音楽、続けてる?


高校大学とバンドをしていた友人に、生誕ライブに来ませんかという誘いをしたときのことだった。

「音楽、続けてる?
わたしは5月で解散しちゃうんだけどさ、よかったら渋谷で最後の生誕あるからきて〜!」
そこまで打って、送信ボタンを押す手が止まった。

もし、彼が楽器を弾くことをやめていて
夢を奏でることをやめていたとしたら。
もし、誰も教えてくれない夢の諦め方を、
どうにかして飲み込んだあとだったら。
消化しきれなかった彼の傷をあばいてしまうかも。
叶わなかった夢は、グロテスクなほどに眩しいから。
そう思った。


会社員だった頃、「夢があるってすごいよ」「夢を追ってるあんずちゃんはほんとにかっこいいと思う」「あんずさんが夢を追っている姿が好きだな」と、周りのひとたちはそう言ってくれていた。
好きなものを好きと言って、夢を追いかけることが生き甲斐だったわたしは、そう言われるのが好きだった。
それがわたしの誇りだった。

そう、わたしには、ゆめがあって!
ゆめを追うのが、たのしくてしかたなくて!

けれど、時間が経つにつれて、
誇りは焦りになった。
歳を重ねることも怖くなった。

「アイドル続けてるの?」
久々に会う同期たちにそう聞かれたとき、
色なき風を纏いお呼ばれドレスに着られたわたしは、しっかりと答えられていただろうか。
数年前は、迷いなく、曇りなく、YESを自慢げに掲げていただろうけれど。
かつてぴかぴかのスーツに身を包み共に社会の理不尽を学んだ彼らの人生こそが、
模範解答なのだと思ってしまわなかっただろうか。

叶わなかった夢は何になるんだっけ。
呪いかもしれない、傷かもしれない。

だけど。

まだ出囃子は鳴り続けている。
真っ暗闇じゃ絵本なんか読めないけれど、
赤い光がわたしを待っている気がする。

憧れのブロンドを揺らして、
マントを靡かせて、
「最後の1秒までも最大の加速で駆け」なきゃ。


ねえ、
アイドル、続けてる?

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