新 松凡

書くのと読むのが好きです。小説を書いています。 楽しんでもらえるとうれしいです。

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【読書】「さかさま英雄伝」寺山修司

「誰か故郷を想はざる」(1968.10.20)によると、寺山修司は、1935年12月10日生まれらしい。俳句も短歌も演劇も評論も、名のある作品や仕事を残している。  例えば、上のは短歌の有名なやつ。短歌でもそうだったけれど、虚構性が指摘されていて、お母さんが働いてる時期に、亡き母について歌ったりしてる。  私は、寺山修司の文章は半信半疑で読むべきじゃないかなと思う。ちなみに半信半疑で読んでいてもおもしろい。かますタイプのホラ吹きおじさんの話を「出鱈目いってるなー」って思いな

    • 葱を刻む

      職場で葱を刻む夢を見た。 私の職場には、給湯室で、葱を刻んではいけないというルールはない。 ないんだけれど、誰もしない。 葱を刻むだけではなく、卵をといたり、ハムを切ったり、ごはんを炊いたりするひともいない。 急に視線を感じ、手を止めた。 遠くで私を見る人がいる。 私は、ある重要なことを思い出していた。私が刻んでいる葱は、使いかけだったはずだ。職場の冷蔵庫にあるものは、名前が書かれていない限り誰のものかわからない。 葱もそうだ。自分の葱なのかわからない。もしかしたら、今

      • 【読書】『源氏物語の時代』 山本淳子 著

        大河ドラマの良いところは、登場人物の死がネタバレにならないことだと思う。1000年も生きているひとはいないので、当たり前のように平安時代の歴史上の人物は死んでいるし、ドラマの中でもやっぱり死んでいく。 すこし前の、『光る君へ』では、一条天皇の崩御が描かれていた。 塩野瑛久さん演じる一条天皇は、佇まいや所作が美しくて、とてもよかった。抑制された演技が、一条天皇の抑えきれない気持ちの揺れうごくさまを丁寧に表現していたと思う。  私にとっての古典は、なんとなく憧れがあるけど、

        • 祖母と珍味

          祖母の夢を見た。 氷下魚をちぎって渡すと、祖母が皺くちゃの顔で笑う。小さな、公営住宅の玄関だった。目が覚めるまで、祖母が死んだことは忘れていた。 祖母は公営住宅に住んだことはない。 なぜ玄関なんだろうか。 でも、元気そうだった。

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        【読書】「さかさま英雄伝」寺山修司

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          7本
        • 21世紀の生存報告
          23本
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        • 3本

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          【小説】「父を笑わせる」 その6(最終話)

           北海道から帰ってきて、お土産のとうきびチョコを、どじょうすくいの先生に渡した日だった。どんど焼きの時にどじょうすくいをやるので、手伝ってくれないかと言われた。  正直、気が進まない。  「すみません。僕はまだ下手ですし」  「もちろん上手とも言えないけど、そこが良いと思うのよ。実は、フジワラさんも出てくださるの。どうかしら?」  「フジワラさん、僕はお会いしたことがなくて」  なるべく平坦に、感情がこもらないように気をつけて言う。  「そうよね。ちょっと待って写真あるから」

          【小説】「父を笑わせる」 その6(最終話)

          【小説】「父を笑わせる」その5

           十二月。一つ、父を悲しませる不幸があった。  北海道に住む叔父が亡くなった。  叔父は、母の弟で、ダンプカーの運転手だった。  冬は名古屋や三重のほうで、夏は北海道で砂利や土砂を運ぶ仕事をしていたのだけど、気に入った町を見つけてからは、北海道にある小さな町でレストランをしていた。父とは、同じ大学の同級生だ。  「おじさん、亡くなったらしい」と父から聞いたとき、僕が真っ先に思ったのは、お年玉のことだった。おじさんは、酔うと陽気に忘れっぽくなるひとで、正月の親戚の集まりでは

          【小説】「父を笑わせる」その5

          誰かに気づかないうちに祝福されてるみたいに

           今日はお誕生日で、二日酔いだった。  頭が、右の目の奥のもっと奥のところがガンガンする。頭痛に、お誕生日とか関係ないよね。  朝ごはんを食べながら、子どもがつけた『葬送のフリーレン』を観る。  奇跡的に、お誕生日の話だった。  たしかに誰かの祝福に気づかないことはある。  雪景色も静かで、二日酔いの誕生日に観るにはぴったりのお話だった。  買い物を終えて、家で子どもたちにしらすチャーハンを作る。  うまくできた。しかし親子ともども腹がいっぱいであった。今度は『呪術廻戦』

          誰かに気づかないうちに祝福されてるみたいに

          【小説】「父を笑わせる」その4

           ウツミが教えてくれたどじょうすくい教室のホームページには、素敵な笑顔で、写真に映るひとたちが並んでいた。全員、鼻の穴の部分を覆うように、黒いなにかをつけている。  なんとなく、見ていて安心する。  たぶん、こんなマヌケな恰好をして誰かに悪意を持つひとはいないんじゃないだろうか。すくなくとも悪意をもたれても、許してしまう気がする。ウツミに都合のいい曜日や時間を聞いたあと、教室に電話をかけてみることにした。  番号をタップしてかける。  電話のコールが鳴る。すぐには出ない。

