環木あんず

東京、渋谷。Chick-flick(チックフリック)というグループでアイドルをしながら…

環木あんず

東京、渋谷。Chick-flick(チックフリック)というグループでアイドルをしながら仮面ライダー見習いをしています。 あと大学生や社畜OLもしたりしていました。

最近の記事

光たちへ

2024年5月25日。 4着の赤い衣装が、私に着られるのをじっと待っていた。 その日、白金高輪SELENEで一つの物語が幕を閉じた。 2021年12月10日に始まったそれは、平坦な道のりとはとても言えない、むしろ大汗をかいちゃうような歩き甲斐のあるもので、読者からしたら読み応えのある話だったと思う。 表紙をめくってから最後の1ページまでの間、 闇に溶けていく夜みたいな日が何回も来て、 そのたびに光が差し込む朝が来たんだよ。 そりゃあもう、トリックスターに成りきって鼻高々に駒

    • 音楽、続けてる?

      高校大学とバンドをしていた友人に、生誕ライブに来ませんかという誘いをしたときのことだった。 「音楽、続けてる? わたしは5月で解散しちゃうんだけどさ、よかったら渋谷で最後の生誕あるからきて〜!」 そこまで打って、送信ボタンを押す手が止まった。 もし、彼が楽器を弾くことをやめていて 夢を奏でることをやめていたとしたら。 もし、誰も教えてくれない夢の諦め方を、 どうにかして飲み込んだあとだったら。 消化しきれなかった彼の傷をあばいてしまうかも。 叶わなかった夢は、グロテスクな

      • かわいく、図々しく

        (※結構前の精神状態の話です。) ー 「かわいく図々しくいる」、その一文を見て衝撃が走ったのは去年くらいのことだったと思う。 これは新宿区歌舞伎町のキャバクラ「revju(レヴュー)」に在籍されていることみさんの言葉である。 日頃のアイドル活動では歌や踊りだけではなくお客様からお金をいただいてお話しする時間(いわゆる特典会、チェキ会というもの)があり、 そこに常々課題を感じていたわたしは、勉強のために接客業のプロである方々のコラムやエッセイなどをよく読んでいた。 その中で

        • 2023

          2023年はとても走り甲斐のある年だったなと思う。 ゴールテープがないマラソンで、エベレストみたいな山も越えなきゃいけなくて、マントルまでいくのかなってくらいの谷も抜けなきゃいけない、汗だくの一年だった。でもまあ、たくさん汗をかいた後ってとても気持ちがいいよね。 個人としては、年初に「特撮に関する仕事をする」という目標を掲げて日々"好き"を発信して、アイドルとしての在り方を研究して、怒り憎悪嫉妬も全部原動力に変えて、とにかく動き続けた気がする。 「頑張らない自分に価値はない

          2022年、某日。

          長い一日みたいな一年だった。 ひび割れた心に日差しが当たるときらきら反射して、ステンドグラスのようにきれいだった。日曜であれば正義を唱え、忙しなく、着々と、わたしがわたしになっていく、朝。 日盛り、女盛り。素敵な音楽が流れる見知った街。古い御守りは猫のおもちゃに変えて、ギンガムチェックで涙を拭いて、ぬるいベッドで大真面目な顔をして、幾つもの意味を孕んだ愛を説く。 逢魔時。魔物に遭遇するだとか大きな禍いが起こるだとか信じられていたみたいだけど、あながち間違いではないのかも

          2022年、某日。

          今日の地獄はカラフルだった

          十人十色なんていうが、今日はその十色に殺されかけた。 わたしの濁った白に、致死量かってくらいの染料を垂らして、そこにまた別の濁った白が押し付けられて、押し潰されて、いびつな模様が浮かび上がっていた。 ばかげたデカルコマニーだ。  デカルコマニーというのは、作者の意図しない偶発的な模様を得る技法で、大人から子供までだれでも簡単に作品を作ることができるらしい。 なるほどたしかに。 くすんだ茶色の上で、 親密さを示す緑と、 毎分誰かのお気持ちを運ぶ青と、 「さ」の予測変換で「

          今日の地獄はカラフルだった

          なにもかもがうまくいかない日

          なにもかもが、うまくいかない日だった。 こういう日ってのは、だいたい月に何度かあって、それは多分、神様がみんなを順番に当てているんだと思う。 高校の数学教師が、「じゃあ問3の答えを…今日は8月7日だから、7番の菊池。」と、日付と出席番号を照らし合わせて生徒を指していったみたいに。 残念ながらその日の菊池さんはきっと英語も古典も現代文も、「7日だから7番の菊池」といって指される。 それと同じように、うまくいかないことも連続して起こる。世界はそういうふうにできている。 そんな日は

          なにもかもがうまくいかない日

          ダンス・コンプレックス

          ダンスを習ってみたかった。 「普段はダンサーをしています」 人生初の整体で正解なのか定かでない力で背中を押され揺らされながら、 普段は何をしているんですかという定型文に対して嘘をついた。 わたしは、ダンサーではない。 ダンスは好きだが、経験はほぼないに等しかった。 習ってみたいという気持ちはもちろんあって、 一、二度親に「ダンスをやりたいな」とジャブを打ったこともあったが完全にノーダメージといった手ごたえで、 幼いながらに「うちは多分、習い事はむりなんだろうな」と、その好奇

