東京神話

ベランダを掃除すると、冬はもうとっくに終わったな、と思う。
そしてぬるい風をまとったとき、自由を手に、汚くてきれいな大都会に来た頃のことを思い出す。

18歳の君へ。
これから、君は、「じゃない側」の景色を何度も見ることになる。
努力が報われないってことが、ドラマの中だけの話じゃないと知る。
「人のものを盗むヤツはもっと大事なものを無くす」という天道語録を狂信する。
毎日が駆け引きのレースだから、もたもたしてたら当たり前に先を越されて、「わたしのほうが〇〇だったのに」が口癖になっちゃうよ。
そして、悲しいけど、ヒトの形した誘惑に降参するための言い訳ばかりを考えるようになるだろうね。
失恋の準備は、常にしておいたほうがいい。

それから、宇都宮より色濃い理不尽を何度も味わうんだよ。
勧善懲悪なんていうのは、残念だけど、
この世界じゃ日曜朝8時にしか存在しないみたいで、
いつか自分の正義が凶器になる瞬間を見る。

きみの正義や恋心は、紫紺色に縁取られて、真っ赤な炎に炙られて、
むくむくと育っていくんだ。

数年後のわたしがどんな女性なのか、きっとすごく気になっているよね。
大好きでずっと憧れていた東京に染ま”れ”たわたしが、どんな女性なのか。

でもね実はね、期待に胸を膨らませ…なんて言葉の通り、
あの日風船みたいにパンパンに膨らんだ夢はいまだにしぼんではくれない。
残念だけど渋谷にはまだ住めていない。
悪も討てていない。
白馬に乗った王子様にもまだ、会ってない。

すこしがっかりしちゃったかな。
でもまだすこしだけ、東京神話に騙されていてね。

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