          【小説】「父を笑わせる」その4

          【小説】「父を笑わせる」その3

           次の日の朝も、おむつ公園でウツミを待つことにした。  提案したいことがあるのだ。  ウツミは、僕を見つけるとだるそうに手を振り、公園を通り過ぎようとした。  「おはよう、ウツミ」  あわてて追いかける。  「おはよう、アサクラ」  「あれから、ちょっと考えてみたんだ」  「何を?」  「やっぱ『自然に任せる』っていうのはよくないんじゃないかな」  ウツミは鼻でため息をついて、眉を寄せた。  「何がだい、アサクラくん」  「昨日のウツミの話だよ。そのまんま鼻毛で例えると、も

          【小説】「父を笑わせる」その3

          薬としてのデイリーヤマザキ「豆いっぱいよもぎ大福」

           「やらない」ことは多い。 一昨日の夢もそうで、殺し屋教室に向かうために急いでいたところで、自分の格好が気になってしまい、引き返すというものであった。  私はレオタード姿であった。  殺し屋教室がどんな場所なのかわからないが、光沢のある黄色いタイツの腰に青いスカーフを巻いた格好で行くのはどうなのか。襟もフレディマーキュリーがステージで着てそうなタンクトップよりだいぶ深めのU字で、なんならTシャツっぽいというより肌着っぽく、肌着っぽいというよりもレスリングの昔のユニフォーム

          薬としてのデイリーヤマザキ「豆いっぱいよもぎ大福」

          【小説】『父を笑わせる』その2

           お店に着くと、店長が海を作っていた。  この音は、波だろうか。砂浜の浅瀬の部分で水が揺れる音がする。  「昨日、録音してきたの。千葉の海で」  小さな箱庭に砂を敷き詰めながら、店長が言った。  「なんか、海にいる気がします」  その日は、店長と二人でそのまま波の音を聴きながら、仕込みをした。  今日のお店は、いつも通り忙しかった。  店長によると、忙しさには段階があり、  「忙しい」と、  「クッソ忙しい」と、  「死ねます」の三段階に分かれている。  今日の忙しさは、「忙

          【小説】『父を笑わせる』その2

          【小説】父を笑わせる その1

          母が亡くなった。 案の定、父は泣き暮らしている。 なんなら泣くために、泣ける映画ばかり見ているんじゃないかって思う。 父が見る映画ではたいてい人が死に、病いに苦しみ、離別に戸惑う人たちが出てくる。父のえらいところは、そういう一大事のあとにも、仕事には行っているってことだ。  ちなみに今日は、早起きした父が朝っぱらから『クレイマークレイマー』を見ていた。一人で観せてあげたい気がして、僕は部屋に戻る。 エンドロールが流れる頃合いでまた、リビングに戻ればいい。 そう思って、机に向

          【小説】父を笑わせる その1

          ハッピーバースデーハッピーバースデーハッピーバースデーハッピー

          今日はいい1日だった。 たまたま見たドラマは、最近では珍しいくらいにハッピーエンドじゃなかったけれど、次女と図書館に行って、自分が読みたい本と家族が読みそうな本を借りて、お昼に作った帆立とエリンギのパスタは美味しくできて、ベースの教則本を読みながら昼寝をして。 起きたら、妻とミスドでお茶して、ふたりでココナツチョコレートとコーヒーとポン・デ・ストロベリーを分け合って食べて。 古本屋さんでは、お互いにほしい本を見つけて、きれいな包装紙に包んでもらえて、冷房が効きすぎて寒いス

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          【小説】「卵十個パック、ふたつ分の魂」

          タナカは「あー、カップヌードル食べようかな」と不必要にでかい声で発声し、「あー、ふたり分のお湯でもわかしてみようかな」とあたしのことをチラ見した。 「そんなんで機嫌なおすと思ってんのか、お前」って。 言いたくなるのをグッとこらえて口を結ぶと、鼻からため息だったものがもれた。あなたのしたことは、お湯を注ぐだけで許されるわけがないんですよ、おわかりでしょうか?と思いつつ、「勝手にしなよ」と短く応える。タナカは憎たらしい相手にしてはかわいい顔でニコニコしていた。顔はいいんだけど

          【小説】「卵十個パック、ふたつ分の魂」

          【詩】パレード

          ふれあわす手の甲に きみがいない夜に 草臥れた僕らはパレードをする 瞬きもできない ニッキーマウスが くるくると廻る 金がない僕らのための 偽者だとばれないように 新聞は教えてくれる きみがいた場所を 紙の、こすれる音で 靴下は教えてくれる 脱ぎ棄てられた時間を くるくると丸まったままで 僕が隷属してゆくのは 言葉ではなく 身体のせいではないか ブルーライト製の文字が パケットで切り刻まれて 盤面に降り積もっていく きみの正義の 受益者になれないまま 土に帰って

          【詩】パレード

          ポーとボー

          ポーの黒猫を読んだ ボーはおそれているを観て 三日後のことだった。 おそれているの主語は、自分にある 「行ってきます」に 「気をつけて行ってきてね」を返す自分と 遠くないところに 思い出せないが、何かずるいことをしたような ずるいことをしたのに気づいたような夢だった。 そうだったのかと思う。 よく眠れて、窓を開けると涼しくて、音もいらない。 恐怖はある。自分の何かを失う恐怖の物語と 誰かの何かを失う恐怖の物語に見えて、そうではないのではと思う。 自分と他人に不可分なと

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