、カウンターで聴きながら、やっぱりこの時代の音楽って最高だな〜と思っていたら、丹波先輩が入ってきたのでした。

つい先日、新入生を連れて行く候補地の選考会が終わったので、その報告をしようと思っていた矢先のことでした。いつ会えるかなーと考えていたら目の前に現れてくれたのです。

丹波先輩は私の顔を見るなり
「大阪には行った?」
と軽く質問を投げてきました。
私は
「もちろん行って、中央公会堂地下の展示室もしっかり見てきました」
と胸を張って答えました。

そうそう、大阪市中央公会堂の特別室にも入れる有料見学会に参加したので、そのうちここでその様子をリポートするかもしれません。

話を戻します。地下の展示室に行ったおかげで、選考会ではうまく説明できたこと、厳しい槇&磯崎先輩の審査を無事にクリアして大阪市中央公会堂が候補に入ったこと、さらにはあの2人が褒めてくれたことなどを、胸を張ったまま自慢げに言ったのです。

丹波先輩に伝えるべきことは伝えたので、コーヒーに手を伸ばします。
ひと口飲んでカップを下ろしたタイミングで、先輩から次の質問がきました。

「選考会で、槇さんと磯崎さんはどこをあげてたの?」

まずい質問が来ました。緊張していた上に、2人の説明に出てきたのが初めて聞いた名前や言葉だったので、うろ覚えなんです…。ぼんやりとしか覚えてない…。背中にイヤな汗が流れます。

「えっと、槇さんは長崎などにキリスト教の教会をたくさん作った、明治時代生まれのスーパー棟梁、鉄、鉄…、鉄山さん! 鉄山さんの教会を見に行こうと」
「鉄川ね。鉄川与助。スーパー棟梁か。確かにそうだ。磯崎さんは?」
「えーーーっと…。大分です。大分のアジカン? にソテー? コテー? を見に行く案を出してました」
「アジカンじゃなくてアジムだね。安心院と書く、難読地名で知られているところ。あと、コテーじゃなく鏝絵だよ。佐官職人が鏝(こて)を駆使して作るレリーフのこと。ちゃんと聞いてなかった?」
「2人の後が私の発表だったもので、緊張して…」

先輩は「それじゃあしょうがないか」と意外に優しい反応をしながら、体を背もたれに預けました。

ここまでに出てきた地名は、大阪と長崎と大分。西日本ばかりです。長岡とは関係ありません。

その後、マスターが丹波先輩に「六本木のあの店、昭和からやってた店長が高齢で引退して、若いスタッフに入れ替わっていたよ。お勘定も後払いから券売機で前払いに変わった。味はほぼそのままだったね」と2人が溺愛するラーメン店の話を始め、その流れで私が「来週、燕三条に背脂ラーメンを食べに行くんですよ」と話したら、「食べ終わったら長岡駅まで来て」ということになったんでした。

六本木のあの店のラーメン

謎です。この話の流れで、なぜ長岡が出てくるのでしょうか?

「むむー」と、腕を組んで右手にアゴを置くポーズで考えていたら、丹波先輩が登場しました。

「考えごとしてた?」

ひとこと目がこれ。見事に見破られました。

「なぜわかったんですか?」
「ロダンの『考える人』立ちバージョンみたいなポーズをしていたから」
「え!?気がついてませんでした」

自分の行動のわかりやすさに、我ながら軽いショックを受けます。でも、直す必要もないし、別にいいか。

車に乗り、移動します。長岡駅から10分と少し。市営駐車場に車を入れて歩くと、右前方に石垣が見えてきました。木の隙間からは白い蔵のようなものがのぞいてます。

「着いた。今日の目的地はここ」

目の前には、木造の古い大きな建物と白壁の蔵。

看板の文字は右から読むっぽい。大正とか昭和初期の建物でしょうか。

「サフラン酒? サフラン酒って聞いたことないです。なんですか?」

【続く】

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亜紗村咲嬉
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