          ダンス・コンプレックス

          ていねいじゃないくらし

          仕事のない栞達が順番待ちをしている。 六畳一間のコンビニエンスな地獄で、 鮮度が落ちたシナシナの怒りを添えて、 ひび割れた心を砕いてジャムにして、 冷えたトーストに乗せる。 それを奥歯ですりつぶして酸の海に溶かす。 そうして毎日が消費されていく。 一人暮らし人生で初めて、郵便物の再配達保管期限を過ぎた。 「あとでやろう」で折り重ねた不在票は、バッグの奥底でぺしゃんこのくちゃくちゃになっていて、まるでわたしみたいだった。 保管期間終了を告げるそれを見て、「ああ、終わった」と

          ていねいじゃないくらし

          ネカフェのバイトを辞めた日

          学生時代はいくつかのアルバイトを経験したものだが、その中でもネットカフェのバイトは一番長く続いた。ネカフェバイトちゃんだった私が、あの頃何を思いながらインカムに「シアタールーム3番アップ終了です」と言っていたかなんて何も覚えてはいないが、それなりに楽しくてそれなりにめんどくさい仕事をこなす、それなりに厳しくてそれなりにゆるい大学生バイトのお手本だったと思う。そんなネカフェバイトを辞めた日の日記を発掘したのでせっかくだからnoteにしちゃおう。 ・ かの有名な前店長から「すみ

          ネカフェのバイトを辞めた日

          東京神話

          ベランダを掃除すると、冬はもうとっくに終わったな、と思う。 そしてぬるい風をまとったとき、自由を手に、汚くてきれいな大都会に来た頃のことを思い出す。 18歳の君へ。 これから、君は、「じゃない側」の景色を何度も見ることになる。 努力が報われないってことが、ドラマの中だけの話じゃないと知る。 「人のものを盗むヤツはもっと大事なものを無くす」という天道語録を狂信する。 毎日が駆け引きのレースだから、もたもたしてたら当たり前に先を越されて、「わたしのほうが〇〇だったのに」が口癖に

          愛を勉強中

          プレゼントのリボンを解くとき、すこしだけ寂しい気持ちになるのはどうしてなんだろう。箱を開けたからって、その中に閉じ込められた愛が逃げていくわけじゃないのに。 この数か月、お隣様の愛の交換を間近で見たり、いろいろな愛の形に触れてわたしの中で確実に変化が起きている。 前までは、愛とはなにかって自分の脳内を検索しても、検索結果は1件だったのに、今じゃ複数の検索結果が見つかって、表記揺れもあるし、リンク先が蜘蛛の巣みたいに張り巡らされてるしで、戸惑っている。 醜い感情だ、って思って

          愛を勉強中

          「会社員を辞めて、アイドルになろうと思う」

          髪を金色にしてアイドルをしているなんて、うそみたいだ。 大学を出て、いい会社に勤めて、安定した収入を得て、親を安心させる。そういう選択をするのが人生の「正解」だと、ずっと思っていた。 そう言われて生きてきたから。宇都宮でかけられたこの呪縛は簡単に解けることはなかった。 高校3年の夏、御茶ノ水に憧れて、東京にこれからの夢をぜんぶ詰め込んだ。 EとかDとか、可能性を表すアルファベットに振り回されたり、塾の受講費を計算して泣きながらイディオムを覚えた。 合格祈願のお守りを握りし

          「会社員を辞めて、アイドルになろうと思う」

          最近あったこと

          (ブログ初心者さんみたいなタイトルになっちゃった。初心者だけど。) アイドルをしていると、いろんな言葉をもらう。 今日はいつもみたいにテーマがあるわけじゃなくて、ここ最近忘れたくない感情がたくさん生まれたから、それをまとめようと思う。 いつか私の正義の炎が消えかかったとき、くべる薪にもなるだろうから。 (いくつかの言葉をピックアップしたり総括したりしてるけど私信とかではないよ~) クレカを持ってないひとや学生の子に「オンリーファイブがほしすぎて速攻でバンドルカード登録し

          最近あったこと

          猫耳

          たかが猫耳、されど猫耳。 2月22日は猫の日ということで、ちょうどその日にやるライブでは猫耳をつけた。 わたしは就活のおかげで自己分析が癖になっている(なんかちょっとイヤなキルアだな。癖になってんだ、自己分析するの――)んだけど、環木あんずちゃんは「かわいい」をするのが少し苦手で慣れていない、いわゆる「かわいい初心者」だと認識してる。カッコよくて強くて媚びないものが好きで、いつもと違ったかわいらしい装いをするのは、ちょっと恥ずかしく思っちゃう。 Twitterで「猫になる

          クイーン

          「お客様は、踊れて当たり前だと思って見に来ているから。」 過去に、バーレスク東京という六本木にあるショークラブのオーディションに参加して、すこしの間だけ板の上に立たせてもらっていたことがある。冒頭の一文は、そのときに先輩に言われた言葉。 「踊れて当たり前」、なるほど、そうかそうだよな、お金を払ってショー見に来てるんだからそりゃあそうだ。当たり前のことなのに、言われて改めて気づいた。   バーレスクでは、各演目のいわゆるセンターのような立場を「クイーン」というのだけれど(すこ