マガジンのカバー画像

初期のサーカ・A

20
「密造酒作りの中には、やたらと良い酒を作る奴がいる。しっかりと隠したいのなら、ここには隠す場所が山ほどある」ボブ・ディラン
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
オン・ザ・ロード・アゲイン

オン・ザ・ロード・アゲイン

バッテリーの切れた車が
真夜中の街に横たわっている。
昔は唸り声をあげたエンジンも、今じゃ
車泥棒ですら素通りしてゆく。
ところで、駅前の雑踏が
私の眠りを妨げたから、
私は耳をふさいで、
羊を数えながら横たわったのだ。
すると駅員がやって来て、
(彼らには想像力の欠片もないのだが)
すべての段ボールを破り捨て、
私を駅から締め出した、
始発電車とともに、
もう一度道の上に。

手も震え、煙草を落

もっとみる
ピーター・パーカーとブルース・ウェイン

ピーター・パーカーとブルース・ウェイン

ピーター・パーカーとブルース・ウェイン、
2人は悪党を鎖に繋ぐ。
アメリカの敵がすべて死ぬまで、
彼らは空を飛び続ける。
東に囚われた人たちがいれば、
駆けつけて、彼らを解放する。
正義には多少の痛みが伴うものだ、
ピーター・パーカーとブルース・ウェイン。

ピーター・パーカーの夢は科学者、
その拳でノーヘル賞を狙っている。
ブルース・ウェインは上流者階級の出身で、
目にしたものは何でも手に入れた

もっとみる
マイ・ドッグ

マイ・ドッグ

1
誰か、私の犬を見なかったか?
丸太のように大きく、立派な私の犬を?

その犬は力強い脚があって、
通りをマッスルカーのように駆け抜けた。
その鼻は常に真実を嗅ぎ分け、
嘘に噛みつき、憂いにも挑みかかった。
顔つきは穏やかで、無垢な心を持っていたが、
ある晩何者かが音もたてず、連れ去ったのだ。

それで彼らは、
蹴って、
殴って、
私の犬をどつき回したのだ。

2
誰か、私の犬の吠えるのを聞かな

もっとみる
胸が痛い(グッドモーニン・ハートエイク)

胸が痛い(グッドモーニン・ハートエイク)

目をつぶり、すべてをやり過ごす病い。
自分の力で、前に進もうとしない病い。
「さよなら」と言うのは簡単なこと、
床に卵をただ落とすくらいに。

暴力で解決しようとする病い。
傷で確かめ合おうとする病い。
沈黙でしか喋れない患者たち、
そして愛という謎に満ちた薬。

「私には選択の自由がない」という病い。
「私を怠け者と罵る人がいる」という病い。
君の声を聞くたび、胸が痛くなる。
僕は許してしまうん

もっとみる
土曜の夜に

土曜の夜に

土曜の夜に少年たちはどこへ行くのか。
トムがジェリーを見つけ、ケンカを売る。
ロボコップが散文を、ジェダイが詩を書き、
ジャニス・ジョプリンは宝石を鳴らし、
子守唄を歌うーー
土曜の夜に。

土曜の夜に少年たちは何を騒ぐのか。
カフェやバーは隠れる場所がいっぱい。
少女たちはみんな知っている、
隠したって、ピノキオの鼻は
嘘で伸びることをーー
土曜の夜に。

シンデレラが0時の汽車を待っていると、

もっとみる
2月

2月

ショーウィンドウ越しの彼女に見とれていたら、
私は親方に頭をこづかれた、
すると突然、空っ風が吹いてきたっけ。
彼女も笑顔でこちらを見ていた、
もしくは大きなアップルパイだったのかな、
とにかく、2月にラブソングも悪くない。

親方は私に「もうクビだ」と言った、
というのも、私は針金のように細く、
すぐに鍵穴を抜け出してしまうから。
店主は物凄いデブで、
私をドアマットくらい踏みつけた、
奴は錆び

もっとみる
ビー・マイ・ベイビー

ビー・マイ・ベイビー

1
私の恋人になっておくれ、
私の特別な人に。
私の恋人になっておくれ、
私の特別な人に。
私とするお喋りや喧嘩は、
君にとって楽しいものになるよ。

太った男は来るのが早く、
痩せた男は遅すぎた。
従順な男は立ち去り、
頑固な男は待ちぼうけ。
君の正体は陽気なマシュマロか、
それとも内気なチョコレートか。

教師がやってきて、
詩人のボートに荷を積むと、
インチキなフレーズで、
彼のノートはいっ

もっとみる
国道16号線の思い出に

国道16号線の思い出に

彼女の青いジープが
よそ見しながら交差点に入ってくる。
絵の具の町まで歩く子供たちは、
綿菓子の脳みそを買いに行く。
デニーズで居眠りの老人が、
アホウドリの夢にうなされている間に、
彼女はハンドルを切り損ね、
野宿の詩人とぶつかったのだ。

