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2月

ショーウィンドウ越しの彼女に見とれていたら、
私は親方に頭をこづかれた、
すると突然、空っ風が吹いてきたっけ。
彼女も笑顔でこちらを見ていた、
もしくは大きなアップルパイだったのかな、
とにかく、2月にラブソングも悪くない。

親方は私に「もうクビだ」と言った、
というのも、私は針金のように細く、
すぐに鍵穴を抜け出してしまうから。
店主は物凄いデブで、
私をドアマットくらい踏みつけた、
奴は錆びたダモクレスの剣みたいなもんさ。

そんなわけで、親方が俗物だったために、
私は仕事を失い、
トボトボと、彼女の店の前を通った。
クレープの甘い香りがした、
まるで、オデュッセイアを誘うセイレーン、
難破寸前の海賊船を引き寄せる。

 彼女はエプロンで顔を隠して笑った。
 私は照れながら席に腰掛ける。
 それから彼女はオーブンに火を入れ、
 ケーキの焼ける匂いが空気中を舞う。

私は何も喋らず、
アンティークの食器を眺めてた、
それらはアラブの王が使っていた品々だった。
彼女の名を聞きたかった、が、
狙いがバレるのが怖かった、
私は『創世記』以来、愛から遠ざかっていたから。

 彼女が私の隣りの席に腰掛けた。
 私は肩をこわばらせ、ぶるぶると震える。
 「外は寒い?」と彼女が尋ねると、
 「ぶらつくにはね」としか答えられなかったな。

ココアパウダーにチョコチップ、角砂糖、
マシュマロ、とにかく、そういった物が、
私を夢中にさせてしまった。
彼女の声はとても素敵だった、
けど、アイスよりも早く溶けた、
その味はメソポタミアでも流行ったに違いない。

コーヒーに二人の顔が浮かび、
クソ寒い2月に花が咲き乱れ、
並木道には生クリームが敷き詰められた。
彼女の魅力が私に手錠をかけた、
それでアテネの奴隷商人どもは大笑いさ、
とにかく、2月にラブソングも悪くない。

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