PKPK(パパッと簡単ぱぱキッチン)10
十一月も下旬となり、私の住む熊本の海辺の街もようやく冬の到来を感じさせるような寒さとなりつつあります。
それでも、まるで残暑の残り香が、秋と冬にはまだまだタスキは渡せないよと、最後の力を振り絞って頑張るような暑い日もあったりと、この季節は不思議な魅力に彩られているなぁと、冬化粧をしている紅葉なんかを眺めながらふと考えてしまいます。
スポーツの秋、食欲の秋、芸術の秋、様々な表現で形容される蜃気楼のような秋ですが、私にとって、いくつか忘れられない思い出があります。
あれは確か、息子と娘がまだ小学校の低学年の時、今くらいの時期に学校で開催された文化発表会、あるいは学習発表会、そんな催し物での一幕です。
息子のクラスの発表は、オリジナルの「劇」でした。
生徒たちみんながそれぞれ色鮮やかな服を身に纏っています。
赤、青、黄色、白、黒、紫・・
考え得るほとんど全てのたくさんの“色”に扮した子供たちが、何やら言い合いをするシーンから開幕します。
「おれは燃える炎の色、赤だよ。この世で一番強いのはおれだ。」
「笑わせないで!わたしは水の青、炎なんてあっという間に消し去ってみせるわ!」
「おいおい、このぼくを差し置いて何を呑気な。ぼくは太陽の使い、黄色様なんだ!この世の支配者なんだぜ。」
「はーはっは!笑わせるなよ。可笑し過ぎて眠たくなるよ。私は夜を司る支配者、黒様だ。どんな色も私の漆黒の闇には敵うまい。」
そんな意見をそれぞれが主張し、この世で誰が一番強くて偉くて王様なのかを話し合っています。
そしてその必死な会議は、なかなか結論には達しません。
そこへ、小さな子供が二人、やって来ます。
どうやら男の子と女の子のようですが、これまた不思議、どう言う訳なのか二人の姿はまるで見えず、声だけが聞こえます。
「ぼくたち兄妹は、生まれつき色がないんだ。透明って訳さ。」
「そう、お兄ちゃんの言う通りなの。いつか自分達の色が欲しくて世界中を旅して回ってるんだけど、なかなか似合う色がなくて困ってるの。」
「それに、世界にはたくさんの色があって、どうも二つだけ選ぶってのは難しいね、そんな話を妹としながら歩いていたら、君たちが言い争いをしていったって訳なんだ。これだけの色くんたちが集まってるなんて、今日は何か特別なお祭りでもあるのかい?まぁ、あいにくこの雨じゃぁ、花火も出来ないねぇ。」
突然、緑くんが話し始めます。
「そうだ!!いい考えがある!この小さい兄妹に、どの色になりたいか決めてもらえばいい!選ばれた色は、それだけ魅了的ってことだよ。つまりは偉いのさ。偉いってことは強い、強いからには王様にふさわしい。いい考えだとは思わないか?みんなどう?」
「いいわ!」
「いい考えだ!」
そしてそれぞれのアピールタイムが始まります。
どの色も、決して譲ろうとはしません。
「さぁ、君たち二人は何色を選ぶんだい!その色を君たちにあげようじゃないか。そうしたらもうそんな声だけの生活なんかしなくていい!」
「えっと・・」
「う〜ん・・」
女の子がこう言います。
「どの色も素敵だな。だって燃え盛る炎も大切だし、海の青もとっても大事。お日様ばっかり仕事をしていたら疲れちゃうから、夜の暗さも大切だしさ。でも真っ暗だと道に迷うから、橙色の灯りも必要でしょ。紫色がなければ紫陽花って漢字もなくなるし、そしたら雨宿りするカエルさんが可哀想だもの。あ、それに紫陽花を風から守る茶色の樹も、緑の葉っぱもみんな大事だわ。白い画用紙がなければ絵日記も書けなくなっちゃう。あぁ、お兄ちゃん、どの色が一番偉いの?ケンカになるくらいなら、わたし、透明のままでもいいよ。だって黙って声を出さなければ、誰にも気づかれないし、言い争いをしなくて済むもん。お兄ちゃん・・」
今度はお兄ちゃんが意を決したように声を発します。
「ぼくはこう思うよ。みんなが偉いんだ!全部の色がオンリーワンで、他の色にないものを持っている。だからみんながそれぞれ一番なんだ。ひとつでも欠けたら、この世の全てがダメになってしまう。だからぼくたち兄弟に、どれかを選ぶのは無理なんだ。だから、みんなが争わないように、このまま透明でいたいと思ってる。さよなら、みんな。楽しかったよ。」
「待って!!」
赤くんが叫びます。
「そうだ!待ってよ!」