足を痛めたランナーが、
静まり返ったゴールに帰ってきた。
ゴールに観客は一人もいない。
日没だけがゆっくりと深まっていく。
彼がボロボロの靴を脱ぎ、
満足し

もっとみる
ペーソス

ペーソス

彼らは君が失敗すると拍手する。
彼らは君を偽物だと言って拍手する。
彼らは君が独りぼっちになると拍手し、
君が石につまずくたびに拍手する。

彼らは君が話し始めると拍手し、
君の歩き方を見ては拍手する。
君がスプーンを落とすと拍手し、
君の風船が割られると拍手する。

彼らは君が道に迷うと拍手し、
君を幽霊だと言って拍手する。
君の庭が荒らされると拍手し、
「もう一度言って」と言って拍手する。

もっとみる
力強く、物知り

力強く、物知り

君の苦悩は彼への未練ではなく、
君自身の人生への否定が原因。
彼の攻撃に、君はたじろがない、
仮に彼の言葉がナイフだったとしてもね。
力強く、物知り、
君は力強く、物知りなのだーー
彼よりもずっと。

愛にとって大切なのはたった2つのこと、
つまり、「存在」とその「目的」。
君が「憐れみ」と勘違いしたのは一瞬だけ、
そのうち男の名前なんてどれも一緒になる。
なぜなら力強く、物知り、
君は力強く、物

もっとみる
ゾンビにもハートがあったなら

ゾンビにもハートがあったなら

彼女と2人でドライブ中に、
奴らの襲撃に遭った。
無我夢中で逃げる中、
彼女は背中を噛まれてしまった。
僕は彼女が人間の部分を失くしても、
愛し続けていただろうーー
もしもゾンビにもハートがあったなら。

炎を上げ燃える車、
ショウウインドを割られた本屋。
街そのものが大きな罠で、
どの扉にも恐怖が潜んでいる。
彼女の顔が青白くなっていき、
何かの始まりを示していた。
僕はただただ願っていた、

もっとみる
ガールフレンド

ガールフレンド

10月の酔っぱらいたちが、
四つ葉のクローバーを探して、
3人のアミーゴスたちと騒いでいる頃、
私の言葉は舌を滑り、
彼女の夢は手をすり抜け、
終電は、地球とは逆方向に転がり出した。
木星よりもずっと、
遠くの彼方で、
2人は靴をなくし、途方に暮れている。
しかし、この果てしない距離は、
私にとっては好都合だった、
彼女を近くに感じていられたから。

私はある森を思い出していた、
それは子供の頃、

もっとみる
秋の訪れ/ワールドミッション(ジェイソン・ステイサムに)

秋の訪れ/ワールドミッション(ジェイソン・ステイサムに)

寒い夜だった。
飲み屋街は嘘に疲れ、
店のトイレには夢のない眠りが落ちていた。
私は一瞬しらふに戻り、
その恋人たちを見つけ、
あやふやな自己紹介を交わした。
彼女の笑顔は優しく、輝きにあふれ、
それでいて悲しげだった。
彼氏の方は、まだ子供で、
野生のリスで、
何かが彼を怒らせているみたいだった。

私は聞いていた、
彼が彼女に、
星の数ほど穴の空いた未来を語るのを。
彼の前歯の隙間から、
もれ

もっとみる
ワーズ・オブ・ラブ

ワーズ・オブ・ラブ

「あなたが欲しい」ーー
彼女が私の耳元で囁いた言葉が、
薄い壁からもれる隣人の喘ぎ声のように、
何年もの間、私を煩わせている。
部屋を引き払い、仕事も辞め、
私は車で放浪の旅に出た。
一人きり、地図の隅を走るのは、彼女を
見つけるためか、それとも忘れるためか。

ブッダをもよろめかす彼女の言葉は、
ベッドの上で、私に愛を説いた。
天井のシャンデリアにうっとりしながら、
私は頭を横たえ、彼女の煙草を

もっとみる