ワーズ・オブ・ラブ
「あなたが欲しい」ーー
彼女が私の耳元で囁いた言葉が、
薄い壁からもれる隣人の喘ぎ声のように、
何年もの間、私を煩わせている。
部屋を引き払い、仕事も辞め、
私は車で放浪の旅に出た。
一人きり、地図の隅を走るのは、彼女を
見つけるためか、それとも忘れるためか。
ブッダをもよろめかす彼女の言葉は、
ベッドの上で、私に愛を説いた。
天井のシャンデリアにうっとりしながら、
私は頭を横たえ、彼女の煙草を吸った。
彼女は寝室でベンガルトラを飼っていて、
時々私のケツを勢いよく噛みつこうとした。
道化師の鼻に、風船の女王、
彼女との生活はまるでサーカス。
もう一度、あの言葉を聴きたい、
彼女の舌からこぼれた言葉を。
好きな歌を何度も聴くように、
レコードが、擦り切れるまで。
「ハニー、君を昨夜見たんだ、
他の男に抱きしめられていたのを」
と、オーティス・レディングの声が、
切なく、カーラジオから流れてくる。
全然まったく彼女の言葉が忘れられない。
世界中を車で回っても見つけられない。
その姿が小さくでも見えるならと、
望遠鏡に目を押し当て、彼女を探している。
彼女がさよならも言わずに消えた日から、
「ハンバート・ハンバート」の車に乗り、
国道16号やマルホランド・ドライブまで、
私は走り回り、彼女の言葉を探している。
彼女の言葉が忘れられない、
それはこの世で唯一の福音。
私の車はカーブを曲がり切れずに衝突し、
ラジオは「命は再生しない」と解説する。
私の魂が体を離れ、頭上の空へ昇っても、
私は聴こうと努め、やがて聴くことだろう、
あの「愛の言葉」をーー
彼女が私の耳元で囁いた言葉を。