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読書まとめ『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』→労働疲れで他者の文脈を知る余裕がないから
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅 香帆
一言で言うと
労働疲れで他者の文脈を知る余裕がないから
概要
書店で平積みされていて、
「疲れてスマホばかり見てしまうあなたへ」
という帯の一文が気になって読んでみました。
現代を生きる私たちは、
大なり小なりスマホに取り憑かれています。
まさに現代のドラッグ、もはや奴隷。
本書は、読書文化の歴史を
労働環境の変化と絡めて解説した本です。
現代の読書・労働文化の象徴として、
映画『花束みたいな恋をした』のシーンが
いくつも引用されているのが印象的。
でもライトな本かなと思って読み進めると、
統計や既出論文を引きつつ、
社会に対するガチの論考が展開されていきます。
「読書好きの共感を集める愉快なエッセイ」などではなく、
「労働と娯楽文化に関する論考」でした。
一応、どうやったら働きながら本が読めるか?
という「情報」も、あとがきに記されています。
本稿では、書名の問いへの答えを
自分なりにまとめてみました。
① 労働崇拝:全力で働いて自己実現=かっこいい
明治時代や戦後復興の際は、
立身出世を目指して全力で働いていた。
学歴コンプレックスを埋めるために、
読書で「教養」を身に着けようとする動きがあった。バブル崩壊後、教養や知識よりも、
自分の行動を変えることが注目された。
読書に求めるものは、役に立つ「情報」へ変化。
社会の流れを自分で作るのではなく、
既存の流れにうまく乗ることが重要視されるように。2000年代、労働と自己実現が結びついた。
教養ではなく、労働での自己実現を植え付けられた。
ノイズの多い読書や趣味は、
仕事にのめり込むことを求める社会から排除された。
② 注目経済:奪われたあなたの時間がカネになる
仕事に限らず、資本主義社会は
全身のコミットメントを求める。
私たちの時間を、コンテンツが奪い合っている。
ゲームや動画、SNS を提供する企業からすれば、
24時間そのコンテンツに没頭してほしい。ユーザーが娯楽に投じた時間が
企業利益に直結するようになったことが原因。
ゲームでいえば、ソフトを買って終わりの短期収益型から、
追加コンテンツやグッズ展開、
広告収入などで収益を長期化するように変化。
コンテンツの魅力を高め続け、
いかにユーザーに時間を投じさせるかが重要に。読書・本というコンテンツは、収益の長期化が難しい。
読者になるべく長時間読んでもらおう
なんて思っていない。
リリース後のバージョンアップの機会も限られる。
コンテンツとしての表面上の魅力は、
スマホ(ゲーム・動画・SNS) に劣後せざるをえない。
(ここは本書の内容というより、自論強めです)
③ 単純主義:多様性を受け容れるしんどさ
読書とは、他者の文脈を受け容れる営み。
人間は自分と異なる文脈に対して、
潜在的に抵抗を感じるもの。
受け容れるには、心身の余裕が必要。労働などに全身全霊でコミットメントするのは、
実は楽である、配分を考えなくていいから。
世間もそれを称賛する、全身全霊信仰。しかし、仕事に全集中すれば、
家庭や心身のケアは疎かになる。
全身全霊での労働は、持続可能ではない。ニーチェのツァラトゥストラから引用あり
「自分を忘れるために激務に走るな」。
自分の時間の使い方まで単純化するな。
多様性をちゃんと見つめて、受け容れよう。
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