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メディア・企業・広報 サステナブル狂想曲 VOL.3 企業編

ある企業の役員に、取材にいらっしゃる記者情報をブリーフィングしている時、その記者が女性かつ入社年から30代の記者と推測し言われた言葉があります。

「え、おねえちゃんが来るの?」

この役員は、男性かつ40代後半以降の記者を優遇される方でした。クライアントの偉い人との議論を避けるため、その理由を深く尋ねたことはありませんが、女性と仕事で対等に話をするのが苦手なのは経験上わかっていました。

前回のメディア編でも書いた通り、全ての人がSDGsやESGの考え方に心底賛成しているわけではありません。

ビジネス環境や考え方、優先順位が変わったことで、これまで作り上げてきた自分の価値観と歪みが生じ、自分の中で葛藤している人たちが存在します。企業編では、この持続可能な社会を作るために、どういった課題があるのでしょうか?


1. 新しい課題への対応力

ここ数年、ビジネスにおいて取り入れなければ、企業の生き残りに影響するような新しい、重要な課題がいくつかあります。例えばDX、テレワーク、副業、男性の育児休暇。持続可能な社会を作る取り組みもまた、新しい課題の一つです。

日本は雇用の流動性に対してバリアがあり、外部から人材を採用して、いきなり経営の中心で戦略の旗振りをするような立場に置くことはあまりありません。海外の企業の場合は外部から人を連れてきて経営陣に配置することも普通のことなので、それが大きな違いの一つでもあり、日本のESG対応や意識が遅れる原因にもなります。

また、日本国内の会社では、生産部門/非生産部門(コストセンター)などと言われることもありますが、これはお金を生み出す人(営業、製造)がお金を生み出さない人(人事や総務、経理、広報など)より上の立場に位置付けられることが多く、その点でESGの専門家を経営の中心にも配置する、というのはこの構造から取り崩さないといけないように思います。

2.人材難

コンサルティングファームなど外部のリソースと連携しながら課題解決へ進める方法や、ジョブローテーションで他の部門の社員を配置換えするケースも多く見られます。

そのような状況下で、ESG関連の取材を組む時に、内容を一番よくわかっているという理由で、社長などの役員クラス、広報やPRではない方、例えばCSRの担当者などが取材対象なることがあります。

この分野の限られた、希少な記者を誘致できるのは、正直なところ日本の経済に大きな影響力を持つ大企業が取材対象になることが多いのですが、適切なスポークスパーソンがおらず、また専門家からのメディアトレーニングも受けておらず、もろもろの理由で初めての取材であることも多いのです。

話すことは、誰でも出来ると考えている人が多くいますが、話した内容を正しく伝えること、適切なコミュニケーションができることは必ずしも誰でもできるわけでなく、このような場合、多くは記事にならずに記者への情報のインプットで終わります。

取り上げてもらいたいという熱意や、取り上げてもらわなければならないというプレッシャーを強く持っているにもかかわらず、それに値する情報を提供するには準備が足りていないことが、私が感じる問題点です。

3.収益性とESGの両立

売上の数字は、役職が高くなるほど責任はのしかかり、また量的にわかりやすいことから社長職の通信簿のように扱われることさえあります。

ESGは長期的な持続可能性を重視する要素であり、企業の社会的責任や環境への影響を考慮します。しかし、一方で多くの企業は短期的な収益や株主の要求に対応してきた歴史があります。

例えば、環境に優しい新しい技術や設備の導入には初期投資が必要で、これに対して、収益性がすぐに上がらない場合があり、収益性とESGの取り組みを両立させることは投資の課題を生じさせることがあります。

ESGのコンセプトとしては、課題にしっかりと対応している企業ということがわかれば、それを評価する株主もいるのですが、収益を下げることは経営者なら避けたいと思うのは自然なことでしょう。ESGに対するネガティブなバイアスが、ESG経営の足かせになっているケースも多いようです。

ただ企業のこのような悩み、課題について解決の光も見えてきています。それは、収益性とESGの両立ができている企業がさまざまな産業で増えてきているからです。

真新しい課題の解決方法を見つけるのは難しくても、すでに有効とされている解決方法を自社向けにカスタマイズできる段階になれば、ESGに対する企業の姿勢も変わると考えています。

4.「サステナビリティ」への理解

専門的ゆえに特定の人だけが関わっていることが多いように見受けられます。また、冒頭で挙げたように、経営陣が必ずしも持続可能な社会を作ることに心底賛成という訳ではないケースもあります。

中小企業でも、ある一定の基準を満たさなければ、今後一切の取引しないと他の企業から言われるケースも出てきているようので、自社が行っている取り組みを、多くの社員が説明できるようにすることは不可欠になるでしょう。しかしまだ、社内教育をうまく行き届けられている企業は、ほんの一握りのように思います。

また、メディア編でも書いた通り、パンデミックによってメディアで取り上げられる機会は一気に増えました。生きることを真剣に見つめ直した人、持続可能な社会を作るためにどうしたら良いのか、考え始めた人も多くいます。しかし、興味がない人がいるのも事実で、このパンデミックは情報格差を大きくする原因にもなりました。

出社しないで在宅ワークをメインにすることになり、会社が購読していた新聞を読めず、話をする同僚、友人、知人も限られ、Yahoo!ニュースなどのポータルサイトに上がってくるニュースは自分が興味を持った分野がお勧めされ、自分で情報を取りに行くタイプでない限り、入手する情報の範囲が狭まり、興味がないことは興味がないままなのです。

社員から真の共感を得られないESG経営は、どこかでフェイク感が漂っているように感じられます。

5.企業編のまとめ

それではまとめていきます。

  1. サステナビリティ、ESG、SDGsの広告が一気に増えた2019〜2020年、自社の活動もメディアに取り上げてほしいという依頼が増えた

  2. それでも世間からの認知度は低く、2022年度の調査でもESGを知っている人は約40%にすぎない

  3. メディア側でも専門家は少ないが、企業側も同様に少ない。その上に、取材や講演などで話ができる人が育成されていないケースも多い

  4. ESGやサステナビリティの専門家を、経営陣として迎える日本企業は少なく、専門的な一部門と位置付けられるケースが多い。企業内にこのヒエラルキーが存在し、経営への進言が難しい立場にいると、よりサステナビリティ推進を遅らせる原因にもなる

  5. 取引先を持つ職務や、一般消費者と接する販売業などは、社員教育推進が不可欠である

  6. 経営者を含め、多くの人が必ずしも本音で持続可能な社会を望んでいる訳ではない

こんなところでしょうか。
次回は、広報、PRの立場の混乱について書いていきます。

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