紫ちゃんも必死です。
黒くんが言います。
「みんな、ぼくたち、何か大きな勘違いをしていたんじゃないか?」
「そうだ、それを今考えていたところだ!」
「そうよ!私たちみんながそれぞれ仕事を持っていて、お互い知らないうちに支えたり助けられたりしているわ。」
「それならさ、この子たちにどれかを選ばせるんじゃなくって、みんなが少しずつ自分の色を分けてあげたらどうだろう?そうしたらみんなの力が行き渡るし、仲良くなれる。」
「賛成!!」
「反対の反対!!」
あれほど言い争いをし、決して折れそうにもなかったみんなの意見が一致しました。
「さぁ、ぼくたちの色をどうぞ!」
「これからはみんな友達よ。今まで透明な体にさせていてごめんなさい」
「わぁ、ありがとう!みんなほんとにありがとう」
雨はすっかりあがり、空にはお日様が顔をのぞかせています。
そして二本の、キレイな虹が現れました。
そしてどこからかこんな声がします。
「みんな、こんな素敵な色をありがとう!」
「私とお兄ちゃん、雨が止んで小鳥がさえずる時、みんなに感謝の気持ちを伝えるために、虹となって現れます。」
ケンカをしていた色たちが空を見上げて手を振ります。
そしてその手を繋ぎ、観客席にペコリと可愛いお辞儀をして、温かい出し物が終わりました。
私には、それが単なる終わりではなく、何かの始まる合図のように思え、他の保護者に交じって大きな拍手を送っていました。
拍手は、なかなか鳴り止みませんでした。
つい先日、子供達が帰省した時、その懐かしい思い出話に花を咲かせながら晩御飯を食べました。
「しゅんの透明くんの役、結構難しかったでしょ?」
「お兄ちゃんたちのクラスの劇、あの時はなんか難しくて意味がよく分からんかったけど、今考えたら深い意味がありそうやね!」
「パパもさ、あの時先生がバックミュージックで弾いてたピアノの、世界にひとつだけの花が今でも頭の中に残ってるよ。あと、最後辺りでみんなが歌ってた、ブルーハーツの青空って曲、パパ大好きなんだよなぁ。」
そんな話をしました。
子供たちがいる間、みんなで食材を買いに行き、いろんな料理に挑戦しました。
まずは我が家の定番、鍋料理です。
塩ダレとニンニクをベースに、手作りのつみれやニラをたっぷり入れました。
慣れない味に挑戦したので何度も味見をしているうちに、白髪染めをしているのをつい忘れてしまい、慌ててシャワーを浴びました。
この日の朝ごはんのお供に、自家製の紅しょうがを加えてみました。味が染み込んでいてほのかに甘く、連休だったのでついビールを飲んでしまいました。
ひき肉に豆腐やしょうが、ニンニクなどを加えた、少しへんてこりんなハンバーグです。
暖かい一日だったので、お弁当を作って近くの公園へプチピクニックに出かけました。
お弁当の具は子供たちが大好きなものばかりで、分からなくならないように娘がマジックで書いてくれました。
うってかわって寒い夜、冷蔵庫にある食材でおでん風鍋を作りました。とにかく一年を通し、鍋料理が多くてびっくりします。
子供たちが帰省した日、妻の二十一回目の命日でした。
私の妻は、娘が間もなく一歳になろうかという秋の終わりに、病気の為天国へと旅立ちました。
子供たちとお墓参りに行き、ママが大好きだった柚子味のお酒をお供えしました。
私も、そして子供たちも、あの日からたくさん歳を重ねました。あっという間の時間で、バタバタと走り回った慌ただしい日々です。
妻が残してくれた小さな小さな種は、大きな芽を出し、たくましく育ってくれました。
朝ごはんの時も、お昼も夜も、私たちの食卓には必ず四人分の箸とお皿があります。
子供たちのアイデアで、ママの分もいつも用意してご飯を食べるようにしています。
いつかまた、再び出会う日が来たら、懐かしい話をしながら、笑って食事をしたいです。
家族四人の団欒が、何より大きく、小さな小さな夢です。
その日が来るまで、妻が大好きだった鍋料理を作り続けるつもりです。
アルバイトがあるらしい娘を市内へ送り、夕方息子と二人、海岸へ散歩に出かけました。
渡り鳥が群れを成して飛んでいました。
世界にはたくさんの人がいる。
みんな違う色を持っていて、どの彩も美しく輝いているのだと、そんな少しだけ、思想的な話をしてしまう秋は、やはり不思議です。
あした天気になぁれ!!