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21世紀の生存報告

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2024年9月の記事一覧

【小説】「卵十個パック、ふたつ分の魂」

【小説】「卵十個パック、ふたつ分の魂」

タナカは「あー、カップヌードル食べようかな」と不必要にでかい声で発声し、「あー、ふたり分のお湯でもわかしてみようかな」とあたしのことをチラ見した。

「そんなんで機嫌なおすと思ってんのか、お前」って。

言いたくなるのをグッとこらえて口を結ぶと、鼻からため息だったものがもれた。あなたのしたことは、お湯を注ぐだけで許されるわけがないんですよ、おわかりでしょうか?と思いつつ、「勝手にしなよ」と短く応え

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蚊がいる

二日目のお休みは不安だ

目をつぶって
細く息を吐いてみたり
鼻から
息を抜いてみたり

するけど
おやつの
食べ過ぎで

寒いのに
冷房の温度をあげる気力すらわかない

救いは
金魚が二匹
水槽のなかで
泳いでいること

たまに猫が近くで
のびをして
膝に毛がふれること

恐ろしいときには
空気が汚れていて
鴉はいつもより多く
空を飛んでいる

9月は、あたたかい

空は、
海との境目を
さかさ

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黄色いスウェットで寝そべってる

黄色いスウェットで寝そべってる

今日は平井さんが出てくる夢だった。
JRの宇都宮線かなにかの列車で座っていると、小さな隙間にダイビングするように、黄色いスウェットの男性が座りこんでくる
よくよく見ると平井さんであった。
お互いに目を合わせ、僕は会えた喜びで「平井さん!」と声をあげてしまう。
平井さんは、「おう」と言いながら片手をあげて返事をする。僕と隣の乗客の膝の上の寝転がりながらで、堂々としていたが、どこかオドオドしたところが

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【小説】父を笑わせる その1

【小説】父を笑わせる その1

母が亡くなった。

案の定、父は泣き暮らしている。
なんなら泣くために、泣ける映画ばかり見ているんじゃないかって思う。
父が見る映画ではたいてい人が死に、病いに苦しみ、離別に戸惑う人たちが出てくる。父のえらいところは、そういう一大事のあとにも、仕事には行っているってことだ。
 ちなみに今日は、早起きした父が朝っぱらから『クレイマークレイマー』を見ていた。一人で観せてあげたい気がして、僕は部屋に戻る

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ハッピーバースデーハッピーバースデーハッピーバースデーハッピー

ハッピーバースデーハッピーバースデーハッピーバースデーハッピー

今日はいい1日だった。
たまたま見たドラマは、最近では珍しいくらいにハッピーエンドじゃなかったけれど、次女と図書館に行って、自分が読みたい本と家族が読みそうな本を借りて、お昼に作った帆立とエリンギのパスタは美味しくできて、ベースの教則本を読みながら昼寝をして。

起きたら、妻とミスドでお茶して、ふたりでココナツチョコレートとコーヒーとポン・デ・ストロベリーを分け合って食べて。

古本屋さんでは、お

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ポーとボー

ポーの黒猫を読んだ
ボーはおそれているを観て
三日後のことだった。

おそれているの主語は、自分にある
「行ってきます」に
「気をつけて行ってきてね」を返す自分と
遠くないところに

思い出せないが、何かずるいことをしたような
ずるいことをしたのに気づいたような夢だった。
そうだったのかと思う。
よく眠れて、窓を開けると涼しくて、音もいらない。

恐怖はある。自分の何かを失う恐怖の物語と
誰かの何

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◯◯

◯◯

ざらざらを舐めるのが
仕事なもんで

舐める

絨毯を
網戸を
次女の習字バッグを

◯◯ですか
いえ、私、もう出るところなんで

ええ、そうです
スイッチみたいなものです
時空が歪むんです

繊維の
奥にあるんです
土星の輪っかのその先の
入り口につながる小さな入り口が

光を
匂いを
音を
すーっと引き連れて

この場所から出ていきます
時間が
ここにあった時間が

そうして誕生日になります

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トイレの近くかどうか、気にしないわけないじゃないか

トイレの近くかどうか、気にしないわけないじゃないか

汚い夢だった。
中学の校舎の、技術室みたいだった。

奇妙なことに、トイレの入り口のすぐ近くに、6人は座れそうなデカい長方形のテーブルがあって、見たことのないひとたちと一緒に座っていた。それぞれの席には、型が揃っていないパソコンがある。

配線が汚い。

古い型のデスクトップ1台、妙に分厚いノートパソコンが4台が置かれている。座っているのは3人だけ。知っているひとはいない。古い型のデスクトップを使

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消失

もう卵を産みつけるのはやめてほしいのに
レモンの木の周りを飛んでいる

息切れした
犬のような夏は
お終いです

もう、秋なんです
育たなくていいイチジクが
のびのびになって
木の幹も
なんか太くなって

冷房の効いた部屋で
天津飯をたべてても
夏は終わるんです

当てずっぽうの言葉を
ちぎって投げたような夏が
秋の足首を引っ掴んで
井戸にひき摺り込もうとしています

何も始まらない
はずかしくな

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